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自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」 Posted on 2020/10/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ついに、自主隔離が終わる。明日から自由の身だ。
こんなにうれしいことはない。シャバダバシャバダバ~。
周囲を気にせず、日中、堂々と歩くことが出来るのだ。
思えば長い二週間であった。こんなに一つの場所から一歩も出ず、半月もの時間、じっとしていたことはない。
パリ・ロックダウンの時でさえ、周囲を一時間走ることは出来たし、買い物も出来た。
でも、自主隔離は法的拘束力はないものの、ぼくのような神経質で生真面目な人間には何よりも厳しい措置ということが出来る。

自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」



むかえの会社の警備員さんが朝から夕方までずっと立っていて、お仕事ご苦労様です、と思っていたら、ある日、目が合ってしまい、思わず挨拶をするようになった。
手をふったら、笑顔で頷いてくださった。隔離期間が豊かになった。
外に出たら、まず、ご挨拶に行かなきゃ。
その隣のビルの屋上では、毎日決まった時間に筋トレやってる人がいたし、物凄い数の洗濯物を抱えて上がって来て干す人もいたし、ご年配のご夫婦でチャーミーグリーンな犬の散歩姿もかわいらしく、カラスの行動半径なんかも詳しくなったし、夜明けのコンビニ配達車が多くなる時間帯とか、屋上でお弁当食べてる若い会社員の人たちもいたり、いろんな東京の顔を見ることのできた二週間であった。
ビルの谷間に落ちる夕陽やそこに現れる月なんかを…。それはそれで癒されたし、楽しかったのかも。



ジュリアンが昼前に、水や野菜などちょこっとだけ最後の宅配をしてくれた。
「ありがとう」
ぼくはドアから少し顔をのぞかせて、言った。
「おじさん、元気そうすね」
「(低い声で、微笑みながら)ジュリアン君、おじさんちゃうやろ~? 何度言えばわかるのかなぁ~」
「あ、ムッシュでしたぁ。すいません」
ぼくらは笑いあった。心の中で、カッチーーン。
「でも、ジュリアン、君のおかげで後半は人間らしく生きることが出来た」
「いえいえ、困ってる時はお互い様です。あ、おじさん、あの、作家のおじさんに一つ相談してもいいすか?」
おじさん、言うとるやんけ。💢
「もちろん、余裕っす」
先に言ってやったら、ジュリアンが笑った。
「あの、俺、恋人がいるんですけど」
「いいじゃん」
「ええ、でも、年上なんです」
「いいじゃない。今は普通だよ」
「でも、ママに年齢が近いんですよ。20歳年上、どう思います?」
ええええええ、と声にならない声で、顔には出さず、平然を装った父ちゃんであった。
「ママ、知らないの?」
「知ってますよ。ママもパパにも、ぼく隠し事出来ない性格だから」
※ちなみに、ジュリアンというのは仮名なのでご安心を。お母さんはメグ太郎だけど、それはぼくだけが呼んでる呼称なので、彼らがぼくとの交友関係を周囲にあまり話してないので、書かせてもらっています。もちろん、了承をとる予定。
「じゃあ、問題ないんじゃないの?」
一時の気まぐれ、そういうヤングラブもあって普通だから、と内心考えていた。
「ですねよ、よかった。で、おじさん、今週末暇ですか?」
「は~? と申しますと?」
「ミツミちゃんに会ってもらいたいんです」
来たっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。



ということで急転直下、ぼくはミツミちゃんと銀座周辺で会うことになった。
ぼくが真っ先に思ったのは、息子のことだ。
もし、息子がジュリアンだったら、なんとアドバイスするだろう。
息子じゃないから、平気な顔で、会ってもいいよ、となったが、ジュリアンのことを思えば、いい加減なことは言えない。
「年上とか大丈夫なの?」
「余裕っす」
カッチーーン。なんだよその軽さ!
「とりあえず、もし会うなら、メグ太郎に隠せないから電話で話してもいいよね? ミツミさんに会うことになったけどって…。あ、メグ太郎と4人で会いますか」
「いや、ママとミツミちゃんの仲を取り持ってもらいたいから、今回は3人で」
ということで、難しい問題勃発である。
メグ太郎やミツミちゃんがこの日記を読んでるかもしれないので、迂闊なことは言えないし、書けないし、さて、困った、父ちゃん。
とまれ、この話しはひとまず、ここまでにしておく…。日記なので、この話しの続報がない場合は、問題が深刻化したと思って、一旦、忘れてもらいたい。えへへ。

気を取り直し、昼食に、インスタントラーメンを食べることにした。
面倒みなきゃならない息子がいないので、食材はあっても、面倒くさいから、自分のために料理をしたいとは思わない。
さすがにちょっと荒んだ感じなのでインスタとかにはアップできなかったけど、学生に戻った感じでなかなか楽しかった。
コンビニ弁当は貴重品だし、量も多いから、たとえばジュリアンが買ってきてくれたメンチカツカレーとかは半分昼に食べ、残りは夜に回す質素な生活ぶりとなった。
一日460円で済ませたりしていた。お金がたまる~。笑。

自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」

※食べかけではありません。半分をお皿によそって、残りは冷蔵庫に。新製品らしいです。カレーは美味しかった。

自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」



インスタントラーメンは日清の「すみれ」が極旨で、これを20個パリに持って帰り、作り方を印刷して友だちに配ろうと決意した。
リコに「日本の最高のインスタントラーメンを買ってきて」とリクエストされていたので、迷わず、これ!
パリの連中にいつも世話になっているし、毎日メッセージが来るので、相当のお土産を買って帰らないとならない。
まず、そのために安いトランクを一つ買わないとならないレベルだ。
これからセレクトが楽しみでしょうがないけど、「すみれ」は当確。



ぼくが食べた隔離期間中のコンビニ出来あい3絶を発表すると。
1位がセブンイレブンのイタリア栗のモンブラン
2位がナチュラルローソンのさば味噌煮缶詰
3位がナチュラルローソンの焼きそば
だった。

自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」

※ちゃんと撮影しとけばよかった。セブンさん、ごめんなさい。でも、食べたことあるよね? マジで、美味しかったです。

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※さば缶、ちょっと大量に買って帰る予定。
※下の焼きそば、食い散らかしている風景、現実の父ちゃんの隔離生活なんてこんなもんす。ビール飲んで、のりたまとか焼きそばにふっちゃって、かなりのオヤジ飯。いつも気取ってるけど、真実の姿大公開です。嫌いにならないで~。

自主隔離日記最終回「ついに自主隔離が終わった。明日からシャバに。いや、大問題勃発」



このモンブランは別の器に移し替えて、フランス人に出したら、間違いなく、驚くレベル。企業努力、凄いね。
さば味噌煮缶、なんたってさばがでかいし、脂がノってるし、味噌加減もかなりよかった。そもそも缶詰臭さがない。
三位の焼きそばは、ジュリアンの推薦だったが、期待もなく口に入れたら、あ? 美味しい!でした。また食べたいなぁ。
コンビニで買ったものにちょっと工夫をすると、見違えるようになることも分かった。
とくにインスタントラーメンなんかは遊び甲斐がある。
刻み葱、卵、コーン、梅、海苔なんかを加えると、ほら、ゴージャスでしょ?

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まだまだいろいろ試したいところだけど、でも、身体はそろそろシェフが作る料理を食べたい、と言うてるし、ここからは自由の身になるので、バカンス気分で仕事の合間に美味しいものを食べ歩きすることにしよう。
せっかくだから、ツジログ、でも、やってみるかな。

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