JINSEI STORIES

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」 Posted on 2020/10/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、あと中二日くらいで自主隔離が終わる。おかげさまで、咳も出ず、熱もなく、体調は万全な状態なので「無菌無敵」で出て行ける。
この間にパリでは、夜間外出禁止令が出され、テロがあって息子の友人の先生が殺害されたり、驚くべきことが立て続けに起こるという散々な日々。
でも、一番大変だったのは隔離三日目の土曜日あたりから先の土曜日までの一週間、今だから言うけれど、地獄だった。
毎日、厚生労働省のAIアプリから「熱はないですか」と質問が来る。いいえ、と押しながら、「コロナ、去れやぁ」とぼくはブツブツ呟いていた。あぶないあぶない。

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」



国民の義務だから完全に従うことを決意して挑んだけど、何度か挫け、心の変調を覚えた。
心臓の周りに赤いブツブツが出来、はっきり鬱っぽい精神状態の日があった。
この赤いブツブツは心がぐんと落ち込む時に出てくるぼくの身体の特徴で、要は悲鳴である。
そういう時は、とんとんとん、をやるのだけど、今回の隔離期間中、とんとんとん、すりすりすりの回数は半端なかった。
実はちょっと心がやばい瞬間もあった。
なので、もう一度帰国してほしいという要請があっても、はい、今すぐ、とはもう言えない年齢かもしれないな、と思った。
コロナを恐れることよりも、心を守ることの方が大事だってことに気が付いた。
で、ふと思ったのは、日本の自殺者が月1800人も出ていることと「コロナ禍」との関係はゼロじゃないな、と…。
コロナに罹っても無症状がほとんどなので、命を守ることを考えてあまり神経質にならないでほしい、と自分が大変なくせに、今日はそのことを言いたくて日記を書かせてもらっている。

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」

幸いなことにぼくが滞在している宿は高層階にあるので見晴らしがいい。
ベランダから見える日本の空がぼくの心の癒しと励みになった。
太陽が去ると、そこに新月が出現し、おおお、と思わず大声を張り上げた父ちゃんだった。
これで隔離が明ける。
やっと日本への入国が許可される喜びが近づいてきて、ぼくの赤いブツブツも消えた、その瞬間に。
不思議だね。



雨が上がって、真っ赤に燃え上がる夕焼けから暮れなずむ東京の夜景を眺め、パリの友人たち、ピエールやリサやオディールやアドリアン、パトリックなんかにがんがん写真を送り付けてやった。えへへ。

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」



みんな口を揃えて、「東京、行きてー」と返事が来るので、「フランス人は入れない~、頑張って陽性率下げてから出直せ~」と返してやった。いひひ。
そう、今、フランスは秋のバカンス時期だけど、フランス人を受け入れてくれる国はギリシャしかない。
ギリシャの感染拡大に繋がらないか、心配しているけど、…。
感染者ゼロのクレタ島やサントリーニ島が心配である、と彼らには嫌味を言っておいてやった。
えへへのへ。

昨日、欧州だけで一日の感染者数が15万人に達したのだ。
現在、欧州は第二波ど真ん中なのである。
ベルギーは一千万人の人口しかないのに毎日一万人の感染者が出ているというとんでもない状態で、オランダ、チェコ、イタリアをはじめ、イギリスやスペイン、イタリア、ともかくどこもかしこも凄まじい感染者の増加、もっともPCR検査を相当数やっているから出るのは当然なのだけど、第一波の時ほどではないけど致死率もじわじわ伸びていて、集中治療室がひっ迫しつつある。
日本は、外からの観光客をある程度、自主隔離させる現在の方法を持続させるべきかな、とぼくは個人的に思っている。
自主であることへの批判もあったけど、抑止力には間違いなくなっている。
フランスなんていまだに出入り自由なのだから、そりゃ、感染者は増えるよね。

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」



アメリカも今、再び感染が中西部を中心に急拡大中で毎日5万人を超えているらしいけど、大統領選を前に全米各地で集会が開かれていて、トランプ陣営の集会はマスクしないである意味濃厚接触が続いているだろうから、それが原因じゃないの? と思わず言いたくなる。

今日、感染大拡大中の中西部ミシガンで集会を開いたトランプ大統領、数千人の支持から感染予防策を徹底するウイットマー州知事を「投獄しろ」と大合唱が起き、大統領はこれを否定せず驚くべきことに応じ「全員投獄しろ」とあおった。
行き過ぎどころか、テロをしろと命令しているようなものだ。
彼を支持する危険分子たちが暴力を使って、ウイット―氏を攻撃する可能性が高まった。
もう、こうなると尋常じゃない。

ぼくが一番、恐れているのは、トランプが負けた時である。
彼の熱烈支持者たちが、何をしでかすか? 
内乱?
テロ?
想像しただけでも、背筋が凍る。
トランプが負けた場合、ぼくらは最大級の警戒をしないとならない。

舞台の上から手裏剣のようにマスク投げる、ヒーロー気取りの大統領とその姿に歓声を上げる支持者、常軌を逸しているように見えるのはぼくだけ? 
21万人もの人がなくなっているというのに、…。
欧州の人たちからすると「とんでも大統領」なのだけど、やっぱそこがアメリカなんだ。
根強くプレスリー、キャデラック、カウボーイ的なものが好きなアメリカ国民の心理をうまく擽るトランプ大統領…。
バイデン氏が10ポイント差でリードしているというのものの、その差は実際にはほぼないと思う。

現職の大統領が、ミシガン州知事を「投獄」しろと国民の前で叫ぶ、この異常事態。
アメリカの暗殺の歴史、再びにならないことを祈りたい。



さて、話しを戻そう。
自主隔離が終わったら、マスクをしっかりとつけて、美味しいものを食べに行きたいなぁ。
今回、テレビの仕事がいくつかあって、タイタンさんに招へいされてやって来たものの、隔離されている間になぜか予定されていた番組がキャンセル、思わず時間が出来た~、笑。
日本の秋の美味しいをいっぱい味わってパリに帰ることにする。

ぼく、何しに来たの?
日本の美味しいもの食べに来た~、笑。

ということで、自主隔離最終週に突入した記念に、今夜はナチュラルローソンさんの新鮮な小松菜で、パスタを作った! 
ブラボー!

自主隔離日記「あと少し。自主隔離、最終コーナーに入った父ちゃんの奮闘記」

自分流×帝京大学
地球カレッジ