JINSEI STORIES
退屈日記「街の哲学者アドリアンから、日本国民への深夜の提言」 Posted on 2020/08/01 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日の夜、アドリアンと現在の感染拡大を続けるコロナ禍の日本の現状について話し合いをした。デザインストーリーズの過去記事を彼にみせ、実は多くの読者が君のアドバイスに励まされてきたのだ、と説明した。その上で、日本の現状について、感染者数の日々の増加や、マスク8000万枚の迷走、国会が開かれてないことなど、またここ最近の感染者の急増を現すグラフなどを見せて説明した。その上で、日本は、日本国民はどうしたらいいのか、をぶつけてみた。お礼に彼の好物の生ビールとピザをごちそうした。話し合いは2時間ほどに及んだのだけど、興味深い部分もあるので、要点を以下にまとめてみる。話しの導入として、政府はあまり頼りにならないので、国民一人一人が自衛、防衛をしていくしか方法がない、とぼくが訴えてきたことへの彼の反論から、紹介したい。
「それはちょっと違ってると思う。というのは、前提として、国民一人一人が自衛としてマスクをし、手の消毒をするのはもはや当たり前のことになっている。けれども、それでCOVID19を撃退出来る状況にないことを強く認識しないとならない。新型コロナのような感染症パンデミックを最終的に収束させるためには、個人の努力は当然必要なのだけど、何よりも大事なのは政府の力だ。強い危機管理能力を持った賢い政権がどうやらこの地球上ではコロナ封じ込めに成功をしている。失敗している国を見るとよくわかるが、アメリカには国民を守るという危機管理能力がないことが判明した。私には、6600万年前に絶滅した恐竜とアメリカが重なって見える。日本で感染拡大が急激に起きていることは不思議ではない。日本政府の危機管理能力に問題がある。まず、このような状況下で国会が召集されていない日本は、国民に非常に悪いメッセージを与えることになる。政権の末期的症状が運悪く、コロナ拡大時期とぶつかっているように分析する。政府は消極的にならず臨時国会を召集して、全力で感染拡大封じ込めをやる必要がある。日本国民は真面目で統率力があるので、政府がその優秀さに甘えているのが分かる。国会が開かれていないことは異常で、どんなに国民一人一人が自衛をしても、それだけでは足りなすぎる。若く行動力のある政府が日本には必要かもしれない」
「実は、北フランスに位置するリール市で、公共施設内だけではなく外でもマスクの義務付けがはじまった。フランス国内で感染拡大を続ける地域でこの新しい試みが始まっているが、私の予想では9月以降、パリでもそうなると思う。フランスの実効生産数が1,3に迫っている。もはや再びロックダウンせざるをえない数値まであと一息というところだ。けれども、ロックダウン開けと共に起こった市民の危機感喪失は甚だしい。公共施設内だけではなく、外でも付けることを義務付けることでロックダウンはしないが、近い危機感を呼び覚ますことが出来る。日本の場合、感染者数の増加が続けば、実際、実効再生産数はフランスと変わらない状況なので、日本はまず全土でマスク着用を義務化するのがいいと思う。食事をする時以外は完全マスク着用だ。もともと日本人はマスクをする国民性だが、そこに大きな抵抗感はないだろう。しかし、それを守らない者はどんな優秀な国にもいる。マスクを付けない者たち、つまり危機意識の少ない者たちからクラスターが起きているのは、明らかだ。マスク着用を徹底することで意識を上げることが出来る」
「休業要請の問題は私にはわからない。日本の法改正に関する問題は門外漢なのでコメントできないけれど、休業要請をするならば、飲食店を潰さないための補償が課題となる。経済を回しながら、感染を押さえるパラドクスは世界中、どこの政府も抱えている問題だと思う。欧州の各国は現状、ロックダウンへの再突入は難しい。けれども感染が再び猛威をふるい、病床がひっ迫すれば、やらざるを得ないだろう。その前に、全土でマスク着用を屋外でも義務化、テレワークの推奨じゃなく義務化、飲食店や劇場など感染の主戦場となる場所への規制強化をやるべきだろう。それでも、第一波と同じ状況が近づいてきたら、フランスは短期間のロックダウンをやる可能性がある。その場合、シェンゲン協定を結んでいるEU全加盟国が同時に行うのがいいと私は考えている。欧州国家間の移動を効率的に短期間で止めることで、航空産業などへの被害も最小限に抑えることが出来るからだ。感染拡大が間違いなく起こるに違いない年末が有効だと思う。私が政府首脳陣であればクリスマスを狙い撃ちする。12月10日からクリスマスイブの24日までの限定的なロックダウンがいい。家族と過ごすクリスマスは回避する。この世界的パンデミックを阻止するにはそのくらいの強い大胆な措置を講じないと回避できないということだ」
「アメリカの没落が意味することは、世界の覇権地図の様変わりを齎すことになる。恐竜が絶滅した後に人類が登場したように、アフターコロナの世界には新たな体制が出来るのだけど、暫くのあいだ、もしくは私が生きている間は、この世界の不安定化が増すように感じる。アメリカの国民総生産(GDP)が前の三か月に比べ32%も減少したことの壊滅的意味は無視できない。リーマンショックの4倍の減少率だからだ。これが日本に及ぼす影響は半端ないだろう。日本とアメリカは、欧州とアメリカよりも強固な関係にあり、日本の繁栄はアメリカの庇護のもと、アメリカの核の傘のもとに、生じた繁栄だったからである。新しい世界地図の中心には中国が位置する。これを阻止する運動がアメリカを中心に起こっているが、どのくらいの成果が出るのか、私に推測は出来ない。ただ、鍵を握るのはアフリカ大陸だろう。欧米がおざなりにしてきたアフリカ大陸での主導権を握っているのは中国だ。日本もずいぶんとアフリカを支援してきたが、規模感で負けている。中国がアフリカを変える。私は11月の大統領選でアメリカが民主党を選んだ場合、アメリカの没落は早まると思っている。トランプは嫌いだけど、現状、アメリカの没落を私は希望しない。リスクが多すぎるからだ。ある勢力は中国の民主化を画策しているだろう。どういう手があるのかわからないけれど、アングロサクソン・グループは、絶滅しないために、あらゆる手を駆使してくるように思う。トランプがアメリカのトップでいることはその勢力にとって都合がいい。なので、11月までにその勢力はトランプを炊きつけとんでもないことをやる可能性がある。それがどのようなことかは、憶測を超えるものじゃないけれど、火種の一つはアジアだ。ここは警戒しておいた方がいい。なぜなら、日本が地政学的に必ず巻き込まれる問題を孕んでいるからだ」