JINSEI STORIES
退屈日記「雑感」 Posted on 2020/07/31 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、朝起きたら必ず日本のニュースをチェックするのだけど、東京都の感染者数が463人になっていた。PCR検査の数が少ない日本でのこの数字は、かなり気がかりで、ぼくはこれまでのやり方を、政府も東京都も変えていく必要があると思っている。「積極的に検査を増やしている」という言い方はもういいので、本当に何が起こっているのかをしっかりと出していく方が重要だ。
フランスはPCR検査を一週間で70万件やるのだが、日本は人口が倍なので140万件やらなければ、何が起こっているのかを掴めないのかもしれない。ここまで検査をすると、東京都の感染者数はびっくりする数に増えてしまう可能性があるのでオリンピックを控えた日本政府としては「やりたくない」のかもしれないが、これは間違えた考え方だ。安全な国のイメージを出したい気持ちはわかるけど、本当の安全が必要なのは国民なので、検査をやって、一つ一つ潰して抑え込んでいくしかない。欧州の国々はロックダウン後、「検査―隔離」を徹底的にやってきた。コロナはこれまで以上の速度を持って勢力拡大しているので、のらりくらりかわしているだけじゃ、もうどうしようもない。なんとか日本政府には奮起してもらいたいけれど、マスク8000万枚の話しも二転三転して、苛立ちを国民に与えているし、四連休のGOTOトラベルが原因で感染が拡大した場合などを考えると、思考が停止してしまう。
それにしても、今年は大変な年になったものである。今日、映画「真夜中の子供」の制作会社「株式会社uk」からこのような連絡が届いた。「弊社では新型コロナウイルCOVID-19の影響により休業をしておりましたが、感染状況の経過を踏まえ、8月1日より業務を再開することといたしました。(途中略)また、映画「真夜中の子供」の製作も新型コロナウイルスの影響により当初のスケジュールから変更せざるを得ない状況でありますが、2021年以降の完成に向け進行しています」ぼくのところにも代表の人から連絡があり、続けたいと思っている、ということだったが、簡単ではない。ぼくに出来ることは何かと考え、監督料なども制作会社に全て返し、人件費などに充てて貰った。ぼくも生きていかないとならないので、ずっとボランティアというわけにはいかないが、乗りかかった船という言葉もあるし、伝統山笠を含む博多愛の作品なので、投げ出すつもりはない。しかし、こればっかりは小説と違って集団創作なので、多くの人たちの協力も必要となる。気を引き締めつつ、どうなるか、様子を見守っている状況なのだ。
映画とか演劇とか音楽はもろに影響をかぶっていて、厳しい状況が続いている。ぼくの今年春に予定されていたライブも来年5月30日に延期になったが、その時にならないとどういう状況になっているのか分からない。制作プロダクションの方々は、何が何でも成功させたいというので、安全策などについて、話し合いが続いている。オーチャードホールなので、空間もかなり広く、席もゆったりしているので、この会場にあった安全対策をしっかり整えていきます、と製作サイドの人は決意を語った。ぼくに出来ることは何だろう、と考えない日はない。でも、これは映画や音楽の業界に限った話しではない。飲食業の人たちはもっと厳しいのじゃないか、と思う。客足が戻ってきているところへ来ての感染拡大、これは本当に残念でならない。旅行業の皆さんも、GOTOは歓迎でも、ウイルスを持ってこられたくないというのは各観光地の本音でもあるはずだ。
そして、今日は、7月最後の日である。8月はもっと気を引き締めていこう。フランスの実効再生産数は今日、1,29に上がった。インフルエンザは1以下なので、自然に消えるが、1,29は増えていくという警告の数字でもある。最近、かなり油断気味の自分がいる。戒めなければならない。