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滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」 Posted on 2020/06/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨夜、夕陽が沈みかけた頃、21時過ぎだと思うけれど、ぼくの部屋のベランダの向こう側にある建物の屋根の上にカモメの親子を発見した。ご主人と奥さんが2匹の小さな赤ちゃんカモメを育てている。お父さんは子供がトンビなどに食べられないよう、塔の上で見張っていて、外敵がやってくると果敢にも追い払っていた。お母さんカモメは赤ちゃんたちに寄り添い、世話をしていた。人間と全く一緒なので、心が温かくなった。親カモメは子供たちに餌を探しに行き、持って帰ってくるのだろうな、と思ったら、胸がぐっとなった。そこで自分のために買っておいたバゲットをリュックから取り出し、丸めて、通りを挟んだ反対側の屋根目掛けて投げつけた。3回投げて、全て着地したのだけど、少し離れた場所に落下したせいか、カモメさんたち気が付かない。

滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」

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滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」



「おーい、ぼくはけっして怪しいものじゃないし、そのバケットは結構おいしいんだよ。お口にあうかわからないけど、よければ食べてみてくださーい」
と一応、お声がけしておいた。フランスのこの時期は10時過ぎまで明るい。太陽が海の向こうに沈んでしばらくは光りがあり、夜という感じはしない。優しい時間でもある。
もしかすると、ぼくのことを警戒しているのかと思い、窓をしめて部屋にもどった。
息子のことが気になり、
「大丈夫? 問題ない? 食べた?」
と心配メールを送ると、まもなく、息子から、
「ウイ」
と戻ってきた。相変わらず、返事は短い。
運転疲れもあり、眠い。ベッドに潜り込んだら、寝落ちしてしまった。旅先だからか、久しぶりの爆睡となった。

目が覚めると、朝の6時だった。カーテンの隙間から外を見ると、お、いる。しかも、昨日ぼくが投げたバケットを嘴で加えているじゃないか。ぼくは慌てて携帯を掴み写真を撮影した。

滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」

一人で食べちゃうのかな、と思って眺めていると、不意に飛んでそこより少し上の屋根のところにいる赤ちゃんたちのところ行き、なんと、バケットを見せた。
「ほら、お母さんが美味しい朝ごはんを見つけてきたわよ」
とぼくには聞こえた。
あかちゃんカモメは、キー、キーと甲高い声を張り上げながら、お母さんのところに集まって来た。小さいのが二匹いる。
「ママ―、おなかすいたよー」
「早くちょうだいよー」
とぼくには聞こえた。すると、お母さんカモメ、自分もおなかがすいているだろうに、まず、子供たちにそれを与えたのである。めっちゃ感動的な瞬間であった。

「かわいいーーーーーーーーーー」

滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」



子供たちがそれを争うように食べている。お母さんが食べる分がないので、ぼくは急いで部屋に戻り、残っていたバケットを丸めて思いっきり投げた。あの、道を挟んだ反対側の建物の屋根にちゃんとバケットを投げられる自分の投球力にも驚いた。元野球部ではない、元柔道部である。

滞仏旅日記「カモメの親子、人間に負けない家族愛に感動の巻」

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旅先でしか出会うことのない感動的な場面であった。そして、生まれてはじめてカモメの赤ちゃんにも出会った。カモメの赤ちゃんとお母さんカモメの生活に参加出来て嬉しかった。でも、彼らは彼らで生きて行かないとならない。過酷なこともあるのだろう。この家族がこれからも幸せであることを願う。しかし、虐待とかはなさそうで、人間社会を見るより、安心することが出来た。親の仕事について教えて貰うことも出来た。本能というのは凄いね。この星は人間だけのものじゃない。カモメさんたちに教えらえたことが大いにあった。そこで、息子に
「朝めし、ちゃんと食えよ」
とメールをしておいた。寝てるのだろう、返事はない。さて、父ちゃんの旅は続く。

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