JINSEI STORIES
暮らし日記「フランスのスーパーで大人気の日本菓子? え、そっくり」 Posted on 2020/06/22 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスのスーパーに日本でなじみのくりそつ菓子がある。渡仏した20年近く前にまず発見したのがMIKADOで、見た瞬間、えええ、これ「ポッキー」じゃんとひっくり返った。もちろん、買って帰って箱を開けてみると、やはりポッキーにそっくりなのである。食べてびっくり。初期のポッキーだ。今の進化した豪華なポッキーじゃなく、出始めの頃のポッキーそのものだった。パクったな? フランス。と思いきや、、、
MIKADOは日の丸を連想させるパッケージで、隅っこに小さく「glico」のマークが入っている。あ、これはグリコとの提携商品なのだ。そこで徹底調査してみた。ポッキーは江崎グリコ社が1965年に発売したお菓子だけど、これって、ぼくが小学校一年生のことで、そんな大昔からポッキーがあっただなんて、まず衝撃であった。今や、ポッキーを知らない日本人はいないと言えるくらい、日本のお菓子を代表する商品でもある。フランスでは、1982年にグリコがフランスとの合併会社を設立し、1985年より「MIKADO」という名前でポッキーが発売されている。80年代にすでにポッキーはフランス人の舌を満足させていたことになる。すげー。しかし、ネーミングがイージーすぎる。ミカドって…。きっと将軍という名前がスタッフから提案され、誰かが、それはいくらなんでも東洋趣味過ぎるだろう、ということでミカドに落ち着いたのじゃないか、という個人的な推理はさておき、MIKADOとはフランスに昔からある竹ひごを使ったゲームの名前なのだった。ポッキーがその竹ひごの形に似ているため名付けられたいうのが真実のようだが、どうでもええわ、という落ち着きようで、なんとなくほっこりした。それにしても、竹ひごかぁ。しかし、この大昔にライセンス提携されたポッキー、日本のような進化は遂げていないが、ビターチョコにミルクチョコ、キャラメルチョコや塩入りチョコ、ホワイトチョコなどのバリエーションもあり、フランスの子供たちにも大人気。それが証拠に、ほぼすべてのスーパーや食品売り場でミカドを買うことが出来る。ちょっと日本が恋しい時に、このMIKADOを食べると元気になれるのだ。フランス人がこれを食べながら何を思うのかはわからないけれど、在仏日本人父ちゃんは子供の頃を思い出してしまう。まさに、日本の青春の味なのだ。さて、もっと他にもないか、と探したら、同じような、日本で昔から誰もが知るあの超有名なお菓子もあった!
この「とんがりコーン」にそっくりなお菓子、その名は「3D’S (BUGLES)」、食べればわかるのだが、ほぼほぼとんがりコーンなのだ。というか、とんがりコーンをちょこっと固めに焦がした感じか、やや香ばしさがある。やや分厚いのだ。美味い! 日本が誇る世界のお菓子、第二弾発見か。そこでこれも調べてみることにした。すると、残念なことにこれは日本生まれではなく、アメリカ生まれだったのだ。フランスで売られている3D’Sは1966年にアメリカの大手食品会社ゼネラル・ミルズ社が考案し、「ビューグルス(ラッパ)」という名前で発売されたお菓子であった。日本では、ハウス食品が技術提携依頼し、「とんがりコーン」として発売に至ったということが真実のが判明した。フランスにはあの名物、焼きもろこし味はないのだけど、ベーコンとチーズ味とこのナチュラルの三種類が出回っている。子供の頃から慣れ親しんだとんがりコーンを味わうことができるのはちょっと感動的だが、とんがりコーンの方が繊細で進化しているのでご安心頂きたい。無骨な3D’S、裏面に食べ方が紹介されていた。どうやら中にワカモレを詰めて食べるようだ。
おお、これは試したい。メキシカンっぽい。日本のとんがりコーンの繊細な焼き上げ方ではひ弱過ぎるかもしれない。フランスではポテチで有名なLAY’S社が販売をしているけど、いろいろライセンスが売り買いされて現在に落ち着いているようだ。人に歴史あり、いや、生き残るお菓子にも歴史あり、ということであろう。次回帰国時に、グリコの抹茶味ポッキーやハウスのとんがりコーンを今度日本で買い漁って、こっちの友だちに食べさせたいと思った。