JINSEI STORIES
滞仏日記「SHARPマスクで試した、フランスで流行っているマスクの付け方」 Posted on 2020/06/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、編集部スタッフさんのもとに話題のSHARP製の不織布マスクが届いたというので、今日、DS編集部にそのブツが持ち込まれた。当選しないと買えないマスクということで、実物を見た瞬間には一同からため息がこぼれた。在仏日本人会では入手困難と言われていた幻のマスクである。ヤフーニュースなどで写真は見たことがあったが、テーブルに置かれた箱にはSHARPの文字が、その白とピンクの箱から目が離れなくなった。
さっそく箱から取り出してみる。見た感じでは他のマスクとの差が分からないが、おおお、マスクの右下にSHARPという文字が。かっちょええ。目のつけどころがSHARPでしょ、と一世を風靡していた頃からぼくはSHARPファンだった。面白いユニークな家電を作り続けたその着眼点が、一時は経営難でくすんでいたが、台湾、鴻海のおかげで再生した。こうやってすぐにマスクを作ってくれるところとか相変わらずで嬉しくなる。さっそく装着してみることにした。
衛生的な感じが伝わってくる。何か、言葉では表せない安心感がいい。匂いも清潔な感じがする。SHARPの三重工場で作られているという記事を読んだことがある。三重工場はカラー液晶ディスプレイの生産拠点だそうで、なんでもチリ一つの侵入も許さないハイスペックな工場なのだそうだ。そういう匂いがした。装着感は悪くない。顎の下の弛んだ肉まで確実に覆うことが出来る点はさすがだった。呼吸もしやすい。どうですか?
ところで、お気づきかもしれないが、ぼくはマスクの紐を耳にかける時にこのようにバツ印に交差させて装着することにしている。フランス人はみんなこうやってマスクを付けている。フランス人は(特に若い女性は)小顔の人が多いので、普通に装着をするとちょっとぶかぶかになってしまうのだ。なので、彼女らはこのやり方で装着をしている。男性は耳が痛くなるみたい。ぼくも隙間を作りたくないので、カッコつけて、まねっこして「パリ・クロス」やっている。たしかに、こうすると弛みがなくなり、よりフィットするので試してみてほしい。それにこのクロス感がちょっとおしゃれな感じを醸し出しているではないか。さらに、この方法だと美容室でマスクをつけたままカットとかシャンプーなどが出来るので、コロナのことが心配で美容室に行くのを躊躇っている人には朗報かもしれない。
※ ついに白髪が出てきた。もみあげに二本、見つけた。
ところで「不織布」の読み方は、「ふしょくふ」と読むのである。お恥ずかしい話し、作家のくせに、最初読めなかった。「編み・織りなどの方法によらないで、繊維のままで布状にしたもの。ほつれず弾力に富み、洋服の芯地などに用いる」と辞書には出ていた。ともかく、話題のマスクがパリに届いたので、息子の分と二枚頂くことになった。中国製のサージカルマスクを大量に買ったばかりなので、2020年の記念に保管しておくことにする。