JINSEI STORIES
波乱万丈な田舎暮らし。しかし、メンチカツで勝つ。 Posted on 2025/04/24 辻 仁成 作家 パリ
ふらふら生きているように見えるかもしれないが、こんな父ちゃんでも、いろいろと心労を抱えている。
しかし、自分の心労についてぼくは表立って愚痴を吐いたことがない。
人から悪口はよく受けるが、ぼくからそこに関わって反論などはしたことがない。
世の中は、よくもまあこんなに、ウソをつく、と思うことばかり。
ま、でも、ぼくは、無視をすることにしている。関わるほど、暇じゃないからだ。
そして、今は、田舎暮らしに助けられている。
嫌なことがあっても、田舎の青空が、海が、山が、ぼくをいつも救ってくれる。
マジで、ぼくは友だちには田舎暮らしが必要だよ、と説いている。
ほんとうに、くだらないことで足の引っ張り合いをしている人生になんの意味があるのか、と思う。
ぼくが借りている古い工場の北側の壁にひびが入っていることがわかり、一部、崩落の恐れがあるということが判明した。
ここまで頑張ったが、使えなくなるかもしれない、という。そこで、わが友、ジェロジェロと専門家さんに来てもらって、チェックをしてもらった。
アトリエとして使用しているガレージ側の建物は大丈夫だとわかったが、奥側の古い工場は用心のために閉鎖した方がいいということになり、そこで、大きな作品の制作を計画していたが、いったん、中止をすることになった。
昼前に、パリ事務所の長谷川さんご夫妻がパリに帰る前に立ち寄ってくれたので、ジェロジェロとみんなでランチをすることになった。
「ジェロ、メンチカツって、知っている?」
「え? 知らない。それ、どんなもの?」
実はフランスに、メンチカツは、存在しない。
似たようなものはある。
鳥胸肉の間にチーズを挟んで揚げたコルドンブルーというものの、ひき肉版が存在するので、それがやや似ているかな、と思うが、いや、ぜんぜん、違うね、笑。
「えええ、なに、これ、美味い! 食べたことなかった」
ジェロジェロの興奮ぶりに、長谷っちご夫妻と父ちゃん、口許が緩んだ。
「いや、先生のメンチカツ、ほんとうに美味しいですからね、そりゃあ、驚いて当然ですな」と長谷っち。
「セ・トロボン!(めっちゃ美味しい!)」とコリンヌ。
ということで、今日の推薦献立は、メンチカツということになるよ。
マルシェで買ったキャベツが残っていたので、今日のメンチカツは、とくに、キャベツ具沢山のメンチカツになったのだ。
やってみてね。
※ ひび割れをどうするか、で会議中。結局、様子を見ましょう、となった。あはは。
じゃあ、作るよ。
主な材料~!!!!
合い挽き肉400g、キャベツ200g、玉ねぎ半分、卵1個、パン粉大さじ2、塩コショウ、味覇小さじ半、砂糖小さじ1、出汁醤油少々。
まずはキャベツと玉ねぎ以外の材料を全て加え、よく捏ねるのじゃ。コネコネ。
キャベツはみじん切りにして塩をし、水気が出たらしっかり絞っておく。キャベツと玉ねぎも混ぜ合わせ、よく捏ねておく。
小さく丸めて、パン粉、牛乳少し加えて溶いた卵、パン粉で衣をつける。
170度くらいで10分ほどじっくり揚げたら完成。
長谷っちご夫妻が、ヨットハーバー近くのケーキ屋さんで「トロぺジェンヌ」を買ってきてくれたので、それをデザートにした。
これ、南仏のお菓子で、生クリームをブリオッシュで挟み、表面にあられ糖をまぶしたもので、パンとケーキの中間的なお菓子なのである。
食べたことあります? 意外と美味しい。第二次世界大戦の最中に、南仏のサントロペで生まれた割と歴史の浅い、お菓子、あはは。
ジューシーなメンチカツを食べてから、あまーいトロぺジェンヌで、もう、大ハッピーとなった胃袋なのでした。
食後、長谷っちを駅まで車で送った、父ちゃんと三四郎。
「またねー」
と手を振るぼく、別れの嫌いな三四郎は、そっぽをむいていた。
電車でオペラにほど近いサンラザール駅までだいたい3時間くらいかな。
長谷川さんご夫妻、「田舎でのんびりでき、とっても生き返りました」と言い残して戻っていきました。
新しいプロジェクトが動いているので、長谷川さんには、パリで活躍をしてもらわないとなりませんので、よろしくね。
はい、ボナペティ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
田舎はパリに比べれば、確かに、不便ではありますが、でも、今時、だいたいのものは手に入るのです。そして、太陽も月も星もすっごく近い。夜は太陽が沈むのにあわせて寝て、朝は日の出とともに目が覚める。こんなに健康的な人生はありませんね。人間関係で苦しむことも一切ないので、欲張らず、コツコツと生きていこうと思うのであります。
※ 明日、25日、22時から、ラジオツジビル、生放送です。詳しくは、☟