JINSEI STORIES

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」 Posted on 2025/02/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、奇跡がおきた。
今日、三四郎は、彼の実の姉、スイングちゃんと、公園で、奇跡の再開を果たしたのだ。
その経緯をまずは、説明させて頂きたい。
散歩に出ていたら、三四郎にそっくりなミニチュアダックスフンドが見えた。
似ているな、と思っていたら、三四郎が座って、何か、いつもとは違う反応をしめしている。
おっと、その前に、ぼくは実はその直前まで、絵を描いていたのだ、パリのアトリエで。
そしたら、ぴかっと、光ったので、振り返ったら、空が晴れていて、すごい光の柱が見えたのだった。
うわ、すごい快晴じゃん!(ずっと雨だったから、三四郎は運動不足)
なので、三四郎を連れ出さないと、陽が落ちてしまう、と思い、急いで、連れ出したのである。それから、いつもの公園へとまっすぐ、何も疑わずに、向かった。
すると、目の前を、三四郎にそっくりなミニチュアダックスフンドがこちらに向かってやって来るではないか。
そのまま素通りもできたが、三四郎が動かなくなった。
当然、向こうも何か気がついたか、三四郎の前で、座った。
80歳くらいのマダムが言った。
「すごーっく、似てるわねー」
60代のぼくが言った。
「そっくりですね。ミニチュアダックスフンドはたくさん、見かけますけれど、こんなに顔も、毛並みも、色も、似ている子とあったのは、はじめて。目が一緒!」
マダムは二人づれで、もう一人は近所の友だちっぽかった。
「何歳?」
と訊かれたので、3歳です、と答えた。
「あら、一緒。9月にこの子も3歳になったのよ」
とマダムは言った。
「9月? 一緒ですね」
父ちゃん、もしや、と思ったので、聴いてみた。
「まさか、24日生まれじゃないですよね?」
「ええ、そうよ。えええ、一緒じゃなない!」
二人の目があった。しばらく、沈黙。
そのまま、二匹を見下ろした。二人は、ビズをしている。キスもしている。ハグもしている。なんだか、ただごとじゃないぞー。
そこで、父ちゃんは、エルバー(ブリーダー)の名前をマダムに言ってみた。
「まあ、そこよ、この子が生まれたのは!!!!」
と言い出した。周辺にいる犬仲間たちが輪に加わり、大騒ぎになった。
「じゃあ、兄弟ですか?」

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」

※、どっちが三四郎か、わかります? 左が三四郎、右がスイングちゃん。♀。

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」

※ 首にマフラーをしている、手前が、三四郎。首をあげて、奥にいるのが、スイングちゃん。もう、見分けがつかにゃーい!!!!!!!

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」



「スイングは、5つ子で、真ん中なの」
「ああ、うちの三四郎は、一番下の子だった」
それから、お互いの携帯から、引き取った頃の写真を見つけ出し、それを見せあうことに。同じブリーダーが映っている。
「この人、私には売れないって、最初に言ったの」
「なんで?」
「私が高齢だからよ。でも、ごらんなさい、この子はいま、こんなに幸せなのよ」
そのブリーダーに間違いない。
彼は、誰にでも彼にでも犬を売らないのが有名な人で、犬が本当に幸せになるか、審査が厳しかった。
ぼくも、いろいろと聞かれた。この子をちゃんと養えるか、約束までさせられたのだ。いいブリーダーであった。
「それにしても、これは奇跡だわ」
「本当に、奇跡ですね」
そこのブリーダーがやっていた「犬屋敷」は、パリから150キロほど離れている。ノルマンディとパリのあいだくらいの場所にある。
フランス中から、そこにはミニチュアダックスフンドを求めて人があつまる。
世界はこんなに広いというのに、それが、今日、ばったり。
あの光が、ぼくの背中を押さなければ、ぼくは散歩に出る予定はなかった・・・。そして、このマダムは遠い区に住んでいるが、たまたま、今日は晴れていたので、ぼくの家の近くの公園まで、足を延ばしたのだった。
これって、奇跡でしょ?
二匹の犬は、並んで座り、すでに、わかっているようだった。
「この子の上の子が、茶色い毛で、貰われて行ったあとに、体調を崩して、戻って来たのよ」
「そうですか」
実は三四郎のお母さんは、茶色、お父さんが、黒なのだ。なので、茶色と黒が混じった毛の色になっている。茶色い子兄弟がいても不思議じゃない。
三四郎は他の犬に噛まれて鼻を怪我をしていたので引き取り手がつかなく、ぼくが「ぜひ」と言って、彼を引き取ったのだった。
その辺のことも、だいたい一致していた。
ぼくはマダムと連絡先を交換した。
「ムッシュ、9月24日、この子たちのお誕生日会をしない?」
マダムが言った。
「ああ、それは素晴らしいアイデアですね」
何より、三四郎は実の姉に出会えたのだった。あまりに素晴らしい出来事に、父ちゃんは、じーんとなった。
今日、パリにいなければ、出会えなかった。
いくつもの軌跡が重なって、三四郎はスイングと出会ったのだった。
こんな世界で・・・。

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」



このことを、読者の皆さんに、お伝え出来て、めっちゃ、嬉しいのである。
ささやかなニュースだけれど、奇跡の物語、なのだった。
よかったね、さんちゃん。君は孤独じゃなかったってことだよ。

胸いっぱいになりながら、父ちゃんが今日、作ったのは、日本を代表するナポリタン、なのだった。
献立日記だから、最後にちょっとレシピを!
フライパンに、にんにく、唐辛子、アンチョビ、を入れて香りをオリーブオイルにうつし、そこに好きなサイズにカットした、玉ねぎ、ピーマン、ソーセージ、ハム、マッシュルーム(今日は入ってない)をぶっこみ、さらに、バターを加えて、炒める。ナポリタンはアルデンテにする必要はないが、最後は強火にし、ちょっと焦げ目が出る手前くらいまで、追い込むといい感じになる。ケチャップ、トマトペースト、ソース、醤油などで味付けし、パルメジャーノチーズを加える。白ワイン、ゆで汁で、緩め、タバスコを入れ、塩胡椒で味付け。味見をして、追いバター、タバスコをいれるか、考える。笑。お皿に盛り、最後に、パルメジャーノチーズをたっぷりとかけたら、完成だ。
ボナペティ!!!

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。なんだか、幸せな気分になれました。緊張していた昨今の空気が、ふっと緩む瞬間でもありました。9月24日が待ち遠しいですね。あ、そして、髪を切りました。春ですからね、気分一新です。美容師のAYAちゃん、ありがとね。

あ、さんちゃんの本「犬と生きる」がもうすぐ発売になります。ええと、2月の後半です。現在、書店、ネットなどで、予約受付中だそうです。売り切れることはないとは思いますが、・・・。かわいい本になっていますよ。写真とか、イラストも、・・・。

フランスごはん日記「奇跡が起きた!三四郎、実の姉と公園で出会う。奇跡ってあるんだよ」

自分流×帝京大学

※ 次のラジオは、2月5日、日本時間22時です。そこで、詳しく、三四郎がお姉ちゃんに出会えた経緯、話しましょうね。

TSUJI VILLE