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フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」 Posted on 2025/01/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ちょっと疲れて、今日は、仕事がはかどらなかった。
アトリエの工事も進んでない。ビクトールがやって来て、窓枠のペンキ塗りを手伝ってくれたけれど、ちょっとだけやって、中断した。
最初は勢いがあったが、なかなか、進まない。もう、ちょっと疲れた。
自分にとって最適な仕事環境というのが、理想通りに、なかなかできないので、一時中断をして、どうしたものかな、と頭を抱えている。
嵐があり、屋根に穴が開き、水漏れが発見されて、それを修理するのに、結構、費用がかかることもわかり、いったん、頭を切り替えることになった。
人生というものは、思い通りにいかないものである。
海沿いに、行きつけのカフェがあり、そこは漁師たちが集うけっこう、地元民だけのカフェで、三四郎と散歩がてら、ちゅうじきをとるために、そこまで行くことになった。
ここは、周辺で釣れる魚を焼いて出してくれるので、醤油を隠しもって、いつも、行く。
自分の家で、魚を焼くと、匂いがこびりつくので、焼き魚は、外で食べるに限る。

フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」

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フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」



小説を書き始めたのだけれど、いつも、どうやって今まで書いていたのか、書き方を忘れてしまい、最初はエンジンがなかなかかからないのだ。
そういう時は、ぼんやりと海を眺め、自分が書いた小説などを読んだりして、書き方を思い出すようにしている。
今、手元にあるのは、文春から出ている「明日の約束」という短編集で、これの中に、ぼくの文体がほぼ全部入っているので、こういう過去に書いた自信作を読み返して、まず、自分の自信を取り戻すことから、やる。
ここのところ、絵ばかり描いていたので、新鮮、であった。
なるほど、こういう書き方があったっけ、という具合である。
自分の小説の中で、好きな作品をあげなさい、と言われたら、短編集だとこの「明日の約束」で、長編だと「日付変更線」ということになるかな。
そういう作品をパソコンの横に置いて、筆が動かない時とか、ページを捲り、「へー、やるな、自分」と自惚れてみたりする。
自惚れることって、実は大事で、自惚れるくらいじゃないと、壁は突き抜けられない。
反省と自惚れが、成長のエンジンなのである。

フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」

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※ 窓枠が気に入らなかったので、ブラックグリーン色にかえる。まずは、下地を塗り、その上からスプレーをかける。そうすると、綺麗になるのだ。

フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」



アトリエには、古い暖炉があって、使えるかちょっとわからなかったのだけれど、ビクトールが、使えそうだよ、というので、薪をくべてみたら、温かくなった。
ビクトールが帰った後、ぼくは火を見つめながら、ウイスキーを舐めた。
ぼくの仕事って、ノルマがあるわけでもないし、怠けようと思えばずっと怠けていられる仕事で、自分で自分の尻を叩くしかないのだ。
ぼくは、けっこう、真面目な方で、毎日、4,5時間は活字と向き合い、4,5時間くらいは絵筆を握る。
2,3時間くらいは調理をしている。
かなりの、ひきこもり人間であることは認めないとならない。
だから、犬と生きる、が、ちょうどいいのかもしれない。
ウイスキーを飲むと、いろいろと、思いだすこともあるけれど、酔うと記憶が揺さぶられて、痛みとか後悔も鈍くなる。
そういう時に、小説のしっぽのようなものを捕まえることもある。
ぼくのこういう時間、きっと、誰にもわからない。
それでいいと思う。でも、そのうち、小説が世に出ることになるのだから、そして、それも、今は理解されないものが多い。
たまに、ヒットするけれど、あまり、ぼくには意味がない。
印税が入ったら、ウイスキー代で消える。

フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
燃える炎をじっと眺めていると落ち着きますね。今はちょっと孤立している感じです。パリにいる頻度が少なくなっているせいもあるし、日本での仕事も、ライブが終わったので、極端に減り、次の日本は夏までないし、だから、犬とばっかり、です。ま、三四郎がいてくれて、よかったですよ。ということで、「犬と生きる」の予約スタートしたみたいです。エッセイ集なので、犬が好きな方、どうぞ。

フランスごはん日記「冬のフィッシャーマンズ・カフェで、海の幸を食べながら」

自分流×帝京大学

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