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滞仏日記「苦難の時にこそ、人類を導くリーダー」 Posted on 2020/05/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、東京高等検察庁の黒川弘務検事長が、コロナ自粛期間中に朝日と産経の新聞記者らと3蜜駆け麻雀で辞職というニュース、開いた口が塞がらなかった。法治国家なのだから、徹底的な捜査をし、事実関係を究明すべきだが、いったい誰が出来るのか? 朝日と産経ってこんなに仲良しだったのだ、というもう一つの驚きもあった。麻雀仲間の新聞記者さんたちもきちんと表に出て真実を話すべきであろう。朝起きたら、まず日本のニュースを一通りチェックすることから始まるのだけど、なんとも嫌な朝のはじまりであった。それはきっと、コロナ禍で国難の時に国が一つにまとまれない不条理のせいだ。国民には3密はダメと自粛要請をし、偉い人は3密賭博で遊んでいる…、店を潰さざるを得なかった友人の顔を思い出した。検察がこれじゃ、賭博する人を誰が裁けるというのだろう。



新型コロナウイルスが出現してのち、世界が一変した。ついに世界の感染者数が500万人を超えたが、感染症による集中治療室に入った患者の数、死者の実数だけじゃなく、コロナ危機が世界中の人の心や政治体制や世界の在り方に与えた衝撃は計り知れない。むしろ、そっちの方が今後、この世界に悪い影響を与える気がしてならない。新型コロナの恐ろしいところは致死率の高さや感染力の早さだけではなく、人と人を引き裂き、分断させる毒性を持っているところだ、とそれこそ新聞に書かせてもらったが、それまで当たり前だったことがコロナのせいで当たり前じゃなくなって、世界中が思った以上に混乱している。人々が新型コロナの恐怖から心の中に大きな不安と不満を抱えるようになった。これまで持っていた普通だったらこうなるという人生設計(ライフ・スケジュール)が不意に実現不可能になったりすることで、人々は希望を素直に持ち続けることが出来なくなった。多くの人間が持ったこのネガティブな心理が共時的にこの世界を鈍く滞らせている。こういう時に必要なのは、思想信条の異なる人たちをも納得させる、繋ぐことのできる、多くの人を安心させることのできるリーダーの出現であろう。簡単なことではないけれど、不撓不屈の精神を持ったリーダーが市民に寄り添うことで、人々の不安は意外にも解消され、空気が変わる。流れが変わる。今、この地球に必要なものは、敵対型の政治家ではなく、人類の痛みを理解出来、貧しい人々のために全身全霊で働くことのできる存在であろう。世界中にそういう人が出現し、人類を導いてもらいたいと思う。これは理想に過ぎないけれど、そういう超人が出現するのも、こういう苦難の時だったりする。

滞仏日記「苦難の時にこそ、人類を導くリーダー」



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