JINSEI STORIES
フランスごはん日記「ガレット・デ・ロアの日に、行きつけのカフェにて」 Posted on 2025/01/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、最近は日本でも流行っているという、ガレット・デ・ロア、なるものが、フランス中にあふれるのが、1月であり、これを家族で食べるのが公現祭の日、今年は、1月5日なのだった。
ということで、父ちゃんの昼ごはんは、茅乃舎のダシを使って「素うどん」を作り、焼き肉と一緒に食べた。
この年齢になると、手抜きも上手になる。
うどんは冷凍うどんで、肉は片栗粉まぶして、玉ねぎと一緒に炒めただけのもの。
味気ないが、一人で生きる飯、も、慣れてきた。
ランチは、サクッと、終わらせ、三四郎をつれて、午後、いきつけのカフェに顔を出す。
第二次世界大戦前からやっているような由緒あるカフェなのだ。
給仕長が顔見知りなので、握手をして、着席。
「何をのまれますか?」
と訊かれた。
「コーヒーかな」
「おや、めずらしい」
「まだ、仕事があるんだよ」
「今日はガレットの日ですけど、ほら、いかがですか?」
と指さすので、見たら、カフェの中央に、直径1メートルはゆうにあるガレット・デ・ロアが鎮座していた!!!!
「おおおおおお、すご」
「すごいね。何人分なの?」
「100人分はありますよ・しかも、ちょっとした情報ですが、中に、フェーブ(陶器の小さな飾り)が入っていたら、シャンパン一杯、サービスさせてもらいます」
「えええ、そんなの無理でしょ? あの中に、何個くらい、フェーブが入っているの?」
「十数個!」
「お、当たる可能性、あるね。じゃあ、一つ貰おうかな」
ということで待つこと、数分。
しかし、馴染みのギャルソン君、そこからガレットをとらず、奥から、持ってきた。
え? なんで?
しかも、ぼくの前に置かれたガレット、よく見ると、真ん中へんに、なんか、黒いものが見える。
ええええ、常連客用の、忖度ガレットか!!!!
フフフ、という顔をして、さっと、去ったギャルソン。
じっと覗き込む、父ちゃん。
これは、間違いなく、入っている。
※ 入っているでしょ? わざと、常連にあたるように、店側が、計画している意図がバレバレなのだけれど、見事に騙されるのも、常連の仕事なのである。
「わ、入っていた!!!」
大騒ぎをしてみせる、逆忖度な、父ちゃん。
すると、ギャルソンたちが、みんな集まって来て、
「よかったですね。シャンパンのまれますか?」
と訊いて来る。
「いただこうかな」
「今年もよろしくです」
ということで、仕事があるから、あまり酔えないのだけれど、仕方なく、舐めた。
中から出てきたフェーブは、ピノキオ、であった。
なんとなく、寂しいお正月だったのに、ちょっと、救われた感じになった。
人が人を支える、そういう世界で、ぼくは生きているんだな、と思った。
夜は、おせちの残りというか、牛テール・カレーの残りがあったので、ちょっとしなびたレンコン(おせちの筑前煮に使用したもの)を炒めて、添え、レンコンカレー、にして食べたのだった。
そろそろ、2025年が動きだすのだろうか。
当たったピノキオを本棚の一角においた。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
今年の秋に、パリで個展が開催されそうです。日本の個展開催発表よりも前に、スケジュールをお伝えできるかもしれません。たぶん、10月の最初の週になりそうです。そのほかの国での個展は、現在調整中ですが、なかなか、すぐには決まりそうにないですねー、笑、いろいろと戦争下における絵画の輸送に関する難しい問題もあって・・・。まずは、パリでの個展にむけて、アトリエの整備につとめたいと思います。長い目で、少しずつ、進んでいきたいと思います。