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フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」 Posted on 2025/01/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨夜は翻訳の仕事をやった。
絵本の翻訳なのだけれど、直訳だと、どうしても子供には理解できない、というか、文化の違いもあるし、言語の差もあるので、自分の子供に読み聞かせをしていた頃を思い出し、子供に読んで聞かせるのにちょうどイイ感じの日本語をセレクトした。
結構、超訳、になったが、編集者さん、大丈夫かな?
「卵の中」というタイトルの絵本なのだけれど、このタイトルも、できれば、変えた方がいいかな、と思うのだけれど、ま、そこは、編集者さんに、お任せしたい。
ということで、絵本の翻訳が終わって、何か食べようかな、と思ったが、おせちの残りはもう、飽きてしまい、さすがに、手が出ない。
一応、筑前煮などがまだ少量残っていたので、お皿にうつして、テーブルに並べてみたが、新鮮なものがほしい、ということで、蕎麦を茹でた。
冷蔵庫を覗くと、カラスミといくらがあったので、茹でた蕎麦をしめて、そこに、日本酒を少量垂らし、おちょこにも注いで、摺ったカラスミをドバっとかけて、さらに、いくらをあわせ、日本酒を舐めながら、すすった。
麺つゆをかけてもいいのだけれど、十割蕎麦なので、日本酒の風味だけで、十分なのである。
しかも、カラスミといくらが、十割の蕎麦の味に豊かな海の風味を持ち込む。
他には、何もないが、十分にご馳走なのだ。
鍋島を、少し舐めながら、静かな時間を過ごした。
足元には、三四郎がいて、ぼくを見上げている。

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

※ いつのか忘れた手作りチャーシューがあったので、しっかりと焼いた。出来立てのチャーシューよりも、日にちが経ち、味が染みたせいか、焦げ感も、実に、美味かった。



十割の蕎麦にからまるカラスミ(カラスミはチーズの削り器で細粒にしてある)、そして、時々、口の中で、弾けてとけるいくらが、うまい。
それを繋いでいるのが、日本酒で、麺つゆなどは必要ない。(食べやすくされたい場合は、麺つゆを多少いれるとマイルドになります)
残っていた、筑前煮も、蕎麦の風味とよくマッチするので、完食とあいなった。
その頃、野本は、店で餅つき大会をしていた、らしく、ふらふらになりながら、餅をつく初老の男の動画が送り付けられてきた。ふむふむ・・・。
パリで餅つき大会というのはオツである。

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」



さて、今日の昼は、行きつけのエンリケの店に顔を出した。
エンリケが出てきて、テーブルに、アンチョビの小皿を出した。
オリーブオイルとバルサミコがかかっている。
「バターをたっぷり塗ったバゲットに、このアンチョビを載せて食べてみてよ、うまいんだから」
そう言って笑った。
和食は野本の店で食べることが多いが、イタリアンはエンリケの店かな。
奥さんのタチアナはモルドバの人で、ここのワインは、モルドバ産ということになる。これが、フランスワインに負けないくらい、うまい。
ぼくの友人には、モルドバ人が、多い。
エンリケはサルディニア人で、スペインの影響も強く受けている。
サルディニアは、イタリアの一部というよりも、サルディニアだ。コルシカがフランスの一部というと怒るような感じ、似ている。この二つの島、国旗がそっくり!
サルディニアの料理は純朴で力強いものが多い。
パスタも、島感、がよく出ていて、しっかりした味わいなのだった。

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」

フランスごはん日記「アンチョビの正しい食べ方、カラスミ蕎麦の麗しい食べ方」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
とにかく、人生というものは、毎日丁寧に生きるにかぎりますね。この年齢になると、たくさん、食べられないし、たくさん呑めないわけですが、健康にだけは注意をして、日々をしっかりと、めくっています。さて、今日から、しばらくは小説家にもどりますよ。よっこらしょ。

自分流×帝京大学

※ 今日は日本時間の22時から、ラジオ・ツジビルですね。

TSUJI VILLE