JINSEI STORIES
フランスごはん日記「自分色をどうやって出していくか、父ちゃんカラーの紡ぎ方」 Posted on 2024/12/28 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、額装家のフィリップさんと一緒に、次の個展で展示する16作品の小品の額装を手掛けたのだが、今日、ついに、それが出来上がってきた。
これまでの個展に出品する作品はキャンバスのまま展示をしてきた。
モダンアートの場合は、額無しで展示することが多いので、それはそれでいいのだが、中には、額があるといいものもあって、ぼくの作品の中にも、散見される。
で、専門家のフィリップと話し合い、20センチ×20センチのもっとも小さな作品、16作品だけ、個展用に、額に入れてみたのだった。
しかし、額装をすると値段が高くなり、作家の負担も増えることがわかり、現在画廊と協議中だが、今後はやらないことになるかな、と思う。
額は購入された方の楽しみでもいいんじゃないか、と思う。
出来上がった作品を床に並べ、上から写真撮影をし、しみじみと眺めたが、でも、今回の16作品は、やってよかった、と思った。唯一無二の仕上がりじゃ。えへへ。
「額縁をいつか自分で作りたいんだ」
「いいね。それはいい。そこまでやるとまた違うものになる」
「工作機械を買う予定なんですよ。教えてもらえる?」
「でも、ぼくの仕事が減るから、本当は教えたくないんだな」
「なるほど、そうだね。あはは」
ということで、確かに、自分で額装までやれちゃったらフィリップいらずになってしまうじゃないか。そこは、やめておきますか。
ということで、非売品の作品の額装を現在フィリップに打診中。
モノトーンの作品なのだけれど、白と木肌の中間のような色のケースを見つけたので、これで、作ってもらいたい。(下の写真の額です)
「この白い額、いいですね。これで作ってください」
「絵と額のあいだは、どのくらいあける?」
「1,5センチかな」
「うーん、その絵なら、2センチくらいあってもいいかもね」
「そうしましょう」
薄い白の額縁の中の絵は、額縁とのあいだに白い2センチの余白が出来ることになった。なんて素敵な行間だろう。
2センチか、素晴らしい。
「完成が楽しみだな」
「31日には出来てるよ。ふらっと取りに来てよ」
最近は、暇が出来ると、フィリップの額縁屋に顔をだし、アートの話ばかりしている、父ちゃんなのであった。笑。
※ 作品にはサインと落款が押され、しっかりとテーピングされているのだ。個展会場で見てもらいたい。木枠の質感と絵の空気感とのあいだ・・・。
自分が暮らす空間を自分のカラーで作り上げていくのが今は心地よい。
でも、ぼくはインテリアデザイナーにはならない。あくまでもアーティストなので、人を心地よくさせるための絵は描かない。
自分が心地よいと思う色とマチエール(素材感)と伝えたい何かが美術的にミックスされて、生まれてくるのが、ぼくの絵なのだ。
いろいろな人が小説を書き、歌を歌い、絵を描く。
表現なんて、実に平等なものなのである。
ぼくの表現は、じゃあ、何が違うのか、というと、ぼくの作品はどれも、ぼくのカラーで全力抽出された作品ということになる。
文学賞とか頂いても、それでぼくのスタイルが変わることはなかった。
ぼくは、心の中で、ベロをだしていた。もらったらもうぼくのものだよって。
別に、そこじゃないよね、と今でも思っている。権威が欲しくて、芥川賞作家になったわけじゃない。全部、通過点なんだ、と思う。
まさに、今、書き始めようとしている新作小説は、あきらかに、今の僕にしか書けない小説になるだろう、と自負している。
『すごいな、ひとなりさん、あんたまだ、そんなに創作意欲があったんだね』
久しぶりに、すごい小説が書けるような予感で張り裂けそうだ。
「海峡の光」なんか、過去の藻屑になるだろう。
ぐずぐずしていられない、と思った。
そうやって毎日、ぼくはぼくの魂の彫刻に打ち込んでいるのである。
ふー、腹が減った。妄想はひとまず、置いて・・・。
チャールズシェフにもらった海老が少し残っていたので、かき揚げ蕎麦を作って食べることにした。
海老と玉ねぎ、そして、紫蘇をまぶし、衣であえ、サクッと揚げた。
ダシを丁寧にとったそばつゆに、さらしなのお蕎麦を泳がせ、そこに、揚げたてのかき揚げを浸して、パクっと頬張ってやった。
おお、実に、美味かった。
これに勝るものはない、と思った。
ぼくが「今日に勝利した」と思える瞬間はいつも食事時にやってくる。
もっと激しく、しかし、もっと丁寧に生きてやろう、と思うのである。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
現在、コツコツとペンキを塗っている新しいアトリエでの創作は春からになりそうで、それらの作品が拝める個展は、来年、10月初旬、パリで、なりそうです。ぼくとフィリップで考えた額装作品が多めに展示されるかもしれません。とにかく、薄い額縁がかっこいいと思う、最近の父ちゃんなのでありました。また、明日。