JINSEI STORIES
ポルトガルごはん日記「ポルトガルの市場で、地元のおじさんやおばさんと仲良くなった」 Posted on 2024/12/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ポルトにはいくつもマルシェがあるのだが、その中でも一番大きなマルシェ「ぼりゃん市場」に、行ってきた。
目的は、ポルトガルの国民的スープ、カルド・ベルド(緑のスープ)の中に入っている野菜を探す、こと。
出来れば、フランスに持って帰り、再現して作ってみたい、がために。
マルシェは、常設で、もはや、フランスの移動マルシェとはぜんぜん違って2年前に建てられたばかりという立派な建造物の中にあって、しかも、3階建て、であった。(トイレは、3階にあり、かなり衛生的でした。笑)
ポルトガルといえば、なんといってもこれ、塩ダラ、である。
いつでも、美味しい魚を食べられるように塩漬けして、長期保存できるようにしてあるのだ。なんのためにか、よくわからないし、正直、この塩ダラをもどして、塩抜きしていろいろ料理に使って食べているが、正直言って、日本人からすると、タラの西京漬けの方が、だんぜん、美味しい。
ばかりゃう、という。
うーむ。いつか、ばかりゃうを使った美味しい料理に出会ってみたい。
ポルトガルのみなさん、ごめんなさい。
で、マルシェに八百屋を見つけたので、そこのマダムに、昨日食べた、カルド・ベルド(緑のスープ)の写真を見せたら、なんと、いきなり、目の前の微塵切りの青い野菜をゆびさし、ポルトガル語で、みぶりてぶり、語りだした。
「あああ、これだ!!!」
あのスープに入っていたものだ。
ぼくはフランス語で、伝え、おばさまはポルトガル語で、戻してきたが、同じラテン語をもとにしているのだから、なんとなく、わかる。えへへ。
「じゃがいもと玉ねぎのポタージュを作ったら、これをいれて、いいかい、10分煮るんだよ。そしたら、美味しくなるさ」
「おお、買います」
「どのくらい」
「一人分」
「いや、一人分って、1ユーロ分でいいかい? それが最低だよ」
「はい、1ユーロ分、ください」
こんなものを買う観光客はいないに違いない。
おばさま、笑っていらした。あはは、変な子だね~、と。
どうやら、これが、切る前のもらしい。クーブ・ガレド、と書かれてあった。
おばさまに、これとこれ一緒? と指さしたら、ああ、そうだ、と頷かれた。
やった。クーブ・ガレドなんだ。
いろいろ日本のネットで調べると、キャベツと出ていたり、ケールの一種と表記されていたりするが、見た目は、菜の花、に似ている。味は、シンプルで、癖がなく、でも、どくとくの味がする。ポルトガルの味だね。
ぼくはマルシェ周辺を散策し、大きなカフェに入ってコーヒーを飲んだ。
目の前に、人間のような感じで、クーブ・ガレドが鎮座する。
スープ以外に食べ方、あるんだろうか?
こんなに、スープにいれられないし、もしかしたら、山菜のパスタのようなものが出来るかもしれないな、と思った。
ペペロンチーノにして、これを混ぜて炒めると、どうだろう?
ま、いいか。
お腹がすいたので、ポルトガルといえば「カステラ」を一つ買って、齧った。
なんと、日本のカステラって、ここからやってきたのか、というくらい、味が一緒、いや、もっと素朴で美味しかった。(もちろん、日本のカステラほどの繊細さや砂糖じゃりじゃり感はなく、でも、逆に、好きだった)
うまい。
カフェ・アメリカーのに、あうのだ。
その後、マルシェの近くを歩いていたら、笑顔のおじさんと出会った。
「今から、ごはんなんだよ。あとで、ぼくの店に寄ってよ。ぼく、アントニオ、君、日本人でしょ?」
いきなり、こういうことを言われたりする、父ちゃんであった。
ポルトガル、歩いていると、なぜか、みんなに、笑顔を向けられる。
ということで、気になったので、一時間後、暇だし、アントニオの店に立ち寄った。
込んでるから、入り口で番号表をとらないとならないのだけれど、彼はぼくを見つけるなり、飛んできて、やあ、ほんとに着てくれたんだね、と言って、チョコレートをくれた。
「へ?」
「いいから、もって帰って」
「オブリガード(ありがと)」
変な人だな。でも、楽しいからいいね。
すると、アントニオがぼくが抱えているクーブ・ガレドを指さして、なんでそんなもの買ったの、とフランス語で、訊いてきた。(ぼくがフランス在住だというと、彼、ペラペラ。ポルトガルは、けっこう、仏語、通じます)
「緑のスープを家で作ろうと思ってさ」
「ああ、じゃあ、チョリソーを入れないと。これがいいよ」
ということで、確かに、スープにチョリソーが入っていたっけ。なるほど、あの肉味は、チョリソーで出すんだね。にんにくも入っていたと思う。
「このチョリソーはうまいぞ」
「買う」
「あと、あの缶のオリーブオイル、実はいつも家で使っているんだよ、有名なんだね。ボンマルシェでポルトガルフェアがあって、それで気に入って、でも、なかなか、見つからない」
「じゃあ、大きいの買いなさい」
「はい」
ぼくらは、記念撮影をした。
大混雑しているのに、ぼくとアントニオのあたりだけ、和やかな空気に包まれたのであーる。いい笑顔だよね。
明日も、立ち寄ろうかな・・・。あはは。
※ このオリーブオイル、マジで、美味しかったです。ぼくは1キロ缶を買いました。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
実は、知り合いのカメラマンがリスボンとのあいだくらいに住んでいて(かなり遠方だけれど。どうしよう)、アシュバル君って、覚えていますか? ニコラ君が登場する前に、ぼくの日記にたびたび出ていて、ぼくの家の上の階に住んでいた男の子(妹さんがいたよね)。実は彼ら家族がポルトガルに移り住んで、家を自分たちで建てちゃって、そこ、ちょっと訪ねてみようかな、と思っています。連絡してから、笑。遠いから、どうなるか、わかりませんが・・・。美しい世界なので、もうちょっと、ノマドでいよう。