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滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」 Posted on 2024/08/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ノルマンディ界隈に、少し広いアトリエを探している。
もともと描いていた絵にくわえ、最近、新しい作品がどんどん生まれてきているから、もう、絵を保管する場所がないのだ。
油絵は、完全に乾くまでに一年はかかるので、扱いも大変。
小説の場合は、パソコンが一台あれば済む。ソファで寝転がって小説を書くことだってできるが、絵はそうはいかない。
でも、パリに広いアトリエを持つことは(予算的に)無理なので、ノルマンディの田舎の使われていない納屋とか、倉庫とか、ガレージとかで、(かなり安く)自由に使える場所がないか、友人のチャールズや、ジャン・フランソワなどを通して探してもらっている。
そしたら、今朝、チャールズから、
「使われてない古いワイン倉庫があるけど」
と連絡があり、見に行ってきた。
広さも天井の高さも申し分ないのだけれど、いかんせん、ぼろぼろ・・・。
これをアトリエとして使える状態にするには、かなりの手間暇(修理代も)がかかりそうだ。
さて、どうしたものか、と思って悩んでいると、そこの大家さんが、森の中に、古い使われてない小さな家があって、そこでいいなら、貸せますよ、とおっしゃってくださった。
ということで、一緒に見に行くことに・・・。
くねくね曲がりくねった山道を、登って行くと、もう、海も見えない辺鄙な場所に、古びたわらぶきの家があった。あの、ほら、絵本に出てくるような世界。
赤ずきんちゃん?
おばあさんが、赤ずきんちゃんを食べちゃう話しだっけ? 
そういう絵本の中に出てくるような納屋? 
夜とか、怖いかなぁ~、ちょっと、三四郎と二人だと、ビビるかも。
うーん、どうしよう。

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」



「ここは、昔、おじいさんとおばあさんが住んでいたんですよ。でも、おじいさんが、亡くなり、それから、しばらくおばあさんが一人で住んでいたんだけれど、不便な場所だからね、おばあさん一人だと心配だということで、家族が老人ホームにいれちゃったから、今は、空き家なんですよ」
というのである。
おばあちゃんの生活感が、まだ、そこかしこに、残っていた。
ここで、いったい、どういう絵が生まれるのだろう、と父ちゃんはしばらく考え込んでしまった。あまりにも、森の中過ぎやしないだろうか?
最近、夜の2時くらいに咳が出る。これが、なかなかとまらないので、もしかして、気管支炎とか、肺炎とか、肺がん、だと、困るな、と思っていた矢先であった。
この森の中まで、救急車来てくれるかな、と思わず、考えこんだ、父ちゃん。
そもそも、絵描き、むかないかもしれない・・・。いまさらだけれど・・・。
それに、熊とか、出てきたら、どうしよう。
熊は出なくても、蛇は絶対にいるし、あしながバチが、巣を作ったら、どうしよう、とか、いろいろと考えて、ひよった、父ちゃんであった。
「素敵な家ですけど、ちょっと、考えますね」

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」



昼、昨日の予告通り、太巻きを作って、食べた。
知り合いに沖縄産のもずくを貰っていたので、(塩抜きをして、冷水で洗い)生姜をすって、それも頂いた。
太巻きの中に、市場で買ったエビ、卵焼き、ほうれん草、きゅうり、かんぴょう、を入れた。とにかく、美味しかった。残ったものは、冷蔵庫に入れておくと、味がしみて、さらに、美味しくなるのであーる。夜も、太巻き! 決定!

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

※ 最悪、ノルマンディに、太巻き屋、というか、巻き寿司の専門店をやる、という、老後はどうであろうのー。うわっはっは。これが、マジで、美味かったのじゃ!

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

午後、チャールズから、使われていないガレージもある、と連絡があり、見に行った。
コンクリートに囲まれたガレージなので悪くなかったが、どの物件も、安いだけあって、ちょっと物悲しい雰囲気がそこかしこから滲み出ている。
アトリエにするなら、リフォームをしないと難しそうだな、という結論に至った。
でも、今日、見た中では悪くない方かな。周辺には民家もあり、ちょっと歩くと、パン屋もあった。パン屋くらいないと、生きていけないしね・・・。カフェもほしいね。あ、できれば、レストランも、・・・あはは。
ここなら、救急車も来てくれるし、ガレージなので、自分の車も駐車できるかな。
でも、どちらにしても、ちゃんとしたアトリエにするには、ここも、かなりの手入れが必要だ。
ま、焦らず、ゆっくり探しましょう。
でも、アトリエにこもって、絵を描く暮らしって、まさに、仙人みたいになりそう。父ちゃん、世捨て人になる日も近いのではないだろうか? 
やれやれ。

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

滞仏日記「広いアトリエが必要な黄昏父ちゃん画家だが、なかなかいい物件がない」

※ 老後が近い。日記が更新されない日が二日以上続くときは、やばいですよね。あはは。もちろん、そのためにスタッフさんや、息子がいてくれるから、大丈夫ですけれど・・・。みんな、一緒ですよね。人生って、そんなものです。あ、さんちゃんもいた!



つづく。

ということで、ここ3日ほど、夜中の2時過ぎくらいになると、不意に咳が出て、眠れなくなるのでした。で、東京の耳鼻咽喉科の先生に症状を伝えたら、気管支炎の可能性が高いから、そちらの病院に相談をしてください、と言われてしまったのです。心細いね。若くないし・・・。もしも、今夜も咳が出たら、やはり、一度、病院に行かないとならないでしょうね。夏のツアーが過酷だったから、あちこち、ぼろぼろな父ちゃん。これで、再び、気管支炎ということになると、アトリエどころじゃない、よね?
ああ、生きるって、大変ですね。皆さん、一緒にがんばりましょう! えいえいおー。

はい、ということで、父ちゃんからのお知らせは、いつもの、「エッセイ教室」と「ラジオ・ツジビル」に、ついてです。
エッセイ教室は、こちらからです。

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