JINSEI STORIES
ニッポンごはん日記「さよなら軽井沢、美味しいものと芸術をありがとう。東京に向かいます」 Posted on 2024/11/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、パリのぼくの個展で「明日の約束」というタイトルの大きな絵を購入されたフランス人マダムのAさんから、お部屋に飾られた絵の写真が届いて、うう、とため息がこぼれた父ちゃんであった。
「ムッシュ、あなたはいまどこでこの写真をご覧ですか? 日本のどちらにいるの? あなたの絵を私は毎朝、起きて、コーヒーを片手にもって、うっとりしながら、眺めています。心が穏やかになり、たいへん、幸せです。あなたが日本で新しい創作のヒントを得ているだろうことを祈りながら。A・H」
とのメッセージ、ぼくは返事を戻した。
「マダム、とっても素敵に絵が飾られていて、嬉しく思っています。ぼくは日本でレオナルド藤田の作品ばかりを展示しているミュージアムに通い、パリで生きた藤田によって描かれた絵に大変強いシンパシーと刺激を受けています。不思議なことに、あの時代の色や空気や匂いが学芸員たちの努力でそのまま現代の日本に飾られて生き続けているのです。ぼくも在仏23年になりましたが、描いたている絵はすべてパリかノルマンディでの作品になります。藤田嗣治を見ながら、自分の半生を振り返り、あのような色彩を描ける画家になりたい、と思いました。「明日の約束」は人間の希望を描いた作品ですから、いつまでもその白と黒の色彩が残り続けて希望の光を放ち続けてくれることを祈っています。あなたに感謝をします。H・T」
この絵の配置は、プロの業者の方がアクロッサージュ(かけて)してくださった。
うっとりする眺めであり、静かな空気を感じる。それなりにいい仕事ができたことに、満足なのであった。
一方、日本に入ってからのぼくはキャンバスも絵筆もないので、暇な時間はほぼすべて、ゲラと向き合うことに費やしている。
今日は1月に出版予定の「犬と生きる」(マガジンハウス)のゲラ、第一原稿とにらみ合った。この日本滞在中に、ゲラを戻さないとならない。
さすがに、250ページもある本のゲラをメールでのやりとりではかたずけられないので、ペンを入れている。
コツコツした作業なのだ。最近は絵ばかり描いていたので、文章の直し、ゲラのチェックのような仕事から離れていたこともあり、新鮮だけれど、感が戻るのに少し時間がかかった。
日本で美味しいものをつまみぐいしながら、午後は、ほぼ、ゲラの整理に追われた。
最新刊になる「犬と生きる」は三四郎と出会って、三四郎が三歳になるまでの記録であり、犬がぼくに何を与えてくれているのか、だけを、まとめたエッセイ集なのである。
すると、そこに、ジュリアから、三四郎の仲間たちと過ごす普段の映像が届けられた! グッドタイミング!!!
三四郎はビデオの中で、大きな犬たちに押し倒されていた。
でも、それはイジメではありません、とジュリアは言う。
大きな犬は三四郎を小突いて倒すのが楽しいらしく、三四郎はぶぜんとしながらも、倒され続けるという不条理な動画であった。
「ダメよ、それはよくないわ。ダメよ、そんなことしちゃ」
とジュリアの声が聞こえるが、周囲のドッグトレーナーたちは笑っている。
「ムッシュ、これは、この子たちの遊びなんです。私がちゃんと見ていますから、安心してくださいね。この二人はとっても仲良しなんです。仲良しすぎて、こうなります」
なるほど、人間も、そうだね・・・。
好きすぎて、嫌いになることあるものね。あはは。
今回の来日は、ツジビルの村祭りが銀座のYAMAHAホールであって、軽井沢に移動して藤田嗣治をじっくりと鑑賞させてもらい、しまちゃんのオーベルジュに滞在して、美味しいごはん、朝ごはんを食べながら、「犬と生きる」のゲラのチェックをやって、なんか、芸術の秋を十全に楽しんだ、父ちゃんなのであった。
このあと、すき焼きでも食べてから、日本に戻りたいと思うのです。
東京駅で会いましょう、あはは。
※軽井沢で頂いたチーズなんだけれど、左側に日本のチーズがあって、その中に、日本酒で作ったものがあって、美味しかった。あはは。
※ しまちゃんとは長い付き合いだけれど、年輪だね、お互い楽しく生きたろう!!!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
また、パリに戻ったらすぐに三四郎を迎えに行かないとならないです。日本もバタバタと短い滞在しかできず、申し訳ありませんでした。でも、いろいろと美味しいものを満喫させてもらったので、あとで、美味いもの総集編やらなきゃ、えへへ。
ということで、日本で額装をしたぼくの大作「NEHSAN」が現在、下記のような感じで、12月14日まで、展示されていますよ。
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辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-
主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)
開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)
閉館日 日曜日・祝日
臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)
臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください