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ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」 Posted on 2024/11/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、長野県、軽井沢なのであーる。
ここでぼくは、紅葉を見ながら、人生の小さな休息を持っているのだ。
人間ドックの結果を待ちながら、長野の山の中で、深呼吸をして散策しておる。いいのだよ、こういう時間、必要だね。
紅葉が本当に美しい季節である。
25年ほど前、この近く(小淵沢)に住んでいたので、この秋の匂い、空気の冷たさ、よくわかる。
人生には「小休止」という時期が大切で、まさに、それが今なのかもしれない。
ぼくの友人のしまちゃんが、この辺に住んでいて、オーベルジュ(宿泊施設のついたレストラン)を持っているので、少しのあいだ、そこに滞在をし、来年のことを考えようと思っている。
来年の自分、大事である。
どこまで生きるかわからないが、時々、人生の軌道修正をしないとならない。
そういう時は、空気が新鮮な森での一呼吸も、またよい。
新鮮な空気を吸い込みながら、非現実的な世界で、さあ、どうしましょう、と自問をする「問いかけ」の時間。

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」



とはいえ、腹が減るので、蕎麦屋に入った。
今日は、ユゴー君が一緒なのだけれど、この男については、明後日の日記で、詳しく、ご紹介します。
のれんをくぐると、テーブルが並んでおり、お好きな席にどうぞ、と言われたので、壁際の小さなテーブルに腰を落ち着けた。
おしながきなるものを、意味もなく眺める。
味噌こんにゃく、もつの煮込み、ジャコの天ぷらというのがあったので、しかも、どれも、3~400円だった。
それらとビールを注文した。
ジャコの天ぷらに関しては、予想を覆すものが出てきて、もちもちしており、食べたことのない美味しさであった。
フランスでは決して食べることのできない味だ。
ユゴー君がビールをついでくれた。
書生のような青年で、ここ最近、ぼくが東京入りすると、いろいろと世話をしてくれるのだ。助かっているのであーる。

来年は、どうしよう。
田舎のアトリエを完成させることが大きな目標となっている。
畑を作って、自家栽培を始められそうなので、そうなると、もう、なかなかパリへは戻れなくなりそうだ。
パリの事務所を縮小し、アートにもっと軸足を移そうと思っているので、思い切って画廊街の中に、事務所も移転する、予定(現在、探し中)。
春くらいには、一気に環境も変えるつもりだ。
アトリエが完成をしたら、宇宙を題材にした巨大な作品に着手したい。
もう、そうなると、生き方も全部変えないとならなくなりそうだ。
トマトなどの野菜を育てながら、キャンバスに向かう、静かな時間のスタートになるだろう。
そういうことを軽井沢の蕎麦屋さんで、構想した。

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」



ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」

※ こういうの、いいですよねー。たまりません。

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」

※ これがじゃこ天である。想像以上にもちもちしており、美味い! ビールと相性抜群なのである。そろそろ、蕎麦を注文しなければ・・・。



それから、アトリエの一角に、古い机をおいて、そこで、久しぶりに小説と向き合いたいな、と思っている。
ここ数年は、絵の方に頭と気持ちがシフトしていたが、海外での翻訳がいくつか決まったので、新作が必要になるし、そろそろ、書かなきゃなという焦りもある。
書き方を完全に忘れてしまう前に、文章を取り戻す必要がある。
藤田嗣治は、たくさんの手紙を書いて、友人におくっていた。
字の綺麗な人であった。
とくに絵日記というのがあって、それが面白かった。
小さな絵が、たくさんの文字で囲まれているのだ。
ぼくもノートを取り出し、軽井沢をスケッチし、そのあと、自分の気持ちを、詩のようにちりばめて、綴ることに。いつか、そういう一冊を出版したいね。
こういう、ささやかな創作を来年以降はもっともっとやっていきたいな、と思った。
軽井沢で、藤田から、いろいろとインスパイヤをされた。
ぼくはここから車で15分ほどの山梨県小淵沢に家を持っていた。
その森の生活のことを思い出した。
創作と生きることをこういう田舎で続けられる人生は豊かだと思う。
かまびすしい世界だから、出来るだけ離れ、耳をふさいで、創作に没頭したい。
新蕎麦があまりに美味かった。
信州にいるんだ、と思った。
ぼくはなんでノルマンディにアトリエを作っているのだろう、と思った。なんで、藤田はチューリッヒで死んだんだろう、と思った。
彼はランスの地に骨が埋まっている。
何を思って、人生を閉じたのであろう。ぼくもそこで死ぬのか・・・。
雨の朝、パリに死す。
運命というのは、予想通りにはならない。
しかし、ぼくは、来年の準備に入っている。
とりあえず、生きることを選ぶ。

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」

ニッポンごはん日記「軽井沢で新蕎麦を食べ、心を落ち着かせ、人生をふりかえる」

人生は、つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
三四郎君は、友だちたちと雪が降りしきるパリの公園で、楽しく過ごしているようです。彼は、ぼくがいない時は、友だちとたちと野原を走り回っています。ぼくがパリに戻ると、ぼくの横で、丸くなってずっと寝ています。バランスがいいですね。ノルマンディにアトリエが出来たら、森が遊び場になるでしょう。そこに三四郎の小さな家を作ろうと思っています。いいね。

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