JINSEI STORIES
フランスごはん日記「三四郎が毒殺される!? 近所で犬を毒殺する事件が多発中」 Posted on 2024/11/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、交差点で、なかなか歩こうとしない三四郎に(最近、とにかく出不精で、外に出たがらないで困っているのだ)、業を煮やして、動くまで、携帯を覗いていると、年配のマダムが、怖い顔をして、三四郎を指さしながら、近づいてきた。
「あなた、気をつけなさいね」
いきなり、そんなことを見ず知らずの人に言われる筋合いがないので、変な人かもしれない、とまずは、携帯をポケットにしまって、身構えた、父ちゃんであった。
「この子から、目を離しちゃだめよ」
「・・・」
「この辺で、最近、7匹の犬が毒殺されたのよ! 知らないでしょ?」
え? 聞き間違えたかな? と、思い、
「毒殺? 毒をもられた、ということですか?」
「ええ、そうよ。その辺に、犬を殺す毒をまいているやつがいるのよ。まだ、逮捕されてないから、気を付けて」
「あ、はい」
「七匹よ。この辺で、七匹も殺されたんだから」
ぼくはびっくりして、三四郎を振り返った。
三四郎が、何か、落ちているものの匂いを嗅いでいるので、慌てて、リードを引っ張った。
「そうよ、そういう風に、お菓子みたいなものに、毒を忍ばせているかもしれないの。一気に死んじゃうんだから、恐ろしいことよ」
「それ、すごい悪質な事件ですね」
「ええ、こういう公園が近い場所に、犯人は、毒をまいているの。犬はわからないから、食べちゃって、死んじゃった。でも、7匹が同時に不意に死ぬのおかしいから、わかったのよ。気を付けて。目を離しちゃだめよ」
年配のマダムは、そう言い残すと、すたすたと歩きだした。
そして、次の交差点で、犬を連れたマダムを呼び止め、また、話していた。同じことを忠告しているのであろう。
七匹、いっぺんに、恐ろしすぎる。
今の時期は、どこもかしこもパリは落ち葉の絨毯が敷き詰められており、毒をまかれていても、わからないのである。
三四郎のリードを外して、走らせているから、ちょっと目を離したすきに、ぺろっと落ちている毒を食べかねないから、恐ろしいのだ。
帰り道、犬を飼っているご近所の仲間の一人と会ったので、さっきこういうことを言われたけれど、ほんとうか、と訊いてみた。
「ええ、そういう話しは聞いたわ」
とオバマのお母さんが言った。
「恐ろしい話だけれど、知り合いの知り合いが、やはり、愛犬を毒殺されているのよ」
「マジですか?」
「まくのよ、毒を」
「そんなひどい」
「同じ日に、2匹死んでいるから、毒だって、わかったの」
「信じられない」
「いいえ、用心しないと、ここは都会だから」
「そうですね。おかしな人もいますから、気を付けます」
ということで、事件が解決するまで、三四郎のリードを外せなくなった。
こりゃあ、悲しすぎる。
7匹の親たちは、不意に、毒殺された愛犬のことで、胸が潰れそうな日々をおくったことであろう。
「さんちゃん。帰ろうか」
「・・・・」
ポケットから、ビスケットを取り出し、与えた。
「へんなもの食べちゃだめだよ」
でもねー、わんこだから、美味しそうなにおいがしたら、ぺろっと食べちゃうんだよな・・・。うわ、想像しただけで、きつい。
帰ろ・・・。
さて、気分を変えるために、ワンプレーとランチ、を作った。
昨日のにんにくスープが残っていたので、これに、予告通り、ごはんをいれて、おじやにしてみたのだった。
それにあわせるために、にんじんのシリシリ、アリコベール(いんげん)サラダ、牛のハラミステーキ、そして、特製、ポテサラスパゲッティ、えへへ。食べすぎでしょうか?
ちゃちゃっと、残り物を工夫して、こしらえたのであーる・ぱちーの。
でも、なかなか、気持ちがすっきりとしなかった。
足元に三四郎がいて、ぼくを見上げていた。
普段、あげないのだけれど、いんげん、をちょっと与えた。
「変なもの、食べるなよ」
お腹すかせて、変なもの食べて死なれたら悲しいから、だったら、ぼくが食べているものを少しくらいあげてもいいだろうか、と思ってしまった、父ちゃんであった。
パリだけじゃないだろうけれど、ペットを飼っているみなさん、気を付けてくださいね。とくにパリで今、流行っているようなので、パリ在住の皆さんは、とくに・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
三四郎を抱きしめて、今日はゆっくりと休むことにします。また、明日!
辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-
主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)
開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)
閉館日 日曜日・祝日
臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)
臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください