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フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」 Posted on 2024/11/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は「明日の約束」という大きな作品を購入してくださったマダムAさんの家まで、絵を届けに行った。
業者さんに頼んでもよかったが、家が近かったので、散歩がてら、届けに、笑。とはいえ、16区の閑静な住宅地なので、車を手配した。
「ムッシュ、ひとなり。私はあなたの絵を、画家の意見をききながら、一緒に飾る位置を決めたいのよ」
ということで、こういうことはしたことがないのだけれど、実は、Aさんがフランスでの一番最初のお客さんだったこともあり、作品も一番、大きな作品の一つだったので、壁に飾ることろまで、ちょっと見届けたいな、と思って、笑、ちらっとお邪魔したのであった。
ブーローニュの森の真ん前、どえらい場所に住んでおられた。
ドアベルを鳴らすが出てこない。すると、車のクラクションが、振り返ると、マダムが、コリアンダーをもって立っていた。
「ムッシュ、ひとなり。あなた、コリアンダー食べられる?」
「はい」
こんな、玄関で、する会話か? ってか、食事するの? ESSEの締め切り日だったので、早く原稿を送らないとならない。食べる時間あるかな?
「あなたのために、トマトサラダを作ったから、ちょっと食べて行って」
ということで、そういう流れに、・・・。

フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」

フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」

※ こんなドアの前で、しばらく、こうやって、立って待った、おやじ。



ということで、まずは、絵をサロンに運びいれて、その壁を、チェック。
ソファの上に、確かに、絵を飾ることが出来る大きな壁がある。
「ここ、どう?」
「ああ、素敵ですね」
なんか、ちょっと、感動をした、父ちゃん。
このAさんは、40年も暮らした自分の家のこの壁に、ぼくが描いたのを飾って毎日眺めるのだ、という・・・。しびれません?
「画廊でひと目見た瞬間に、これしかない、って、思ったのよ」
「ありがとうございます」
「で、この壁に飾りたかったの」
「どうも、恐縮です」
ええと、絵を買ってくださった方はすでに結構いるのだけれど、ここまで、家の中に入り込んで、一緒に飾る場所を決めたことはない、ううう、はじめてかなァ~。
えらそうに、画家です、とは言えないが、こうなったら、巨匠のふりをしよう。背筋を心なしか、伸ばして、巨匠のふりをする、父ちゃん画伯、あはは。

ブーローニュの森に面した側の窓が広く、光がかなり入るのだろうな、と思った。
「小さな照明を買って、光をあてる、つもりよ」
「いいですね」
「ひとなりさん、この絵は、どういう気持ちで描いたの?」
「これは、心の安寧を描いた絵です。かまびすしい時代ですから」
「ああ、毎日、この絵を見て、あなたのその言葉を思い出すのね」
「ぼんそわーる」
とそこへ、ご主人がかえってきた。
ここの家は、マダムの家なのだそうだ。二人は再婚で、別々に家があるのだという。だから、彼女は、自分の家にこれを飾ることにしたのだって・・・。
ということで、絵の位置をみんなで考えたのであーる。

フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」

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※ 絵の下に、えんぴつで記をつけるマダム。ぼくよりも一回りも年齢が上なのだが、この絵と共に、長生きをするんだ、と呟いていた。嬉しい・・・。



絵を飾る位置が決まったところで、ア・ターブル! (ごはんにしましょう!)
「ひとなりさん、わたしは料理はしないから、スペインから取り寄せたものを、つまみましょう」
マダムは料理が苦手なのだそうで、でも、この日のために、スペインから取り寄せた料理の説明をするマダムが、かわいかった。
で、トマトサラダはご主人が作る担当・・・。彼は料理好き、らしい。
エスパドンの燻製、サーモンの燻製、チーズ、ご主人作のトマトサラダ、そういうものが、並んだのだった。
フランスのお招きごはんって、けっこう、こういう感じかな、シンプルなのだ。※ 実は、マダムは有名レストラン作のフォアグラも買って、用意してくれていたが、ぼくが、そんなに食べられない、とお伝えし、フォアグラは、無しに、・・・。普段から、フォアグラは食べない主義なので・・・。ごめんなさい。
ま、しかし、ぼくが逆の立場なら、たくさん、料理して頑張っちゃうところなのだけれど、ねー、いい勉強になりました~。笑。
取り寄せたものをさらりと並べるこのやり方、なかなか、いいよね。マネしたい。
ということで、そこから、おしゃべりに花が咲いて・・・。

広いサロンの横がそのまま寝室で、大きなベッドが壁の向こう側にあった。
「朝起きたら、まず、この絵を見るの。きっと、長生きできるわね」
「いいですね。長いお付き合いになりますね。あなたが、これを持ってくださって、光栄だし、嬉しいです」
ぼくらは、絵をふりかえって、しばらく、それを微笑みながら、見つめるのだった。
「乾杯!」

フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」

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※ このコンテ、信じられないくらいに、美味しかった。柔らかくて、口の中で、とろける~、最高でした。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
自分が生み出した子供というか、分身が、この壁におさまって、時を刻むのだな、と思うと、なんかね、不思議な感動があります。よかった。「明日の約束」くん、元気でね。愛されるんだよ、マダムに!

辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-

主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)

開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)

閉館日 日曜日・祝日

臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)

臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください

フランスごはん日記「絵を購入されたマダムの家に絵を届けに行くと、ディナーが用意されていた、笑」

自分流×帝京大学

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