JINSEI STORIES
フランス熱血日記「失敗は失うことではない。時間がない時は作ればいい。青春は何歳までか?」 Posted on 2024/11/14
某月某日、順調だと思っていたが、描いた絵を壁に飾ってみたら、ぜんぜん、ダメだったので、その絵をボツにした。
かなり大きな作品で、しかも、8枚もの連作だったので、一年近く取り組んできたものだし、それなりに自信があったからなおさら、壁にずらりと並べてみたら、違う、・・・衝撃が走った。
ダメだ、これは発表できない。
朝4時に起きて、夜寝るまで、コツコツコツコツ、地道に描いてきた作品群だっただけに、今、かなりの脱力感の中にいる。
強烈過ぎるのだ。やりすぎた。
ていうか、何で今まで、気づかなかった?
自信が粉々に砕けた。これじゃ、ダメだ。こんなもの、くそだ。
小説も、未発表の作品があるが、小説の場合は、データを消せる。ボタン一つで、この世界から、消し去ることが出来る。
でも、絵は、キャンバスに塗りたくっているので、消せないからしまうしかない。
畳一枚もの絵が、8枚、なかなか、捨てることもできない。
若い頃の作品が結構眠っている、「墓地」と呼んでいる地下倉庫に保管する。
死ぬ前に、開封したら、もしかしたら、気持ちが変わるかもしれないが、次の個展に出すのは、やめた。
こうやって日記で、ぼくの人生をことこまかに書いているが、書けないことの方が多い。というか、創作しているぼくなんて、日記に書いてもつまらないからね。
朝、4時に起きて、身体をほぐし、コーヒーを飲んでから、真っ暗なアトリエで、ぽつんと画布に向かっている。
朝日が出てくるのが、7時半で、三四郎が起きてくるのが、8時半・・・。
手は油まみれで、鏡に映った自分の顔にも、油絵具が付着している。
今、ぼくの目の前に49枚の作品が並んでいるが、このうち、8枚はボツになった。
もしかすると、もっとボツになるかも・・・。
たぶん、自分、ちょっとおかしくなっている可能性がある。
今朝、暗かったせいもあるけれど、足の踏み場がないので、床に描きかけの作品をおいておいたら、踏んづけてしまった。あはは。
こんな年齢で、何をとりつかれているのか、と思うほど、のめり込んでいる。
表現がしたいものがあって、それを描きたいのだけれど、色とか、線とか、到達したいものが、理想が、目標というか、目指している場所に手が届かない。
でも、自分が納得できるものを、のみ、展示したいので、ボツ。
これは何だろう?
ぼくは何だろう?
やれやれ、夜が明けるのを待って、三四郎と散歩に出た。
ぼくが今、描き出したい世界は、新しい叙事詩のようなもので、ぼくらが生きているこの宇宙のはじまりとその終わりを、画布の中に、創造したいのである。
言葉にすると、こんなことになるのだけれど、まるで、新しい創世記を書くかの勢いで、そこに描きこんでいくわけで、だから、一筋縄ではいかない。笑。
あらゆる言葉を駆使してもえがけない世界を、油絵具で、記そうというのだから、やになっちゃう。
限られたキャンバスの中に無限を詰め込もうとしているのだから、無理だろ。
そりゃあ、ボツになるね。悔しいな~。
一からやり直しだ。
さすがに、ここまで描いてしまっちゃ、修正はできない。
捨てるしかない。
潔く捨てて、新しく生み出すのみ、である。
※ これもぼくの「宇宙」の一部だけれど、発表の予定はありません。「時の記憶」というシリーズの0番になります。来年の個展はこういう色味でいくよ。
額縁屋のフィリップのところに「寛容」という作品の額装を頼んだ。
息子の恋人君がくれたチョコレートが、今のぼくを癒している。
現在、ダイエット中だけれど、甘いものは、すさんだ心を癒してくれるものだね。
別に、人生に締め切りがあるわけじゃないから、この日記を書いて、ふて寝をしたら、きっと、また、描き始めている。
見えているから、必ず、それを抽出できるはずで、この失敗も、失ったわけではない。
失ったのは時間だけれど、ボツにしたことで、ぼくは必ず何かを掴んでいるのである。
そうだ、この1年が無駄になったわけじゃなく、この道ではなかったことに気が付けたのだから、途中まで戻って、別の道に入ればいい。
ただ、ぼくは65歳だから、40歳や30歳とはわけが違う。
何度も後戻りができないかな、とは思っている。
でも、死に絶えるその時まで、猶予、はある。
描き切りたいので、明日から、また、人知れず画布に向かうのみ。
ああ、腹が減った。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、気分を変えないとなりません。まあ、時間はあるんです。そして、時間は作るものだから、やれば可能です。自分が生きているあいだに、宇宙、を完成させればいいんだから・・・。
辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-
主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)
開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)
閉館日 日曜日・祝日
臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)
臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください
あ、明日、ラジオだ。元気を取り戻そう。元の気、大事。
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