JINSEI STORIES
フランスごはん日記「ついに息子の恋人と対面した父ちゃん、ああ、こんな日が来るとは」 Posted on 2024/11/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ついに、息子の恋人君が我が家にやってきた。やあ、やあ、やあ!
18時ちょうどに、ドアベルが、ぴんぽーーーーん♪
「お、来た!」
三四郎がソファから飛び降り、猛ダッシュ。父ちゃんはインターホンで、表玄関の扉を解除、ドキドキ、しながら、玄関をそっと、あけた。
笑顔で近づく息子の後ろに、いた。
おおお、息子の恋人じゃないか!!!!
まず、第一印象、
「性格、良さそう・・・」
第二印象、
「かわいい」
第三印象、
「息子、こんな素敵な子と、毎日一緒なんだ。うらやまいい」
であった。
「はじめまして」
とぼくが仏語で言うと、「はじめまして」と日本語が戻って来た。
第四印象、
「日本好きで、頭がよさそう」
スリッパを二人に渡し、履き替えていただく。
息子が彼女をソファに連れていく。ぼくは急いで、飲み物(ペリエ)と「アミューズ」を用意して、持っていく。もちろん、若者たちはお酒は飲まない。
ぼくは落ち着かないので、一人だけ、ワインを、飲んだ。
まずは、「サンテ!(乾杯)」
グラスを傾けあった。
そわそわするが、堂々と父親らしく、しておかないとならないので、背筋をはって、娘さんと向き合った、父ちゃんであった。
「お名前は?」
たどたどしい仏語で訊いた。
「R・・・です」
Rちゃん、オーラがある。楚々とした子で、フランス人らしさがない。それもそのはずで、レユニオン島出身で、田舎の子なのだ。
でも、すらっと背が高く、ジーパンとセーターを着ているだけ、コートも着てこなかった。パリジェンヌとは違った雰囲気、それが第五印象であった。
軽く、世間話・・。
「学生さんですよね? どちらの学生さん? 専攻は?」
「ソルボンヌ大学の文学部です。世界文学の勉強をしています」
ああ、素晴らしい。ぼくは立ち上がり、拙著「海峡の光」の仏語版を、一冊書棚から取り出し、サインをして、手渡した。
「ありがとうございます。しっかり、読ませて頂きます」
うっすら、微笑みを浮かべてみせる余裕を回復した、父ちゃんであった。
「二人はどこで知り合ったの?」
訊きたいことを、ずけずけと訊いていく・・・。
「ソルボンヌのパーティで、会った」
と息子君が横から割り込んできた。お前には聞いておらん、と思ったが、笑顔で、そうかそうか、そういう出会いか、青春やね、と日本語で、戻した。
Rちゃん、ぼくが日本語に切り替えると、え、なに? と息子に質問をする。
なんでも、把握しておきたい子、というのが、第六印象であった。
「じゃあ、料理の準備するから、二人で、ゆっくりしていてね」
と言い残し、キッチンへ・・・。
にやにや、微笑んでいる、きっと、幸せな、男になっていた。
想像以上に、息子にはもったいない子である。
ま、でも、間違いなく青春の1ページだから、どうなるかわからないし、とりあえず、今が幸せならばいいじゃないか、と思った、父ちゃんであった。
あはは・・・。
さて、今日の料理は、昨日の日記で、予告通り、のものが予告通りにできたが、実は、上のお話が長くなってしまい、とある料理を焦がしてしまった。
「じゃあ、料理の準備するから、二人で、ゆっくりしていてね」
と言い残して、廊下に出たら、匂う・・・。ああああああ
火がつけっぱなしだった。
一つ、煮物を用意していたのだけど、それは焦げた。上澄みだけ、別ザラにうつし、仕方がない、明日、ぼくが食べよう・・・。あはは。
はい、では、作った料理の数々を、御覧ください。
こちらになります。
※ こちらはいつもの定番、ドライカレー、なのだけれど、下が、ターメリックバターライス、上が、牛ひき肉のカレーで、スパイスはアフリカのものを中心に作った。上に、ポーチドエッグ載せ。これを割ると、ずずっと黄身があふれて、美味いのだ。
※ こちらが、マグロ漬けのカルパッチョで、けっこう、たくさん載せたが、二人は、一瞬で完食であった。
「デリッシュー(とっても美味しいです)」とRちゃん。、やったね、父ちゃん!!!
しっかりと漬けたマグロを薄切りにし、ごま油で作ったソースをまわしがけし、コリアンダー、パセリ、ポワロー葱を散らし、金の胡麻をふりかけている、一品。なかなか、うまかったぞよ。
※ そして、鯛のポワレ、ジロール茸炊き込みご飯、ポテトマカロニサラダ添え。この鯛が養殖じゃないので、パリパリ、ふわふわで、やばいほど、美味しかったのじゃ。
※ そして、辻家名物のトンジール。欧風野菜で作った豚汁にバターを少し落とす、上に、ジロール茸を載せて、美味しいねー。バターと豚汁、あうので、やってみてね。味噌バターラーメンからヒントを得ています。
※ で、息子が、おかわり、というので、ぼくの分、用意していた鯛と残ったマグロをつかって、どんぶりを作ってあげたのだった。あはは。
三四郎が、もう、Rちゃんになついて、大変なのだった。若い女の子は、ミニチュアダックス好きな子が多い。ま、かわいいからね。
ぼくが料理をしている間は、三四郎が、二人の間に潜り込み、相手をして、
「サンシー、サンシー」
というRちゃんの声が家中に響き渡って、おったのであーる。
ま、絵に描いたような幸福な時間であった。
「今度、二人で、ノルマンディに遊びに来なさい。来年は、アトリエもできるし、二人が宿泊できる部屋もあるからね」
というと、
「ノルマンディにはまだ行ったことがないので、とっても楽しみです」
とRちゃん。
「今度、小さな畑を作って、自分が食べる野菜を自家栽培していくんだ。もっとおいしいごはんを作ってあげるから、ゆっくりと来なさい」
「わあ、ありがとうございます」
すれてない、素直で、明るく、でも、まったく、出しゃばらない、もう、こんな子がいたんだ、と驚きの連続であった。
その分、息子、大丈夫かな、と心配になった、父ちゃん。
「あの最後に、もう一つ、質問ですが」
「はい」
「こんな息子のどこが気に入ったんですか?」
一瞬、真空になる。
「全部だよね」
とまず、息子が横やりをぶちかました。お前には、訊いとらん!!!
「あ、そうです。全部なんです」
のろけられた。やれやれ。
「でも、誰に対しても穏やかで、毎日一緒にいるんですけれど、安心しかありません。幸せを感じています。こういう出会いに感謝しかないんです」
という、回答、はい、ご馳走様でした。あはは。
恥ずかしくて、二人の写真、撮影できなかった。
でも、三四郎を撮影するふりをして、二人の足だけ、撮ったので、ごらんください。
新しい家族になるのかな、よかったね、父ちゃん・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
更年期障害なのか、創作の苦しみなのか、ここんところ、ちょっとイライラしていた父ちゃんでしたが、Rちゃんに会ってから、心が凪いております。あの小さかった息子が、大人になったな~、と思った瞬間でした。これを幸せと言わないで、何を幸せというのでしょう。ここまで、生きてよかったです。「冬の虹」を歌いたくなりました。
はい、そんな幸福おやじのラジオは、15日、日本時間22時からになりますよー。のろけばなし、訊きたいですか??? ご視聴方法、詳しくは、下のTSUJIVILLEのバナーをクリックくださいまし。めるしー。
辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-
主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)
開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)
閉館日 日曜日・祝日
臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)
臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください