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フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」 Posted on 2024/10/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は朝から、暗かった、私の人生・・・。
その暗い知らせをマネージャーのMMから受けて(内容は言えませんが)、がくんと、落ち込んだ父ちゃん。仕事をする気にならず、仕事場で、虚空を見つめていた。
だれのせいでもないけれど、不条理なことに、その重荷はぼくのところにやってくる。
頑張ってやったものが、地面に埋没してしまったのだ。
そういう時は、悪いことが重なる。
いろいろと、暗い連絡がやってきた。メールを見るのもうんざりな一日となった。
実は、今日の日記の内容を、「スーパーポジティブに生きるコツ」にしようと昨夜考えていたのに、それが真逆になってしまった。
しかし、マネージャーにあたっても彼女の責任でもないし、スタッフのせいでもない。
もちろん、ぼくのせいでもないが、ぼくの仕事なので、ぼくがつらくなる。
頑張ってここまでやったのに、今は、気持ちが前にいかない。
その上に、目がまた結膜炎になった。
つい先月も結膜炎になったばかりなのに、また、目が真っ赤なのだ。おかしい。
それで、めっちゃ暗い父ちゃん、仕方なく薬局に目薬を買いにいったら、
「それは、かなり異常だから、眼医者に行きなさい。薬はありません」
と言われた。
「え?」
立ち尽くしていると、薬局のマダム、
「以上よ。眼医者」
と外を指さしたのだった。
「視界が白く霞んだりするんでしょ?」
「イエス」
「よくない病気の可能性もあるし、結膜炎でもそこまでのはなかなか見ません。悪いこと言わないから、見えなくなる前に、医者に」
そこまで、ひどいのか????

フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」



ということで、スタッフの岡っちに頼んで、近くの眼医者を探してもらい、予約をしてもらった。名医らしい。たまたま、15時5分だけ、予約がとれました、という連絡。
※ うちの事務所は、今、テレワークを実施中です。
「さんしー、パパしゃん、眼医者さんに行ってくるから、お留守番ね」
と言い残し、肩を落として、眼医者を目指したのだった。
歩きながら、
「なんで、こんなに頑張ったのに、うまくいかないんだ。踏んだり蹴ったりじゃないか! ぼくが何をしたって言うんだ。一生懸命仕事をしているのに、なんでだよ」
と世界中を呪いそうなくらい、悪霊が乗り移っているようなひどい状態であった。
目が霞むし、白くぼやけるので、絵も描けないし、文字も打てない。
くそ、なんでだ、と怒りさえ沸き起こってくる。
しかし、これはおかしい、と思った。そうだ、ぜったいに、おかしい。
人間として、こんな父ちゃんでいいわけがない。
こういうネガティブな自分でいいわけがない。
ちょっと待て、ひとなり、立ち止まれ、と誰かが言った。
そこで交差点で、立ち止まり、青い空を見上げた。青空でよかった。
しばらく、空を見上げながら、
「今日は、ここまでにしよう」
と自分に言い聞かせてみた。
「一回、休みにしよう。あとは、スタッフさんにまかせよう。今日はもう、ダメだ。こんな日に、頑張ってもいい結果が出るわけはない」
そうだ、と思った。
「お前、今、現金、いくらある?」
神様が言った。☜ 信仰はありません。
「今ですか?」
財布を取り出した。
画材を買うための100ユーロ紙幣が入っていた。
「今夜は、それで、飲め」
とぼくの神様が言った。父さんだろうか・・・。
「ひとなり、今夜は、三四郎に餌を与えたあと、好きなカフェに行き、好きなものを飲んでいい。浴びるほど呑んで憂さを晴らしなさい」

フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」



待合室には、二人のご老人がいて、新聞を読んでいた。
ぼくは先生に呼ばれるのを待っていた。
若い、すらっとかっこのいいドクターがやって来て、
「ムッシュ、ツジ?」
といった。ういー。
先生のあとについていった。わざと暗くしている診察室の、目の中を見る装置の前に座っていた。
「ひたいをおしつけて、顎を出して。ちょっと右を見て」
検査が行われた。
「日本人ですか?」
「ええ」
「3年前に、東京に行きましたが、素晴らしい街でした」
爽やかな、そして、紳士的なものいいだった。
彼は、東京で食べた料理のことを話しながら、処方箋を描いていた。
「ぼくの目はどうですか?」
「白目のところに小さなできものがあります。涙腺を汚れが塞いだので、目が充血しているんです。薬を出しますから、今夜から、やってください」
「心配する必要はないですか?」
先生が、白い歯を光らせて、大丈夫ですよ、と言った。
その時、神様の声が聞こえた。
「ほらね、いい兆しだ。今日は、100ユーロを使っていいから、何か美味しいものを食べに行きなさい。そして、明日から、また、頑張るんだよ」
ちょっと、腐らず、もう少し、がんばってみようかな、と思うのだった。
それが人生なのだ。

フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」

フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ま、いろいろとありますね。いくつもの問題点が一気にやって来たので、落ち込みましたが、眼医者さんで、落ち着くことができました。不幸中の幸いと言いますけれど、最悪はもっともっとあるはずで、その流れをある瞬間に、変えることが出来るのです。すいません。100ユーロ分、浴びるほど、使ってきます。また、明日、報告しますね。
えいえいおー。



フランスごはん日記「スーパーネガティブな一日だった。暗い今日をどうやってポジティブに変えるか!」

ええと、父ちゃんの生放送ラジオ・ツジビルは、25日、日本人時間、22時からです。
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