JINSEI STORIES
フランスごはん日記「さよならだけが人生だ。三四郎は寂しい秋のパリをテクテク、歩く」 Posted on 2024/10/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、三四郎の友だち、ミニチュアダックスフンドのウッディが引っ越した。
いつも、朝も夕方も夜も、いつもの公園で、会っていたのに、不意にウッディの家がボルドーに引っ越すことになって、それから、会えなくなってしまったのだ。
だいたい、いつも同じ時間に散歩をしていたので、同じマロニエの木の近くで、おちあって、一緒に遊んでいた。
でも、もうないないので、会えない。
でも、三四郎に「引っ越し」の意味などわからない。
「ウッディはね、引っ越したんだよ」
と言っても、三四郎はいつもの時間に、いつもの木のたもとに行くのだ。
けれども、そこに友だちのウッディはいない。
「いない」
そういう声が聞こえた気がする。
季節は秋なのだ。
風がふくと、落ち葉が舞って、かさかさ、という音をたてる。
その風が通り過ぎていく先を、じっと見つめる三四郎であった。
※ 右がウッディ。左が三四郎なのだ。ベルトまで、同じメーカーの同じカラー。
三四郎は臆病だから、他の犬が近づいて来ると、逃げるか、時には怖くて、吠えたりもする。めったに吠えない子なので、怖いんだろうな、と思う。
「ごめんなさい。この子、臆病なんです」
とぼくは相手の犬の飼い主に言う。
「そりゃあ、そうよ、小さい子だもの」
でも、ミニチュアダックスフンドには、吠えないし、怖がらない。
ウッディに限らず、他のダックスにも、尻尾を振っている。
わかるかのかもしれない、同犬種だということが・・・。
もしかすると、ウッディを通して、仲間だと思っているのかもね。
そのくらい二匹はいつも、仲良しであった。
べたべたするわけでもないのだけれど、寄り添っていた。
だから、いつもの場所に、ウッディが来ないのが、三四郎の心に、小さな穴ぼこをこしらえてしまうのだった。
仕方ないね、それが人生だから。
「帰ろうか?」
いつまでも、三四郎がウッディを待っているので、ぼくは告げた。
ちょっと抵抗をしたが、しょうがないのかな、という感じで、家路につく、サンシー。
何か、探しているように感じてならない。
ウッディを待っているのである。
ぼくは、リードをひっぱって家に戻り、ごはんをこしらえた。
ぼくがご飯を作っているあいだ、ずっと、三四郎は、ぼくの足元にいる。
エビのかき揚げを作っているので、危なくてしょうがない。
でも、寂しいのだろうから、気を付けることにした。
秋だからね、人間も、犬も、ものがなしいのである。
しょうがないので、蕎麦を、2本、あげた。笑。
生きていると、そういう寂しいことが付きまとうんだよ、とおしえた。
でも、ウッディの飼い主さんとは連絡先を交換しておいたので、いつか、ボルドーで、会えるかもしれない。
そのことは、言ってもわからないから、黙っておくことにした。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
フランスは秋がかなり深くなってきました。まだ、冬は遠い気がしますが、徐々にいい季節です。黙っていても、詩がうまれてくるような、そういう季節です。落ち葉舞う、秋の日の、さんちゃんのため息、身に染みて、ひたぶるにうらかなし。
さて、次回、パリからの生放送ラジオは、25日になります。日本時間の22時からです。下のTSUJIVILLEのバナーをクリックしてみてくださいねー。めるしー。