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フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」 Posted on 2024/10/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、競馬騎手、武豊さんが凱旋門賞に出馬するというので、武豊さんを撮り続けている、競馬界隈では。ちょっと知られた、あの男が、またまた、やってきた。
その名は、スーパーマー君!
武豊さんのカレンダーなどに毎年、素晴らしい写真を提供? いや、採用させてもらっている、(言い方が変ですが)カメラマンさんなのである。
武豊ファンの皆さんはよくご存じのようだが、普通は知らない。
なぜ、父ちゃんが知っているのか、というと、弟の恒ちゃんが社長をつとめる、父ちゃんの日本の会社の会計士さんなのだ。あはは。
実は何を隠そう、マー君は、会計士さんなのに、武豊さんにほれ込みすぎて、写真にのめり込み、武豊さんご指名のカメラマンになった、のだとか。
とはいえ、プロではないというか、この辺の事情がよくわからないが、勝手にマー君は、武豊さんのレースに足繫く通い、勝手に写真を撮影しているおじさんなのだった。
しかし、羨ましくなるくらい武豊さんへの推しが凄く、武豊さんの写真を撮影しても、武豊さんに近づいたり、一緒の席にいようとはしない、影武者のような存在なのだった。
ぼくなど、たとえば、ライブがあれば、ローディをやってくれるまこちゃんとかと飲んだりするが、そういうこと、武さんはないの? と訊くと、
「めっそうもありません」
と一言。
あまり、武豊さんのことを聞いちゃいけないみたいなので、ぼくはいまだ、マー君と武豊さんとの距離感がはかれずにおるが、とにかく、凱旋門賞の時期になると、勝手にパリ入りし、しかも、会計士だから、忙しいので、パリ滞在、2日とかで(中一日のこともある)、競馬場に行き、写真撮影すると、ぼくのところにやってくる、という不思議なおっさんなのである。
ま、ざっくりと言えば、「推し活」ですね。はい。
で、さかのぼること、コロナ禍の2021年10月、「パリ市内バスツアー&ライブ」の時がやはり、凱旋門賞と重なり、ちょうどレースがない時間にバスに乗り込み、撮影をしてくれた、ほら、あの写真のカメラマンが、実は、武豊さんのアン・オフィシャルカメラマン、スーパーマー君なのであった~。パチパチ。
前説が長いね。えへへ。
マー君が撮影してくれた、懐かしい、父ちゃんの写真は、こちら。
上手だよね。

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

※ 二階建てバスに乗って、パリ市内をぐるぐると巡りながら、ライブをやったのである。とにかく、揺れた。最高のアイデアだったが、揺れてしょうがなかった!!! なのに、望遠カメラで、この撮影、さすが、アン・オフィシャル・カメラマン!!!

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」



で、マー君、別に個展を観に来たわけでもないので、待ち合わせて、モンパルナスのぼくの行きつけのモロッコ料理に連れて行ってあげたのだった。
モンパルナス駅の真ん前にある、老舗のモロッコ料理で、モロッコ人の友だちに紹介されてから、時々、食べに行く。
お店の人たちはとって優しく、気さくで、居心地がいい。
大阪からやってきたスーパーマー君、初のモロッコ料理に、
「えええ、どういう料理が出てくるんですか?」
と興味津々。
「ま、日本の筑前煮とか、おでんとかに、似てる。肉がたくさん入った、おでんみたいな?」
「はー、想像できませんね」
と店内を見回している。
スーパーマー君に、メニューを見せても、競馬のこととお金のことしかわからないだろうから、こちらで勝手に選んで、さしあげた。
すると、次から次に、でかい皿に、どかどか、肉や、野菜や、なんだかわからないものが、どんどん、出てくるので、その都度、
「おおおおお、すごーい」
と大騒ぎになった。
普段、物静かな会計士兼写真家だが、異世界の料理に興奮が隠せない!!
「武豊さんと、ごはんとか、ほんとうに食べないの?」
「めっそうもありません」
「でも、ぼくとはよく食べるよね」
「すいません。いつもご馳走してもらって」
「いや、弟の恒ちゃんが世話になっているし、パリまで来たのに、何も食べさせないわけにはいかないじゃん。ぼくの会社の会計士さんなんだから」
「すいません」
口数が少ない。
あまり、いろいろと訊いちゃいけない。でも、逆を言うと話すことがない。
困った。
「フランスはね、衣装代とか認められないんですよ」
「えええ、マジですか? 」
「鉛筆とか、ギターの弦とか、タクシー代は認めてもらえる。あと、仕事の食事とか。でも、衣装代とか、ほら、YouTubeで料理とかしても、認めてもらえない、材料費も」
「厳しいですね」
「ぼくは、一応、アーティストだからね」
だから、弟の会社は、とくにYouTubeとか、デザインストーリーズなど、ぼくがアーティスト以外の仕事をする管理会社になっているのだ。ええと、電子書籍とか。
「なるほど」
これで、会話の90%は終わった。
「凱旋門賞、どう?」
「はい、いいですね」
「武豊さん、いつまでも現役で頑張っているね」
「はい」
うつむき、嬉しそうに、笑うのだった。あはは。
さっさと食べて、帰ろうかな。

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

※、ようは、世界一小さいパスタ(黄色いのね。これもクスクスというのだけれど、料理全体もクスクスという。ややこしや)がごはんのような役割をします。で、それにかけるソースがあり、ひよこ豆、などの添え物があり、野菜の添え物がどかっとあり、で、肉、という感じ。韓国料理もいろいろとついてきますが、あの感じです!!!

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

※ 下からひよこ前と、もう一つなんかお豆、これは「おしんこ」的な感じ。で、その上のソースを肉やクスクスにかける感じ。で、お肉は、子羊、ソーセージ、鶏肉、があり、横に、ちょっと見えるのは、たじーんというやはり子羊の肉ですかね。

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

ということで、マー君は朝、2時間も歩いて、競馬場まで、行ったらしい。
父ちゃんとごはんを食べた後も30分かけて、ホテルまで歩いて帰る、というので、モンパルナスタワーの前でわかれた。
「たくましい男になれよ」
とその背中に向かって、呟く、パリ在住、父ちゃんだった。
そして、ぼくは地下鉄で、家路に着いたのである。
会話、ほとんどなかった。
でも、彼が生まれてはじめてモロッコ料理を食べてくれたこと、感動してくれたことが、めちゃ、嬉しかった。
それでいいのだ。
スーパーマー君は、大阪在住なので、家族で、大阪フェスティバルホールの引退最終公演も見に来てくれた。
それでいいじゃないか?
ぼくは引退をしたが、走り続ける武豊さん、スーパーマー君を通して、勝手に身近に感じているのである。
また、来年もぜひ、凱旋門賞の時期に、お待ちしております。

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
個展は続いています。今日は、日本人のお客さんが前半、多かった、という報告がありました。日によって、客層もバラバラですが、いろいろな方々に関心を持ってもらえて、嬉しいですね。どこかで、顔を出さないとならないな~、と思っていますが、今日も絵を描いていたので、気が付いたら、行けそうにありません・・・。あはは。

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自分流×帝京大学

フランスごはん日記「スーパーマー君が凱旋門賞のためにやってきた。ぼくらはモンパルナスでモロッコ飯」

※ そして、10月15日に、父ちゃんのラジオ放送、生放送があります。月に3回のツジビル・村営ラジオ、です。下のTSUJIVILLEのバナーをクリックしてみてくださいませ。

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