某月某日、ロン毛のおやじだが、フランス人には「マダム」に見えるらしい。
アジア人は見分けがつかない、とギャルソンのパトリスが言う。
「なんの見分けが？」
「いや、男性か女性か、見分けるのが難しいし、年齢もよくわからない。みんな、日本人は、実年齢よりもかなり若く見える」
パトリスはぼくの年齢も知っているので、あなたはとくにね、と笑った。
あはは。
ということで近所の人たちには、男性アーティスト、ということで認めて貰っているが、これが、フランスの田舎とか、コルシカ島とか、空港のトイレとかだと、いちいち説明しないとならないので、面倒なのである。
コルシカの空港で、おしっこに行こうとしたら、出てきたおじさんに、
「あの、マダム、女性トイレは隣ですよ」
と笑顔で、指摘されたのだが、ぼくは、
「NO ,I have」
と、おじさまの制止を振り切って、奥へとどんどん入っていったのだった。
おじさんの、「？？？」という顔が、脳裏から離れない。
I have!!!!!

午後、個展のミーティングがあって、こちらのジャーナリスト（女性）の人と会うことになり、パリ中心部のカフェで落ち合った。
もちろん、その人は事前にぼくの写真を見ていたので、すぐにぼくだとわかった。握手をして、自己紹介などをやった。
そこに、ギャルソンがやって来て、
「あろー、ボンジュール、メダム」
と言ったのだ。
マダムという仏語、女性を呼ぶときの言葉で、訳す適当な日本語がない。マダムはマダムなのであーる。仏語辞書をひくと、カタカナで、「マダム」と出る。
で、女性が二人以上複数になると、メダム、になるのだ。
ぼくも年配のおばさんに想われて、メダム、になったという次第であったー。ええかげんにせーよ。
ジャーナリストさんが、一瞬、違うわよ、という顔をしたので、ぼくがすかさず、
「あの、ぼくは女性じゃないの。Ｉ　ｈａｖｅ」
と頷きながら言ったのだった。
「心配しないで、I have」
「You have?」
「Ｙｅｓ,I have」
みんなの視線が泳いだ。
「ああ」
とギャルソンがやっと気がつき、ソーリー、ユーハブ？　と繰り返すので、父ちゃんは微笑みながら、いぇーす、あいはーぶ～、と戻したのであった～、一同、大爆笑。
そこからジャーナリストさんとは、日本人のジェンダー感というか、そういう話題から、日本的な絵の世界観について、話しが弾んだのだった。あはは。

ま、今日はそんな一日であった。
画廊に飾る絵の最終チェックを事務所スタッフ総動員でやった。
みんなが帰った後、ぼくは「さて、マダム、何を食べますか？」と自問した。
外食でもよかったが、ここのところ、外出続きだったので、家で食べることにした。事務所スタッフさん用の小型の冷蔵庫と、ぼくと息子だけが覗くことのできる辻家専用冷蔵庫「ＳＭＥＧ」の二つがあった。
あけたら、なんか、いろんな、匂いがした。古い食材がたまっている、あの、嫌な感じ。
そこで、冷蔵庫の掃除を兼ねた、残り物を食べる日、ということにした。
生蕎麦があり、卵があり、豆腐があって、葱とかインゲン、サーモン、生ハムとかがあった。ほぼ、期限切れだったが、２，３日なら、ぼくは気にしない。
しっかり、火を入れたなら、食べられる。
ということで、父ちゃんマダムは、残り物を料理して、食べることにしたのだった。
ま、ご馳走ではないが、どれも美味しかった！
目玉焼きの下には鮭が隠されているのだ。醤油をかけて、ぐちゃぐちゃにして、
「いただきまーす！」
ひゃあ、美味しかった！

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
もう、泣いても叫んでも、いよいよ、パリでの初個展がスタートします。１０月ですねー。そして、ぼくはまた一つ、若返ってしまいます～。ここから、仕事を選んで、小さな世界を大切に、生きていこうと思っています。探していたアトリエですが、ブルターニュ方面に一ついい物件が出てきました。ブルターニュはノルマンディの隣県です。ま、物件次第ですが、それも、運命なので、出会いを、楽しみに、・・・人生は、つづきます。

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