JINSEI STORIES
フラ飯日記「お誕生日、おめでとう! 三四郎の3歳の誕生日をみんなで祝う」 Posted on 2024/09/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、2日、早く、三四郎の誕生日会を開いた。
ラジオの生放送のあと、スタッフさんに加え、息子とマノンちゃんが駆け付け、三四郎の3歳を祝う誕生日の会が盛大に行われたのである。
人間の年齢に換算すると、21歳ということ、らしい。
はじめて、三四郎と会ったのは、2022年の1月のことだった。
ノルマンディとイブリン県との県境にあったブリーダーさんが営む犬屋敷まで、ぼくは生後4か月目の三四郎を引き取りにいった。
鼻に噛まれた痕があり、売れ残ってしまった小犬のさんちゃん。
びくびく、怯えていた。
でも、一目見て、この子だな、と思った、その直感が、3年も続いたことになる。
すっかり、成犬になり、破壊癖、噛み癖もなくなり、吠えない静かなわんこに成長を遂げた。息子にとっては、家族の一員であり、スタッフさんたちからはかわいがられ、どこに行っても人気者の三四郎になった。
うちにやって来た日は、田舎からいきなり大都会で出てきたこともあり、ぎゃんぎゃん、泣き続けた。パリはあまりに恐ろしい大都会だった。
犬小屋の中でおとなしくしてくれなくて、結局、ベッドの横に犬ベッドをおいて、ぼくの足をくっつけて、一緒に眠った。
最初は、おしっこシートにできなくて、息子の部屋の前で、よくやっていた。受験生だった息子が、夜中に、
「わ、爆弾ふんだ!」
と大騒ぎしたこともあった。
一つ一つ、人間と同じように教えて、ダメ、ノー、から覚えさせていった。
甘やかすと大変になるから、とブリーダーさんにも教えられ、心を鬼にして、やっていいこと、いけないことを覚えさせた。
ぼくの部屋に忍び込んで、ケーキをまるごと食べてしまったこともあった。その時は、ものすごく叱った。それ以来、仕事場への出入りはできなくなった。
我慢することを、少しずつ覚えていった三四郎、今はもう「ダメ」と言えば、諦めるし「待て」と言えば、食べたいおやつから視線をそらし、許可が出るまで待つこともできるようになった。
ピッピとポッポ(おしっことうんち)は毎日、決められた時間に、外で、ちゃんとやってくれるようになった。ぼくもそのタイミングがわかるようになった。
あらゆることを少しずつ、学んで、立派な成犬になってくれたのだった。
そして、ついに、3歳である。
おめでとう。
スタッフさんやマノンちゃんからたくさんプレゼントをもらったが、その中で、一番人気だったのが、マカロン、であった。
みんなが見守る中、岡っちが、ろうそくに火を付けた。
「サンシー、お誕生日おめでとう!」
みんなが、ハッピバースデイの歌を歌った。
そして、マノンちゃんが三四郎にかわって、ろうそくをそっと吹き消した。拍手喝采!
でも、三四郎は、きょとん、としていた。
マカロンがなにか、わからないのだ!
そりゃあ、そうだ。食べて怒られないか、様子をうかがっている。あはは。
いい匂いがするな~、という顔であった。実はこのマカロン、鳥肉とかぼちゃ味の犬専用のマカロンなのである。
クリームの部分がかぼちゃで、マカロンの皮の部分がたぶん、鶏肉味だ、と思う。
いろいろと考え抜かれているおやつだったが、三四郎には、意味が分からな過ぎた。あはは。
なので、ぼくが掴んで、
「さ、どうぞ」
といつもの言葉をなげかけた。
これは、食べていいよ、という合図である。
三四郎、恐る恐る近づき、匂いを嗅いでから、口にくわえて、さすが狩猟犬の末裔だ、マカロンを捕獲したまま、窓辺の下の自分の場所へとそれをもっていった。
マカロンを床に置いて、しばらく、これはなんだろう、どうやって食べるのだろう、と不思議そうな顔をして様子をみていた。
それから、ペロッと舐めて、いけそうだな、と判断した、次の瞬間、がぶり!
「ん? おいしいかも」
ここで、みんな、大爆笑となった。
三四郎は、ぼくにとって愛犬だが、みんなにとっては癒し犬なのだ。
このパリでも、ノルマンディでも、三四郎はみんなに愛されている。ぼくのことなど知らないご近所の人たちみんなが「サンシー」と言って、近づいて来る。
「3歳になるんですよ」
そう告げれば、サンシー、おめでとう、とみんなが言ってくれる。
愛犬、三四郎との暮らしは4年目に突入することになった。
長生きをしてくれるなら、あと、15年くらいは、ともに生きることが出来るだろう。
ぼくも、負けないように頑張って生き抜かないとならない。
きっとこれからも、三四郎がぼくと見知らぬ人とを繋いでくれるに違いない。
犬もまた、かすがいである。
※ 息子くんと息子くんのGFさんが、買ってくれた誕生日プレゼント!
※ 鹿の角、しかも、燻製味!!! 食いつきよ過ぎる。よかったね。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
3年近い時間を共に生きてくれて、本当にありがとうと思いました。ぼくが苦しい時、彼がそばにいてくれたおかげで、ぼくは乗り越えて頑張ることができました。コロナ禍直後の出会いでしたが、振り返ると、いろいろとありましたね。でも、この子は、着実に生きています。みんなに愛されています。よかった。ほんとうに、よかった。この幸せがもっともっと続くことを、祈るばかりです。今、ノルマンディに少し大きなアトリエを探しています。そこが見つかったら、生活の拠点は圧倒的にノルマンディが中心になるのでしょうね。残りの人生を創作と三四郎にささげたいと思います。めるしー。
さて、10月4日から、パリで、初個展がスタートします。お近くの皆さん、どうぞ、お越しください。ピカソ美術館の近くです!
あと、次回のラジオは、10月5日を予定しております。ご視聴ご希望の皆さんは、下のTSUJIVILLEのバナーをクリックください。
※ 生後、4か月のサンシー。きゃわいいねー。