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仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」 Posted on 2024/09/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎は犬なのである。
だから、学校にも行かないし、就職も結婚もない。
ただ、何の許可もなく、ぼくの横で暮らしている。いつか、ぼくもだけれど、彼もこの世を去る身なのである。
ぼくは人間で、彼は犬なのだ。
だから、三四郎は言葉が話せない。
じゃあ、どうやって、ぼくらは会話をしているのか、というと、霊的なインスピレーションで語り合っていることが最近、判明した。
「のどが渇いた。水がないよ」
と聞こえた気がして、キッチンに顔を出すと、三四郎が、自分の水を飲む皿の前にいて、ぼくを待っていた。
それが、わかったのだ。
一回じゃなく、何度も、あ、水ね、と思って三四郎を探すと、水飲み皿の前でぼくを待っていたりする。
夕食は毎晩、19時と決めている。すると、その2分前くらいに、ぼくのところにやってきて、パパしゃん、とぼくを見上げるのである。
慌てて、時計を見ると、いつも18時58分なのだ!
霊感か、腹時計か、とにかく、すごすぎる。
このように、犬を飼ってはじめてわかったことがいろいろとあった。
言葉なんかなくても、生き物はこうやって、意志を伝えあうことが出来るのだ、ということである。
人間はそのことを忘れているのではないか。

仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」



ぼくの右腕と右肩は現在、壊れていて、時々、不意に激しい痛みに襲われる。
そこで、腕をおさえていると、三四郎が下から見上げているのである。
「痛い痛い、痛いよ、パパしゃんの腕が痛くて、絵も描けないし、ギターも弾けないよ」
三四郎にわかるわけがないか、と思って、彼を跨いで、通り過ぎ、ソファに腕を押さえて寝転がると、飛び乗って来て、狭い一人掛けのソファなのだけれど、ぼくの腕に身体をくっつけて、すりすりしてくるのだから、
「わかるのか?」
と驚いた。
いや、そういう気持ちは、通じるのだと思う。
「痛い痛い」
というと、悲しそうな顔をするのである。
きっと、鏡のように、ぼくの心を、彼の目はうつしている。
それも、実際、なのだ。
そのあと、彼は、ぼくの股の間に顎を預けて、寝た。
そこ、父ちゃんの大事な部分なんだけれど・・・。ま、いいか。おならしないように、気を付けなきゃ。
かわいいね。

ちょっと、携帯を伸ばして、自撮りならぬ、犬撮り!?

仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」



寂しいなァ、と思う時、三四郎がどこからか、やって来て、ぼくを見上げる。
でも、それはただ、食べるものが欲しくて、ねだっている時でもあるのだけれど、人間がそれを勘違いすることで、三四郎とのあいだに、不思議な霊的なつながりができるのも事実だったりする。
「まァ、いいよ。それでも、はい、おやつ」
おやつを食べ終わっても、三四郎はぼくについてくる。そして、ソファに寝転がると、横にピタっと張り付いて来る。
お尻をぼくにくっつけて、すりすりしながら、じっとしている。
その後ろ姿がね、なんとも、癒される。
なんとも、いとおしい。
こんなふうに、ぼくは、人間に愛されたことがあったかな、と思った。
彼もまた、寂しがり屋なのである。
ぼくにくっつくこの犬は、人間であるぼくに、様々なメッセージを送っている。それは言語ではないから、理解できるものではないのだけれど、感じることが出来る。
理屈とか、意味じゃなく、なるほどね、と思わせてくれる温かい何かがあるのだ。
「犬を飼う」という言葉は間違いだと気づかされる。
この子から、愛を貰っているのだから、天使のような存在なのだから、と気づかされる。
ああ、なるほど、そういうことか、ぼくは、天使と出会ったんだ。
だから、ぼくは今、幸せなんだね。
もうすぐ、彼は3歳になる。
3年も生きてくれてありがとう。

仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
三四郎の誕生日は、9月24日なんですけれど、その日は、コルシカ島にいるので、明日、三四郎の誕生日を祝おうということになっていて、実は、さきほど、三四郎の誕生日プレゼントを買いに行ってきました。3年も、よく生きてくれた。よく、ぼくのところに来てくれました。ありがとうね。
はい、ということで、9月25日は、コルシカ島、アジャクシオでライブです。26日は、文学シンポジウムに参加します。そして、10月4日からパリで、初個展がスタートします。12日までですが、楽しみですね。着実に駒をすすめていますよ。日記で報告しますね。あと、9月22日、日本時間の22時から、あ、今日じゃん、生放送のラジオやります。ご視聴、ご希望の皆さんは、下のTSUJIVILLEのバナーをクリックしてね。めるしー。

TSUJI VILLE

仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」

自分流×帝京大学

仏飯日記「三四郎とはきっと天使で、ぼくらは霊的な世界を通して会話しているのだと思う」

※ 2022年1月、三四郎を引き取った日の写真です!!!