JINSEI STORIES
滞仏日記「主婦の工夫で子供たちに笑顔を。子供の日の凄技、3選」 Posted on 2020/05/06 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は子供の日であった。ここのところ元気のない息子に「一緒に散歩しよう」と誘ったのだけど、ウイルスが怖いからやめとく、と言われた。その代わり、新曲が出来たんだ、とヘッドフォンを手渡された。耳に当てて聞いた。歌詞はこのロックダウンについてだった。内容はシリアスだったが、優しいリズムと歌声であった。これをプロの作曲コンペティションに出すんだよ、どう思う?
「へー、いいね。凄いじゃん」
とぼくは言った。本当に、素直な優しいヒップホップであった。こういう音楽を作れるのなら、まだ大丈夫だな、と安心をした。子供よりも親の方が心配なロックダウン、エブリデイである。で、みんなどんな子供の日を送っているのだろう、と思っていたら、在仏日本人会のママ友たちから物凄く工夫された子供の日のごちそう工夫写真が次々に届けられてきた。どれも愛情満点、工夫のオンパレードで、唸ってしまった。
最初に届いたのはこちら、Kさんのめっちゃ子供が興奮しそうな、ご自宅回転寿司の写真で、開いた瞬間、ひっくり返ってしまった。何が凄いって、「ご飯よー」とお子さんを呼んだら、いつものテーブルが日本の回転寿司カウンターになっているのだから、子供たちが興奮しないわけがない。お寿司とかお稲荷さんのセットがあり、なくなると機関車の上に載せて回すという超大胆な工夫。やられた、と思わず声を張り上げてしまった。この愛のある工夫、主婦の知恵、素晴らし過ぎる。
そして、もう一人も同じパリ在仏日本人仲間のIさんから、届けられたこの二枚の写真も「おおー」と思わず悶絶してしまうかわいらしさなのである。なんと鯉のぼりのおにぎり、そして、なんと鯉のぼりのクッキーなのだ。お子さんじゃなくても思わず声が飛び出すかわいらしさである。おにぎりの上の赤い鯉のぼりはカニカマだろうか? 実はフランスでは、もう十年くらい前から日本のすり身、カニカマ系が大ヒットしており、今や日本よりも多いのじゃないかというくらいの種類、商品が出回っている。緑のがキュウリで、あと、卵のも、可愛い。祖国を離れて一万キロ、けれども忘れない日本愛、素晴らしい。
もう一人、Mさんからも負けずと届けられた。これが、笑えた。兜の春巻きと鯉のぼりのロールケーキであった。思いつかなかったなぁ。ロールケーキはなんとなく思いついたかもしれないけど、兜の春巻きって、そのアイデアどこから? どうやったら、こんなものが編みだせるの? しかし、とっても美味しそうなのである。皆さん、フランス人の夫がいる家庭なのだが、子供たちに日本式の子供の日を届けたいという愛情を感じる。うちの子はもう16歳なので、たとえば兜の春巻きも、兜だと気が付く前に食べ終わっているに違いない。16歳くらいになると、この細やかな愛情はスルーされてしまう。残念だけど、それが成長というものだから仕方ない。しかし、こういう工夫がまさに主婦の知恵なのである。
ぼくも3日ほど前に巻き寿司を作ってあげた。ちなみに昨日はパン焼き機を使ってマーブルパンを、今日は息子の好物の手打ちピザを作った。ちょっと作り過ぎてしまうのが父ちゃんのいけないところだけど、残ったら翌日の朝ごはんにすればいいだけのことだ。息子がいつか大人になったら、16歳の子供の日は父ちゃんと二人切りのロックダウンだったと思い出してくれるかもしれない。日本の子も、フランスの子も、外出が出来ず、家にいながら今日を楽しんだことだろう。家から出られないちっちゃな子どもたちのために親御さんが家庭内イベントをいろいろ工夫して和ませるのは、愛があって、だからこそ、感動的で楽しいことだ。ロックダウンを乗り切る家庭内工夫、また見つけたらご紹介したい。えいえいおー。