JINSEI STORIES
滞仏日記「犬は忙しい人間たちをつなぐ生き物である。久々、ニコラ君、登場!」 Posted on 2024/09/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、前に住んでいたアパルトマンで、コロナ禍に時々遊びにやってきていたご近所のニコラ君とマノンちゃんが三四郎に会うためにやってきた。
二人のご両親は離婚し、それぞれ、新しいパートナーと出会い、その後、再婚。
ニコラ君とマノンちゃんは、フランスの法律にのっとって、両親の家を週の半分ずつ行き来することになった。(フランスの共同親権だとこうなる)
ニコラ君はあんなにぼくに懐いていたのに、やはり、大人になると、自分の世界が忙しくなって、ほぼほぼ、会わなくなった。
逆に、マノンちゃんは、女の子ということもあるが、犬が大好きなので、時々、三四郎の面倒をみてくれるようになった。
で、どういう風の吹き回しか、ニコラ君が三四郎に会いたいといいだし、今日、遊びにやってきたのだった。
おおお、でかっ。
ぼくよりも大きくなっている。1メートル80センチはあるだろうか?
一緒にお結びやピザを作っていたころがもう半世紀も前のように感じちゃーう。
「かわいい」
ニコラ君、覚えたての日本語で、三四郎の頭をさすりながら、かわいい、を連発。
三四郎もわかるのだろう、尻尾をふりながら、ニコラとマノンのあいだを行き来している。(おやつをくれる人であれば、だれでもいいのかもしれないが・・・)
大きくなったニコラの腕の中に、小さな三四郎がいる。
不思議な光景であった。
完全ロックダウンという未曽有の事態を共に経験した、ある意味、仲間でもあった。一生の中で、あんな過酷な日々は、もう、二度とあってほしくない。
ということで、パリごはんの続編みたいではあるが、二人のために、父ちゃんは日本がほこるスパゲッティ「ナポリタン」をこしらえてやったのだった~。
あはは。
※ 右がマノンちゃん、左がニコラ君。大きいよー。笑。
※ こんなに小さかったのに、今は、180センチ。下のおにぎり、左がニコラ作ね。懐かしいねー。
毎日、思うことだが、フランス人は犬が大好きで、とくにミニチュアダックス好きな人が多い。
いや、フランス人に限らない、アジアの方々やアメリカ人なんかも、
「ちょっと触ってもいいですか?」
とぼくに許可を求めてくる。
みんな、三四郎の頭をなでなでしたがる。
この間は、パラリンピックの警護をしていた軍人さんまで、三四郎の頭を撫でていった。
撫でたりしなくとも、三四郎をチラ見にしては、口許を緩めてすれ違っていく人ばかり。
男性も多い。口許が自然と緩んで、怖い顔が、優しくなるのが、嬉しい。
それはほんの一瞬のことではあるが、その瞬間に、ぼくを含むこの世界が平和になる。
何かが、つながった、一瞬なのだ。
ぎすぎすしたこの世界で、ささやかなふれあいがあったような気持ちになるのだから、不思議でしょうがない。
三四郎といると、毎日、この平和を享受されている。
三四郎はなんにもしていないのに・・・。
ただ、普通に生きているが、微笑みを誘う存在なのである。
もちろん、犬なんか目に入らないという人もいるけれど、三四郎に笑みをむける人がこんなにいる、ということが、なぜか、嬉しい、父ちゃんであった。
すっかり、大きくなったニコラ君も、三四郎を抱きかかえて離さないし、仏語で、何か三四郎に話しかけている。
動物が人間の気持ちに持ち込むこの不思議な優しさというものはなんだろう。
きっと、生き物の無垢が、人の心を浄化させてくれるからかもしれない。
「かわいい」
マノンちゃんが手を伸ばすが、ニコラ君は、三四郎を手放さない。
「ノー」
二人は、言い合いになった。
そういうこともある。あはは。
※ 下の黒い大きな犬が、三四郎がこの界隈で一番恐れている、オバマ君!!! ネーミング、どうなの???
さて、父ちゃん自慢のナポリタンだが、これは母さん譲りのレシピなのだ。
玉ねぎ、ピーマン、ソーセージ、ベーコン、にんにく、パルメジャーノチーズ、バター、時々、マッシュルームが入る。大事なのは、ケチャップとトマトピューレかな。
日本の喫茶店でよく見かける、あの「ナポリタン」である。
ご存じかと思うが、ピザには「ナポリタン」があるが、パスタに「ナポリタン」はないし、イタリア人もフランス人も絶対パスタ料理にケチャップを使用することはない。
ケチャップと言った瞬間に、鼻で笑われる。
昔、二人にナポリタンを作ろうとして、どんなパスタ? と訊かれたので、説明したら、「げーっ」とあしらわれたことがあった。食わず嫌いというやつなのだ。
そこで、今日は、何を使っているか言わず、トマトのパスタ、と言って二人の前にそっと置いてみたところ、
「ムッシュ・ドロール(変なおじさんという意味。ぼくのあだ名)、これすごく美味しい!」
と喜んでくれた。
二人とも、完食であった。
あはは。
食べ終わった後に、キッチンからケチャップを持ってきて、どんと、二人の前に置いてやったら、ニコラが、ゲッ、と驚いた顔をしてみせた。
「でも、美味しかったよ」
「だろ? 日本の伝統料理なんだ」
大笑いする二人。
自分も言っておきながら、苦笑してしまった。日本の伝統料理!?
カツカレーは、インドのカレーと、イタリアのカツレツをミックスさせた日本の伝統料理だし、ラーメンは、中国から渡って来たものを日本の味付けにして今や世界中を興奮させている・・・。
ま、野暮なことは言わないでおこう。
「ナポリタンって名前、インパクトある」
とニコラ君。
「そこまで、徹底すると、もう、確かに、日本の料理になるね」
「カリフォルニアロールだって、もはや、アメリカの寿司だものね」
ぼくは嬉しかった。
ニコラに抱きかかえられた三四郎は、ぼくが食べ残したナポリタンを狙っていた。この子の考えていることくらい、父ちゃん、ちゃんとわかってるよ~ん。
あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、動物は人間をつなぐ、というお話でした。三四郎に会いに息子もよく来るようになったし、ぼくのご近所の人たちもみんな三四郎が大好きなので、つまりは、ぼくの周囲は平和ということです。犬はいいですよ。育てるの、大変ですけれどね。笑。
父ちゃんからのお知らせは、9月8日、エッセイ教室をやるよ、ということです。課題の提出は締め切りましたが、参加してもらえると、エッセイの書き方とか、参考になるかもしれません。笑。気まぐれ文章教室、今年、最後の授業です。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/348688
さて、今度のラジオは、9月14日の日本時間22時からになります。父ちゃんのマシンガントーク、炸裂しますよー。和やかな時間をお過ごしください。
ラジオの申し込みは、こちらのツジビルバナーから、どうぞ!!! 毎年、イベントなどもやってます。
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※ パリの個展は、10月4日、14時から、12日、だいたい、16時くらいまでになります。画廊は、14時から19時までになります。