JINSEI STORIES
滞仏日記「パラ柔道、半谷静香選手は銀メダル、おめでとう!そして金メダルはウクライナ!」 Posted on 2024/09/06 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日、はじめて、パリ・パラリンピック会場に入った。
いつも、近くを通っていたので、中がこんな風になっていたのか、と驚いた。とにかく、スタンド席の足場が、まさに書いた字のごとく、露骨、に、組み上げられていた。
ちょうど、日本の半谷選手がパラ柔道の決勝戦に出場するというので、応援に行くことにしたのだ。
なんとか、チケットをゲットすることが出来たのだった! やった。
初パラ参加となった父ちゃん。
ラジオ・ツジビル終わりで飛び出し、地下鉄に飛び乗り、なんとか、視覚しょうがい者柔道女子48kg級の試合に間に合うことができた。
福島県いわき市平中平窪出身の半谷静香選手(36)が対戦する相手は、現在戦争のさなかに置かれているウクライナのナタリア・ニコライチク選手であった。
いわき市といえば、東日本大震災を思い出す。あんなに大変な時期があった。そこから、半谷選手は福島の人たちの想いを背負って、パリにやって来て、立った。
高校時代、柔道をやっていた父ちゃん、今回、どうしても見てみたいと思っていたのが、このパラ柔道なのだった。観客席、周りはほぼフランス人、満席だ!
ところどころに、各国の応援団が陣取っていた。日の丸をふる日本の人も結構いた。
「半ちゃーん、半ちゃーん、がんばれー」
という声が飛び交った。
戦時下にあるウクライナの選手、やはり声援は大きかった。
でも、半谷選手は、もくもくと試合に挑んだ。
開始一分くらいのところで、ニコライチク選手の背負い投げでわざありをとられてしまった。結局、後半、背負い落としを決められて、「IPPON」となり、破れてしまったが、終始、堂々とした戦いぶりであった。
悔しかったと思うのが、いい試合を見せてもらえた。
会場から、どちらも同じくらい、大きな拍手がおくられて、さすが、スポーツだな、と涙ぐむ父ちゃんだった。
※ 半谷選手、試合直前に、ジャンプして、気合をいれていました。この場面、大好きです。何枚も連写したんですが、2枚、どうぞ!!!
メダル授与の式典まで、ちゃんと見てから、三四郎の待つ事務所に戻ったが、キーウは昨日も爆撃があり51人が亡くなっている。
そういう戦時下の国から、重たい責任をもって、パリにやって来たニコライチク選手の金メダル授与、また大きな意味を世界の人々に届けることになった。
国旗掲揚の時に、金メダルのウクライナの国歌が流れたのだ。
ぼくは生まれてはじめて聞いたウクライナのメロディに、鼓膜が釘付けとなった。
ニコライチクさんの目から、涙がとめどなく流れ続けていた。
その涙が、ぼくには、戦地で死んでいった彼女の知り合いや家族や友人の血に見えた。
こんな世界にいて、それでも、スポーツマンシップにのっとって、勝負の世界で、勝ちぬいたこの人の気持ちを思うと、複雑な思いにならざるをえなかった。
この戦争はいつ終わるのだろう。どうやって、終わらせるのだろう。
この大会にロシアが参加していないが、一方、今日、ガザ地区では食べるものがなく、彷徨っている子供たちが大勢いる。
やるせない思いの中、ぼくは、半谷選手や、ニコライチク選手、他の選手の皆さんに、拍手を送り続けていた。
いいや、この、パラリンピックに参加したすべてのスポーツマンに、ありがとう、と心の底で思うのだった。
不条理過ぎるこの世界で、ニコライチクさんのあご先から、滴る涙を、誰が受け止めるのだろうと、思いながら・・・。
※ 半谷さん、やったね、銀メダル、おめでとう!!!!
※ 露骨な鉄骨!!! 上は満席でした!
今回のパリ・パラリンピックは、スポーツの祭典というだけではなく、しょうがい者の皆さんの競技というだけではなく、この世界がこれからどうなっていけばいいのか、を、みんなで考えさせられた場所でもあった。生きることが、どんなに大切なことか、ここに集まる多くのスポーツマンたちに教えてもらうことが出来た、気がする。いい試合だった。
チーム日本に拍手を送りたい!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
片方の足がない選手が、走り棒高跳びをする映像があって、その選手は、もっていた松葉づえを左右に放ち、そこから一本足で、バーのところまでジャンプし、最後に、そのバーを乗り越えてみせた瞬間、人間が持つ可能性の凄さを思い知らされました。それができるんだから、戦争を終わらせることも、飢餓をなくすこともできるはずだと思ったのです。その勇気を、パラリンピックは教えてくれました。今週末までの大会ですが、選手たちはまた次の4年間に向かってがんばるんですね。少しずつ、限りある世界で、限りない夢を追い続けてください。ぼくも、よっしゃ、がんばらなきゃ~・・・。
父ちゃんからのお知らせは、9月8日、エッセイ教室をやるよ、ということです。課題の提出は締め切りましたが、参加してもらえると、エッセイの書き方とか、参考になるかもしれません。笑。気まぐれ文章教室、今年、最後の授業です。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/348688
さて、今度のラジオは、9月14日の日本時間22時からになります。父ちゃんのマシンガントーク、炸裂しますよー。和やかな時間をお過ごしください。
ラジオの申し込みは、こちらのツジビルバナーから、どうぞ!!! 毎年、イベントなどもやってます。
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