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滞仏日記「フランス人のパパ友、ママ友が作るロックダウン飯、完全版」 Posted on 2020/04/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日、思いついてパパ友、ママ友に「ねー、ロックダウンも一か月になるけど、いったい皆さんは家でどんなもの毎日、食べてるの? 日本のみんなに紹介したいのだけど、写真頂戴な」とお願いしたところ、思わぬ回答率であった。依頼した人全員から写真が戻って来たのである。ロックダウン中じゃなかったら、ぜったいこの確率は無理だ。ということで思わぬところで、フランス人の食卓が覗けたし、フランス人がロックダウン中に何を食べているのかがよくわかった。昨日、真っ先に送ってくれたリサとロベルト夫妻のも新たに追加が届いたので、加えておく。でわ、まず、このプラ(お皿)から。

滞仏日記「フランス人のパパ友、ママ友が作るロックダウン飯、完全版」



まずはワイン屋(キャビスト)のエルベなのだけど、彼のランチは近くで有名なレストランからのデリバリーで、カネロニだった。(マカロニのでっかい奴みたいな)レストランの雇用者は政府が84%の給料保証をするからいいけど、雇用主は何も貰えないのでオーナーシェフ自ら持ち帰りようのお弁当のようなものをやってみる店が、(ロックダウンの長期化のせいで)増えてきた。エルベはお付き合いもあるのだろう、知り合いのレストランでデリバーをしたようだ。カネロニの中にモリュー茸と白と緑のアスパラと鶏肉のソテーが詰められている。高級レストランでたまに見かける料理だけど、こういうのを普段食べてるぜ、と送ってくるところが実にフランス人だ。日曜日の昼間のモリュー茸にはロゼワインがお勧めだそうだ。さすがパリジャン、ロックダウン中であろうと食い意地の深さに敬服する。さて、お次は、

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息子の友人ロマン君のお母さん、オディールが作ったデジュネ(ランチ)、仔牛のエスカロップにバスマティ米と野菜のグリエ添えだ。これはイタリアだとミラネーゼにあたり、ドイツやオーストリアだとシュニッツェルになる。ようは仔牛のカツレツだけど、国よって若干味が違うのが面白い。大好物なので、欧州あちこち父子旅をしながら、息子と食べ比べをしたことがある。その土地で食べるものが常に一番であった。とんかつほど脂っぽくなく、仔牛は、意外とあっさり食べることが出来る。ぼくは粗塩かけてそのまま、ビール片手に、ガブッ。実にフランスの家庭料理っぽい出来栄えだ。オディールは日本と台湾に留学した経験があり、かなりの親日家でもある。ロマン君とうちの息子はずっと同じクラスなので、ぼくらも15年以上の長い付き合いになった。さて、お次の料理は、

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同じみ、哲学者のアドリアンだ。ペシミストで理論家で葉巻好きな南ア大の先生だ。風貌はどこかジャン・ギャバンのよう。こういう依頼には無視だろうと思っていたのに、真っ先に写真が届いた。ディジョンのマスタードを塗って、ローズマリーを添えて、オーブンで焼いた一品。これもめっちゃフランスの定番スタイルだ。ジャガイモのソテーが(手作りだな)添えられてある。この写真には入ってないけど、クルージェット(ズッキーニ)のソテーもサイドディッシュとして添えられてあった。アドリアンは一人暮らしなのだ。謎に満ちた風貌と存在、「尊敬する哲学者は?」 と質問したことがあった。「俺に決まってるだろ」という返事。性格、わかるわかる。まるで自分を見ているみたいだ。さて、次は相当な怠け者、いつもぼくと飲んだくれている町内一の自由人、

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写真家で作曲家のピエールのご飯が凄かった。なんと赤ワインとパルメザンチーズと来た。作ってない。さすが、アーティストはこうでなきゃね。赤ワインはピエール曰く、ポンピドー大統領がゲストにいつも振舞っていた奴、なんだそうだ。(笑)。おいおい、しかもこれ、マグナムのボトルじゃないか。封がしてあるのに、グラスに赤が注がれているところを見ると、このワインはまだ開けられてない…。ま、頼まれたからなんか出さなきゃ、と頑張ってくれたんだろうな。ツジー、これでいいかな、フランス人っぽいだろ、というメッセージが添えられてあった。隣人のイタリア人と壁越しに毎晩飲んでいるのだ、という。何度も使わせてもらっているピエールと隣人のこの写真、最高の構図だね。当サイトでアップしたら、拡散して、どっかのテレビ番組で勝手に使われていたみたいだし、ピエールはいつの間にか日本で有名人。この界隈が暗く沈んでいる時にも爆音でダンスミュージックかけたり、お祭りみたいなことを仕掛けたり。でも、こういう暗い時期にはラテンな陽気さは必要だ。長期戦になるのは間違いないので、抜くことを覚えていかないと、真っ先にメンタルやられてしまうからね。ピエールを見習って、気を付けよう。いや、気を抜こう。さて、お次は、

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もう一人、男性の料理を。昨日の日記で紹介した、リサとロベルト夫妻から、今度はロベルトが作った野菜のサラダとパスタサラダの写真が届いた。オリーブオイル命のシンプル料理、安心する。ちょっとライトなランチという感じで日本のカフェでも喜ばれそうな一品だ。この二人は本当に仲良しで羨ましい。ロックダウンでDVが流行っている昨今のフランスだけど、この二人の愛は実に強くて、永遠なのである。さて、お次のマダム、

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そして、昨日第一弾でアップしたペルー人ミゲルの妻、フランス人マダム、レテシアが今日は参戦してくれた。彼女はパリ中心部にある老舗ホテルの社長さんだ。かなりしっかりした経営者なのである。ミゲルはアーティストっぽい自由人で、ピエールっぽい。フランスにいる男は、ぼくも含めて、どっかラテン。で、逆に、女性たちが家計を切り盛りして、働いている人が多い。レテシアは大社長なのだ。大社長はどこか自由人のミゲルみたいな男がほっとけないんだろうな。勉強になります。(笑)。さて、レテシアが今日家族のために作ったのは、エッグベネディクトとシャンピニオンのスープだ。美味しそう。みんな、こんな大変な時期だけど、なかなか優雅にやってるよね。ミゲルから連絡があり、いつか我が家に招待したい、とのこと。わ、よろしくお願いいたします! さて、お次は普段、料理とは無縁なお母さんの登場である。

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ふだんは滅多に料理なんかしないのよ、と言うのは弁護士のソフィーだ。凄腕弁護士で、とくに専門がDVと離婚など、男女間のもめ事スペシャリストである。だから、ロックダウンが終わったら、ちょっと忙しくなるのかな。娘さんと二人暮らしなので、このような状況を利用して、母と娘の絆を強くするために毎日料理を一緒にやっているのだとか。うちと一緒だ。いいね。娘さんとクレープ焼いたり、クスクスを作ったり。普段なら付け合わせのポテトなんかは冷凍もので済ませるのだけど、時間があるので今回はじゃがいものガレットを自分で作ったのだそうだ。とっても美味しかったのよ、と喜んでいた。忙しい弁護士の先生だから、ちょっとした休暇になったようだね。娘さんが一番喜んでいるかもしれない。素敵なお母さんである。

 



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ラストを飾るのは我が町一番の古株、この通りで40年も古書店を経営するクリスティーナおばあちゃんだ。ご主人に先立たれ、以後、一人で古本屋を守ってきた。ぼくが作家だと知ってから、とにかく、世話をしてくれる。ヒトナリ、ヒトナリ、新作は書けたの? あなたはどんどん書かなきゃだめだよって、まるでお母さんみたい。多分、彼女も一人暮らしだ。アドリアン、ピエール、クリスティーナ、フランス人は一人で暮らしている人が多い。彼女の料理は出身地南仏の香りを感じる、肉団子(ブレット)のパスタだ。パスタは太麺だね、美味しそう。肉団子の上にパルメジャーノをかけると最高なんだ。ロックダウンが終わったら、息子とワインでも抱えて食べに行こうかな。

ということで、フランス人たちが、この長いロックダウンの中でも、実に自分を大事に生きていることが伝わったのじゃないか、と思う。うちも負けずに息子とガンガン、美味しい料理を作り続けている。ちなみに、我が家のランチはフォーフィレのビフテキ丼であった。うちのおふくろの言葉を思い出す。「ヒトナリ、苦しい時はじゃんじゃん炒めて、がんがん食うことだ。腹いっぱいになったら眠くなる。寝たら嫌なことは忘れるもんだ。人生とはその繰り返しだよ」ま、そうだね。気楽に行こう。

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