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滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」 Posted on 2020/04/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、緊急事態宣言下の日本、家飯率が高くなっているはずだが、毎度毎度の献立とか、レシピとか困ってないだろうか? ぼくも毎日、何作ったろうか、と考えている。そこでふっと思った。そもそも、フランス人ってこのすでに5週間目に入ったロックダウン下で何食べてんの? 普段料理しない人とかもいるわけだから、そういう人も含めて、彼ら、彼女らが何を毎日作って食べているのかを知りたい。そこでぼくのパパ友、ママ友たちに一斉送信したのだ。「求む、あなたが今食べてるもの教えてください」これ、フランス時間の23時45分に送ったら、二組の夫婦から0時15分ごろにドカッと写真が送られてきたのだった。って、凄い。暇なん? そうか、みんな暇なんだ!お馴染み、アレクサンドル君のご両親、リサとロベルト夫妻から届いた写真の最後に、リサがこう添えていた。
「あのね、私、ふだん料理とかあまりしない方じゃない。でも、今、ロックダウン中だからね、ロベルトもイタリアが大変でパリから戻れないで家にいるし、私、頑張ってみたのよ。そしたら、ストレス解消にもなったし、結構おいしかったし。で、毎回、撮ってたんだ、料理の写真。まさか、ヒトナリのために役立つだなんて、思いもしなかったわよ。日本の皆さん、がんばって料理してね」



リサのおじいさんはベトナムからフランスに渡って来た。お父さんはフランスで外科医だった。リサはフランス人、残念ながらベトナム語は話せない。でも、ベトナム料理の遺伝子を受け継いでいる。リサのフレンチ感覚と混ざった家庭料理は、息子曰く、アジアとフランスの融合で、とっても美味しいのだとか。(うちの子にとってリサはパリのお母さんがわりなのである) リサ曰く、ロックダウンは時間が有り余っているからね、毎日、料理をしていたら上達しちゃった、だって。ともかく、ごらんあれ。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

Bo Bun homemade! ボーブン。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

Tart de Legumes 野菜のタルトね。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

Plat Vietnamien 伝統的なベトナム料理、牛肉をラロットと呼ばれるベトナムの葉っぱで巻いたもの。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

Tarte aux myrtilles ブラックベリーのタルト。これはベトナム関係ない。(笑)



さて、もう一組のご夫婦は個人オーナーとしてはパリで一番古いホテルを経営しているレテシアとそのご主人のミゲル。ミゲルはペルー人だ。こちらも待ってましたとばかり、ドカッと写真を送りつけてきた。飯テロという言葉が日本では流行っているが、似たようなニュアンスでフード・ポルノという言葉がある。料理の写真や食事風景を魅力的に撮影し人々を刺激する写真とか動画のことをフード・ポルノと呼ぶらしい。ミゲルはフード・ポルノのグループに参加している。飯テロ一味なのである。

ペルー・フレンチとでも呼べるような面白い料理なので、ごらんあれ。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

ミゲルの亡き、お母さんの古いレシピノート。母の名誉のもと、ミゲルはお母さんのレパートリーの中で一番好きな料理を再現していく。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

Chicken tausi(チキンのブラックビーン炒め)とarroz chaufa(ペルーのチャーハン)。
「ママ、会いたいよ!ママを誇りに思ってる」

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

ミンパオ、ポップコーンエビ、クリオージャ、criolla、自家製aji salsa(ペルーのチリソース)、サツマイモフライ
ハッピーイースター!

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

ペルー名物、セビーチェ。ミゲル曰く、「他は認めない!」レテシア曰く、世界一らしい。セビーチェは日本の刺身の文化に似ている。ペルーと日本はセビーチェで繋がる気がする。

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

スパイシーチキン”ペルー風カレー” チキンピクルス漬け

滞仏日記「ロックダウン飯。フランス人、みんな何食べてんの?」

え? なにこれ、これもペルー料理???



マジ、凄い。こんなものを家で作れるものか、とそこのあなた、思ってるでしょ。たしかに、これはぼくも無理だ。それで、レテシアに、あいつ何者なの? と訊いたら、脱帽である。それもそのはず、ミゲルはあの有名なリッツホテルのコックさんだったのだ。しかも、日本料理のコックさん。そういえば、昔、リッツに一度仕事で泊ったことがあったけど、朝食に和朝食があったような、あれ、もしかしてミゲルが作ってたのかも。リッツの和食料理長なら、寿司とか握れても不思議はない。

ミゲルはフランスに入る前、ずっとアメリカで暮らしていたので、どちらかというと性格はアメリカン。ミゲルはペルー、リサはベトナム。それぞれのルーツ味がフランス料理と融合してこういう家庭の味を作っているというところが似ている。ミゲルは、亡くなったお母さんがずっと書き続けてきたレシピノートを大事に持っている。それが彼の創作のヒントなのだ。パリは世界中の美味しいものが交差する街なので、人の料理を覗くのは面白い。外出できない生活だからこそ、時間をかけた本格的な料理を作ってみるのもいいかもしれない。作るのは楽しいし、食べて二度おいしいわけだから、家族みんなでやれば外出自粛生活も幅が出る。たぶん、もっと写真が届くはずなので、第二弾もやってみたい。フランス人、ロックダウンで何を食べてるの? 面白いね。

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