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滞日日記「冷静と情熱のあいだ、25周年記念!江國香織さんらを招き文化サロン開催」 Posted on 2024/08/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、共著「冷静と情熱のあいだ」発刊からすでに25年もの歳月が流れた。
そこで、我らがギャラリーT運営部は考え、「冷静と情熱のあいだ」25周年記念の夕べを企画したのだった。いいね。
ゲストは、もちろん、作家、江國香織さん、そして、なぜか、建築界のノーベル賞とも言われる「プリツカー賞」を持つ建築家の坂茂さん(パリ在住で、大の仲良しなのです。坂さんについては新刊が出るので、また、後日・・・)、それと、江國さんとの共通の編集者、木葉篤さん、いつもの、しまちゃん、というメンバー。
ということで、ギャラリーTの総料理長である御簾シェフ、と、矢吹ソムリエにより、フィレンツェとミラノを舞台にした「冷静と情熱のあいだ」ならではの料理とワインをペアリングさせていただいたのだが。
これって、ものすごい企画じゃないでしょうか。あはは、こりゃあ、すごい。
メニューは、こちら!
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ぼくも料理したかったが、引退コンサートツアーなどで忙しかったので、今回は一食だけ、パスタをこしらえることに。
DSでおなじみ、料理研究家、セギュール・ちえみさんと相談をし、フィレンツェ発祥のパスタ「ピチ」に白羽の矢をあてたのであーる・ぱちーの!
引退ツアーで、肉体的にはへとへとだったが、ちょうど家族と日本に帰省していたセギュールさんが駆け付け手伝ってくださった。鬼に金棒であーる。
ということで、今日の日記、まずは「ピチ」なる生パスタとは何か、について。
イタリアの小麦粉「00小麦」を使わないとならないが、日本でも買えるし、これはぜひ、試してもらいたい。
なのに、驚くほど腰のある「ごんぶと」食感の生パスタが出来てしまう。
日本の「すいとん」に形状が似ているが、手でこね、パンのように切り分け、手のひらとまな板を使って、打ち粉しながら、細長く伸ばしていく。
からめるソースに、サルシッチャ(ソーセージの中身)を使ったが、豚ひき肉などでも応用が利くし、本場の「ピチ」はトマトソースの超辛アラビアータが人気だったりする。(今回は、白ワインを使ったサルシッチャのクリーミーなソースにしたよ!)
ライブ後でへとへとだったが、父ちゃんが、うどんをこねるように、両手でのばしのばし、一本一本作った力作なのであーる。(来月くらいに、ピチの完全版レシピをセギュールさんの人気連載「家庭フレンチの定番を」で公開してもらいましょうね!簡単だけれど、かなり、うまいです!!!)
さて、江國さんとの出会いは?
と坂さんから、質問を受けたのだった。
「どこでしたっけ?」とぼく。
「広島で行われた日本ペンクラブの大会だったでしょ?」
「ああ、そうだった」
若い作家が集まって、作家の大沢在昌さんの部屋で呑み直しした時に、知り合ったのだった。
「じゃあ、どうやって、一緒に小説を書くことになったの?」
誰かがさらに訊いてきた。
「ええと、どうでしたっけ?」
「ペンクラブの会合のあと、下北でお茶をしたのよ」
「ああ、そうだった」
「そこで、一緒に小説を書くことになったの」
「いいねいいねって、江國さんが言った。で、月刊カドカワで、連載がスタートしたんだ」
「で、わたしは泣いた」
「え? どうして?」
「だって、辻さん、約束したことを守らない。主人公の身長とか一緒に話し合って決めたのに、勝手に変えちゃうんだもの」
「えええええ!」
と驚く、ぼくだった。
連載が始まる前、下北にあった当時のぼくの仕事場にそれぞれの編集者や江國さんがやってきて、テープを回しながら、物語の大まかな流れとか、主人公二人の生い立ちた、性格、だいたいの雰囲気を話し合ったのに、ぼくがその決まりを一方的にやぶった、らしい。
「で、泣いたの?」
「そうよ、覚えてないんだ?」
「うう、覚えてない」
「ひどい」
一同、大笑い。そりゃあ、泣くな、と思った、父ちゃんであった。
でも、江國香織さんは変わらない。
見た目も、声も、雰囲気も、ぜんぜん、昔のままなのだった。
ぼくらは「冷静と情熱のあいだ」を発表し、その後、長編小説「右岸」「左岸」を世に送り出し、その前に「恋するために生まれた」というエッセイ集も出したのだった。
それぞれの活動がありながら、これだけの共著を残した作家は(多分)いない。
「ある意味、すごいことやったよね」
「そうね。そうだね」
そこに集まった人たちと乾杯をし、25周年をお祝いしたのであった。
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「ありがとう」
死ぬまでに、「冷静と情熱のあいだ」の第二部を一緒にやりたいよね、と言いかけたのだけれど、ちょっと、それは言葉にできなかった。
江國さんに、その気はないだろうから・・・。
ぼくがまた主人公の身長を勝手に改ざんしてしまうに違いないのだから・・・。
でも、個人的に、江國さんの横顔をのぞき見しながら、想像をしてみた。主人公の「あおい」と「じゅんせい」のその後、・・・。
あの二人の25年後、気になるのはぼくだけ?
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
25年後だと、二人は50歳代ということになるんですね。なるほど、それはすごい。その時、どんな切ない話が待ち受けているのでしょうね。読んでみたい気もするけれど、また、江國さんを泣かせちゃうから、さすがに、この案件は、江國さん次第ということでしょうかねェ~・・・。えへへ。
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