JINSEI STORIES
滞仏日記「今日は長男夫妻がご報告をしたいとやってきたので、ちょー、緊張した! あはは」 Posted on 2024/07/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくには二人の息子がいる。
いつも日記に登場しているのは、次男の方で、長男は、今は東京におり、実は画家なのであーる・ふぁろめおーーー。
で、とっても素晴らしい人と結婚をしており、幸せな家庭を築いているのだ。
時々、会って、食事をしたり、パリにも来たりしていたが、今日はとある報告があって、彼らは、やってきた。
そうか、じゃあ、わかった、美味しいものをこしらえて、報告をたまわろ~。
さて、今日、父ちゃんが作ったのは、
アミューズが、スイカとフェタチーズのおつまみ。(八百屋のマーシャル・レシピ)
前菜が、豚肉のリエット、カシス味のマスタードソースあえ、イタリアンパセリとルッコラのサラダ添え。
メインのパスタが、水蛸と明太子のスパゲットーニ。
なのだった~、ひゃあ、ご馳走じゃ。
ランチだからね。メインはパスタなの。
で、さすがに、今日は緊張をした。
というのは、二人だけじゃないのである。
なので、これって、日記に書いていいの?
とお嫁さんに訊いたら、笑って、「うまく、はぐらかしてください」と言われたのだった。
ということで、はぐらかすけれど、この一行の中に、どれだけ、ぼくの感情が揺れ動いたことか、まずは、ご想像頂きたい。
え? なんのことって? さあ、なんでしょうね。☜はぐらかしの術。
いつものギャラリーTなのだったが、なんでか、いつもとは違う空域になっていた。
ぼくもいつもの父ちゃんだったが、父ちゃんを超える存在になっていた。
ほー、めっちゃ、美しいのー。
ということは、ということだね、ということになって、ぼくは腰が抜けそうになったのであーる・ぬーぼー。
いったい、どうやってはぐらかせばいいのだろう。
でも、これはとっても幸せなことじゃないか。感謝しかない、ということだ。
長男は、いつもより、しっかりとしていた。
お嫁さんは、もっとしっかりしていた。
ぼくは、おめでとう、と言った。
こうなるべくして、こうなったということである。
こうなった、結果、なにか、まばゆいものが、そこできらきらしていた。
おおお、なんだろう。この感じ。
ぜんぜん、日記として、形になってないじゃないか。笑。
ああ、でも、はぐらかすのって、難しい。
「とにかく、食べてくれ。美味しいものだ。喰おう」
二人は一口食べるなり、
「おいしい~」
と一緒に叫んだ。
どんな時も、美味しいものが人間をつなぐ。これが、素晴らしい。
それ以上の答えが必要であろうか。
「あのね、君が生まれた時(1995年)に描いた絵が今、青山に飾ってある(非売品)んだよ。見に行こうか?」
と投げかけてみた。
その子は立派な画家になったが、赤ちゃんだった息子を抱っこして一緒にマンションの敷地内の高木の木肌をみつめた時の記念に描いたのが、KIHADAという作品であった。
それを食後、観に行ったのだった。
その絵は、画廊の順路の最後の最後の角地コーナーに飾られてあった。
息子がその絵と対峙し、見つめていた。
この写真は、ぼくが撮影したものじゃない。彼のお嫁さんが撮影したものだが、この子はちゃんと見逃さないのだ。いいお嫁さん。
ぼくと長男とのあいだを埋めてくれているのである。
しかし、成長した長男がぼくの絵を見つめているこの写真を見ている、うしろのぼくたちは、ある意味で、幸せであった。
「父さん、ぼくの絵をパクったな」
と長男がぬかした。ふふふ。
ぼくらは大笑いをした。
「そんなのありえない」
「いや、父さんは、赤ちゃんのぼくを抱えた時にぼくからものすごいインスピレーションを受けてこの絵を描いたんだ。だから、ぼくの絵に似ている」
わけのわからないことをこの子は言うのだった。まだ若いくせに、巨匠なのだった。
「ま、そうかもな」
とぼくは言っておいた。そうかもしれないな。
あはは。
みんなが笑った。
でも、その横で、なぜか、すやすや寝ている子がいたのだった。
※ 長男です。28歳です。肩幅は、ぼくの父親、そっくりです。えへへ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、個展開催後、二度目の在廊でしたが、こういうことになり、画廊の人たちもみんな微笑み、大喜びでした。その場に居合わせた方々も、みなさん、にこやか、笑顔でぼくらを見送ってくださり、ほんとうに、ほんとうに、感謝でございました。日本とフランスの息子たちは、ぼくに内緒で、メールでやりとりをしているようです。ぼくは知りませんでした。どんどん、知らない世界が増えていくのは、仕方のないことですね。おおきに。
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お知らせです。
ま、いよいよ、引退です。
引退まで、カウントダウンがはじまっています。
引退ツアー初日は、7月30日、東京!
さて、そして、、、
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