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滞仏日記「やばい、太りそうだ。東京を満喫し過ぎて、うますぎて、楽しすぎる」 Posted on 2024/07/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、言っていいのだろうか。パリ飯よりも東京飯の方が好き。あはは。
とにかく、なんでもかんでもうますぎるのは、どういうことだろう。
在仏歴22年の父ちゃんにとって、今や日本の味は、異国の味になりつつ、ある。パリで父ちゃんが作る日本飯の100倍、美味いではないか!!!
まだ、来日、2日目くらいの父ちゃんだけれど、どこ覗いても、美味そうなものばかりで、超やばい。
せっかく痩せたのに、8月7日の引退公演千秋楽までに5キロは太りそうな勢い。
東京自体が、美味しそうすぎる。
ちょっとスーパーに飛び込んでも、デパ地下は危険地帯やし、普通の路面店のケーキ屋さんとか、コンビニまでもが、レべチが凄すぎる。
フランス人の目になっている父ちゃんには、眩しすぎる。思わず、いろいろと買っては、頬張っているのだから、痩せるわけもない。
ともかく、今日もバンドのリハーサルのためにスタジオへと向かった。その前に、デパ地下に行き、お米が美味しそうな、おにぎりを買った。
父ちゃんのギターを管理している梅ちゃん(パリのマコちゃんみたいな人)がカレーおにぎりを頬張った。なんと、具が福神漬けだった。あはは。

滞仏日記「やばい、太りそうだ。東京を満喫し過ぎて、うますぎて、楽しすぎる」

滞仏日記「やばい、太りそうだ。東京を満喫し過ぎて、うますぎて、楽しすぎる」



それにしても、最後の日本公演、過去最強のレべチである。
ECHOESの曲もやっているが、20代のバンドサウンドではなく、いぶし銀のソウルフルなECHOESソングになって蘇っているのだから、武者震いを覚える。
これで、最後か、これで最後なんて、なんて最高なんだろう、と思いながら歌った。今回は、日本でのラストツアーだが、脂が超のっているここで引退できることに感動した。
涙が出る曲もあったが、最後まで笑顔で歌い切りたいと思うのだった。
そんなメンバー、全員に、絶対においしいおにぎりを1個ずつ陣中見舞いとして、持っていくと、バンマスのドクター・きょんさんが、
「え、一人一つ? 一人一パックじゃなくて? 」
というのだ。15人もいるのに、一人一パックなわけないやろ! 笑。
夕方までびっしりと練習をやり、大阪に帰るトランペットのファーソン君を東京駅までタクシーで送り届けた優しい父ちゃん。
雨の中、宿まで歩いてとぼとぼ帰っていくと、歩道に、蕎麦屋の看板。高層ビルの最上階にある蕎麦屋に飛び込んだ。(ビジネス街なので、こうなる。大都会東京! パリとはえらい違いなのだ)
そこで、大好物の蕎麦を注文し、大満足。
車の運転もしないし、寝るだけなので、日本酒(酔鯨、180ml)を高層ビルを横目に、ちびちびとやった。
となりに、マダムがいて、目が合った。その人もおひとり様であった。こういう時、なんと言えばいいのだろう。ジェントルマンな父ちゃん、
「雨ですね」
と言ったら、ええ、ほんとうに、という答えが戻って来た。おお、上品~。

滞仏日記「やばい、太りそうだ。東京を満喫し過ぎて、うますぎて、楽しすぎる」

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つまり、4人掛けのテーブルにぼくは一人、そのマダムも、2人掛けのテーブルにおひとり様であった。二人は正面の高層ビルを眺めながら、並ぶ格好だった。
「梅雨もあけそうですが、お蕎麦はいいですね」
「ええ、ほんとうに」
ああ、この人が「俺の妻」だったら、と思って、なんとなく幸せな気分になった。
「お仕事の御帰りですか」
「はい、今日もたくさん働いてきました」
「それはそれは、お疲れ様でした」
静かに、感動・・・。
まず、ビールが出てきたので、それを掴んで、どうしようか迷っていると、隣のマダムが、お疲れ様、乾杯、とほほ笑んでくれたのだった。ぎゃあああ・・・。
ああ、素晴らしい。このせわしない世界にもこういう幸せがあるんや、と思って嬉しくなった、父ちゃんであった。
ビールが、たましいに、染みる。アサヒの生、パリのアサヒの生より、美味しく感じるのはなぜなんだ!!!
マダムは、蕎麦をすすった。
あ、同じ、おすすめコース頼んだんだ。気があう、と思った父ちゃんだが、人が食べているところをじろじろ見てはならない、と高層ビルへ視線をそらした。
そこから、黙食となったが、隣に知り合いがいると思うだけで、うれしくなるものである。☜、どこが、知り合い???
東京、雨の東京、しっとりと、いいね~。

滞仏日記「やばい、太りそうだ。東京を満喫し過ぎて、うますぎて、楽しすぎる」



つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ファーソン君に、タクシーの中でいろいろと聞かれました。なんで、引退をするのか、って、思えば、バンマスのドクター・きょんさんにも、誰にも説明しないまま、リハーサルがスタートしています。笑。ま、言えないこともあります。でも、音楽をやめるわけじゃないんだよ。9月にコルシカでライブあるしね・・・。でも、大きな意味で、目が黒いうちに、徐々に、自分が責任をとれるうちに終えていくのがいいんじゃないかな、って判断したんですよ。ま、それが、父ちゃん流なんだよね。今なら、最高を演出できるという自信があったので、ここを区切りとさせてもらいます。マダムよ、さらば・・・・。

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