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滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」 Posted on 2024/07/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、東京は暑くなかった。
日本に到着した父ちゃんはさっそくギャラリーTにむかい、料理をした。
しまちゃんたちとごはんを約束したのだが、レストランで食べるより、作ってあげたかったので、ご家族ご友人を招いて、旅の疲れもなんのその、絶対おいしいやつをこしらえたのだった。
御覧いただきたい、前菜はトマトとトリュフ入りのストラッチャテッラチーズ(要はモッツアレラチーズを細かくし生クリームと混ぜたもの)のサラダと近江牛&焼きニョッキのメインというゴージャスな料理だ。
トマトを湯剥きし、丸裸にしたものの中をくりぬき、そこに、トリュフ入りのストラッチャテッラチーズを詰め込んで、周辺に、ルッコラとクレソンのサラダを敷きつめ、パリから持ち込んだ濃厚オリーブオイルで作った特製ドレッシングをかけたもの、が前菜。
牛肉を軽く表面だけ焼き、一度アルミホイルに包んで休ませているあいだに、その焼き汁を利用してシイタケとニョッキを香ばしくなるまで焼き、ディジョンのマスタード、生クリーム、フランスのバターをぶっこんでクリーム状にしたものに、先の肉を戻し、ねっとりとあえたものが、メイン、なのであった。
絶対おいしいやつなのだ。
あはは。☜なにやっとんねん、疲れてるだろうに、と思われたそこのあなた、正解であーる・ぬーぼー。

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」

※ 最高においしいやつでした~。

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」



「つじちゃーん、これ、これ、ほら」
としまちゃんがぼくに差し出したのは、お金、おおお、新札じゃーーー。え? くれるの?? マジ? 
「すごいでしょ、これ、新しい紙幣だよ。見てよ、この番号。珍しいんだよ」
で、しまちゃん、それくれるんか、と思っていたが、自分のポケットに戻していた。
なんだよ、くれないんかい!
「つじちゃん、いつも美味しい料理をありがとう。新札、ぼくからのプレゼントだよー」
って、ならなかった。あはは。お金持ちの人って、これだから困るわー。
で、ぼくはお金がないので、タクシー代を一万円、しまちゃんから借りた。それも、旧札であった。あはは。
新札、みなさん、持ってるの?
まだ、来日して一日目だが、・・・見ない。
みんな旧札を使っている。
どうなってんの?
ま、それはいいとして、料理も終わったのでタクシーに乗って、予約していたはずのホテルに行ったら、そこの予約がとれておらず、えええ、なんでー、なんで、そんなことあんの? やりとりしたじゃん、オタクの支配人とメールで何度も!
名乗っても、名前がありません、と言われる始末・・・。予約表を見せたら、
「ああ、ここは」
「ここは?」
「系列の別のホテルです」
なんと、ほぼほぼ同じ名前の別のホテルだったのだ。ぎょえええええ~。この瞬間は、さすがに、フライトの疲れから、何もかもがあふれ出て、ぶっ倒れそーになった。
タクシーを呼んでもらい、そこから荷物を再び抱えて、移動、トランク3個、・・・。なにやってんにゃ、俺は!
という初日から悲惨、大変な展開になった。
東京砂漠のど真ん中で、途方に暮れたパリから遠路はるばるやって来た父ちゃんであった。あはは。
気が滅入ったが、こういうことで人生を棒に振るわけにもいかない。
気分を取り直し、呑みに出た、が、なんと、東京の中心地にあるこのホテル、周辺にレストランも居酒屋もなーんもない!!! でかい駅だけ!!!!
こんな場所があるのか、そうか、ここはビジネス街なのか!!!
人が住んでいない、会社ばかりが集中している地区だった。こんなところにひと月もいるって、東京砂漠・・・。
ここで、やけをおこしたら、人生は負けてしまう。ふふふ、とほほ笑んで、そんなこともあるだろうよ、とニヒルに髪の毛をかきあげた、パリからやってきた父ちゃんなのだった。

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」



とまれ、引退公演のリハーサルがついにスタート、赤いバンダナを頭に巻き、カウボーイスタイルで、颯爽と、スタジオへと向かった。
ハローエブリバディ!!!
引退公演に向けた練習がついにスタートしたのだった。
いよいよ、引退するのじゃ。ざまーみろ、俺はここで終わるんじゃ。ファイナルアンサー、ファイナルファンタジー、ファイナルツージー、いいきみだ。
引退試合のような清々しい感じなのだった。
よっしゃー、かかってこーい、とスタジオに入ったら、あれ、なんか、若い!
今時のダンサー風な、若いおねーちゃん、おにーちゃんらが、ぼくを振り返った。
「・・・」
おめーだれだ、という顔・・・。
サングラスを右手でさっと外して、ふふふ、まちがえました、と呟いた、パリからやって来た父ちゃんなのでありました。先が、読めない・・・。
じぇてーむ、もなむーる!

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いやはや、この先が思いやられる東京のファーストデイなのでした。とにかく、重たい機材やトランク抱えて、ホテルからホテルへ到着日に移動したのははじめて、めげますね。でも、辻バンド、最高の出来栄えでーす。おっしゃー、これは勝ったも同然じゃん、とポーズを決めた父ちゃん。8月7日の千秋楽まで、倒れないように頑張るのみ。皆の衆、おさきっ!!!!

TSUJI VILLE

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※ 夏男が帰って来た!!! やっほー。

滞仏日記「パリからやって来た宇宙人の父ちゃんを襲う次から次のわざわい!」

自分流×帝京大学

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