某月某日、ということで母さんに絵をプレゼントすることにした。
８９歳になった母さんに「パリ土産」、いろいろと悩んで考えたが、思いつかなかった。
８９歳にもなると、何をあげてもそれほど喜んでもらえないし、逆をいえば、何をあげても、ありがたいこったい、と返事がもどるに決まっているからだ。
何か、これぞ、というものをあげたいが、ふと、お前の絵が欲しい、と言っていたことを思い出してしまった。
長男が生まれた時に描いた絵（１９９５－６年に描いた作品、ＫＩＨＡＤＡ）があって、そのことを話すと、「それはもうわたしのものだ。わたしがもらう」といきなり宣言されたことがあった。
母さんは、福岡の自宅の壁に、ぼくが高校生の頃に描いた（正確には描かされた）イラストを原画にして、刺繍の飾り絵（？）を作ったことがあった。
もう、うーんと昔のことだ。
何せ、ぼくがたぶん高校一年生の頃なのだから。
メキシコの男女が躍る絵、なんでそんな絵を描いたのか、思い出せないが、・・・、そういう絵を描け、と言われたのであろう。
それが今でも、実家の廊下に飾ってある。（家宝だそうだ）
ということで、絵に対する思いが異常に強いのは、刺繍の先生だったからかもしれない。
「その絵はわたしのものだ」
はっきりとそう言ったことがあったので、なるほど、絵を描いてあげればいいじゃん、と思いついた父ちゃんであった。
そういえば、千住博さんから二十数年前に頂いた滝の絵があり、パリにもっていくのは危険だな、と思っていたら、私がお前が戻って来るまで大切に預かる、と言って、母さんの部屋の壁に千住さんのあの滝の絵が飾ってある。千住さん、ごめんなさい。
パリにもっていくのは、かなり、難しいと言われ、なくなく、日本に残していたが、ぼくが山梨の家を売ったので、その絵が母さんのところに、いま、ある！　あはは。
ということで、千住さんの絵の横に、ぼくの絵を飾れば、千住さんも喜んでくれるに違いない。
そもそも、母さんが住んでいる家は、ぼくの家だから、だれのもの、ということではない。でも、母さんは、自分のものにしないと気が済まないのだった。笑。
母さんのものです、すべて・・・。

※　真ん中にある、踊る男女のメキシカンの原画はぼく。母さんがそれをもとに刺繍しました。高校一年生の時の思い出、今も、実家に飾ってあります。

しかし、困った問題がある。
もし、パリを離れる前に描き上げたとしても、簡単には乾かない。
もう、日曜日には、日本に向かわないとならないのだけれど、油絵だから、無理。
完全に乾くまでに半年から、１年ほどの時間がかかるのだ。
でも、とりあえず、方法は考えるとして、描こうと思った。
最近、思いついた手法があって、金色の月を描いている。
青い世界に輝く金色の月の絵である。
母さんが、寂しくなったら、夜空を見上げ、月を探してください、それがあなたの息子です、という素敵なメッセージなのだった。
このシリーズは特殊な油絵具を使う。
Lune Carree （真四角な月）というタイトルなのだ。

ということで、いい感じで筆は進んでいるが、どうやって持って帰るべきか、ここはかなり悩みどころである。
母さんは、ぼくの引退公演に来ることが出来ない。
先日、大きな音をたてて倒れてしまい、その時、たぶん、頭を打っている。
慢性硬膜下血腫になる可能性があるからだ。
認知症の傾向もあるし、頭がしっかりしているうちに、その絵を抱きしめてもらいたい。
息子として、今出来ることは、この絵を母さんに届けることかもしれない。
さ、ひとなり、頭を使え！
乾いてない油絵をどうやって、福岡へ届けるか、であーる。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
荷造りしていますが、１０日は大学のゼミがあり、１２日はエッセイ教室があるので、日曜日には出発する予定ですけれど、それまでに、dancyuのエッセイもあり、日本についたら、その足で、リハーサルもあり、いやはや、どうなることでしょうね。えへへ。

はい、
そして、７月１２日に、エッセイ教室をやります。文章を書くのが好きな皆さん、どうぞ、お気軽にご参加ください。
☟☟☟
https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479