JINSEI STORIES
滞仏日記「今度は父ちゃんの絵が博物館に展示、公開された。7月22日まで、らしい」 Posted on 2024/07/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、借りているアトリエは割とエッフェル塔の真ん前にあって、窓を開けると、歴史的な鉄塔がよく見える。
ここは事務所から、ちょっと離れているのだけれど、見晴らしがいいので、作業がはかどる。
最近の作品にはエッフェル塔の鉄骨を描いているものがいくつかある。前のアトリエはモンマルトルの丘が目の前に聳えていた。
屋根裏部屋なので、作りはほぼ一緒だったりする。
パリはどこにいてもだいたいエッフェル塔やサクレクール寺院が見える。
絵が少しずつ、大きくなるにつれて、アトリエも少しずつ、広い空間を求めて、移動することになった。
新しいアトリエの横にいる人がミュージシャンで、彼のギターの音が、心地よい。
時々、廊下ですれ違うが、まだ、ぼくは名乗ってない。
自分もミュージシャンだと言ってもいいが、言わない方が、めんどうくさくないかもな、と思っている。
「うるさくないか、ぼくのギター」
とムッシュが言うので、
「ぜんぜん」
とぼくはすれ違いざまに返した。彼は親指を立てて、微笑んだ。
窓の外に、煙突が見える。
この煙突群が気に入って、ここを借りたのだ。
こういう物件は一年に一度くらいの割合で、コロコロ、場所を変え、そこから見える風景を、作品にしていく。一挙両得ということかな。
※ こちらは、その煙突を題材にした作品。画集の表紙なのであります。あはは。最近は、煙突の絵ばかり、描いている。煙突画家、みたいな。
パリ公演が無事、盛況に終わったので、3日のリヨン公演まで少し時間ができたこともあり、今日は、秋の個展の作品の仕上げに没頭した。静かで穏やかな時間が流れている。
音楽は一体感を求めたがるが、絵画は一体感など必要なし。
パリを流れる風に目を細め、ツアーの疲れをいやすように、カンバスと向き合う。
コーヒーを飲みながら、絵筆の先をじっと見る。無口な時間・・・。にんまり。
フランスの総選挙は予想通り、極右政党が大躍進、7日の決選投票は、一波乱起きそうな感じだな。
オリンピックを前に、フランスはちょっと怪しい雲行き。
アメリカも、世界各地でそれぞれの国の事情で政治的な混乱が引き起こされそうな、未来が、待ち受けているわけだが、選挙結果が全てなので、すくなくともぼくの周囲のフランス人たちは、肩をすくめながらも、様子を見ている感じ。
選挙権のないぼくは、絵を描くだけ。
日本が日本人のものであるように、フランスはフランス人のものだから、そこはフランス人が決めることだ。
だから、選挙があるわけで、それで、新しい結果や、古い体質に戻ったり、社会制度の変化が起きても、それはフランス人が決めたことになるので、ぼくはそれに従うのみ。
午前中、絵筆を動かし、昼は近くのカフェに行き、午後はエッセイ教室に送られてきた、けっこう、多くの作品に目を通し、カフェのテラス席で、iPadを開いて、エッセイを読んでる父ちゃん講師なのだった。
ふむふむ、なるほどね、そうきたか、というエッセイが多いね。(課題の締め切りは、5日いっぱいです!)
エッセイといういのは、その出来不出来に関係なく、文体の中に、ひととなりが出るからこそ、面白いのである。
激動の世界にあり、ぼくのiPadの中の皆さんのエッセイは、日常を実に心地よく描いていて、しかも、試行錯誤があり、読みごたえがあった。
そこに、帝京大学博物館さんから、ぼくの作品の展示状況についての写真が送られてきた。世界、どこにいても、瞬時に、こういうことがわかる、すごい時代である。
※ 額装家の浅尾さん。
※ 帝京大学博物館で、展示作業中・・・。
※ 7月2日から22日まで、入場無料です。
息子から、「大学のお金を払わないとならないから、103ユーロ」とだけ、連絡あり。
この書き方に、毎回、かっちーん、となる父ちゃん。
「なんのための103ユーロ?」
聞き返すと、
「大学代」
ときた。大学代???
「疑うわけじゃないが、人からお金を貰う時は、書類を提出しなさい」
すると、書類が届いた。フランス政府のマークが入った書類なので、間違いはない。103ユーロと書かれてあった。
「じゃあ、とりにおいで。ついでに、ごはんをしよう」
息子とのつながりが希薄になるのはよくないので、こういうことをきっかけに、呼びつけて、食事を一緒にして、どんな生活を送っているか、問いただしている。
20歳になったが、子供は子供で、まだまだ、親の仕事はたくさん、あるのだ。未成年だった頃とは違った親子関係が生まれている。
鳥が巣を出てなんとか自力で飛べるようになった感じで、でも、その飛び方はまたおぼつかなく、やはり親鳥の傍に戻ってくる、ような、感じ。
独り立ちして、つがいをつくって、逞しく自立できるまで、もうちょっとだけ、アシストをしないとならない、のが、今なのである。
大学院までは行くようなので、社会に出るまでにあと数年かかる。フランスに残る案と、アメリカやイギリスに出る案があるようで、ここからの1,2年が将来を決める大きな分かれ道になるのであろう。
今度の総選挙の結果も、彼の未来に少なからず影響を及ぼすことであろう。
ま、しかし、それも彼の人生だ。
あいつが自分で道を切り開いていくしかないのであーる。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
文章を読むのも大変ですが、書くのはもっと大変ですね。でも、大変というのは、それだけやりがいがある、ということなんです。1500字程度の文章でも、形にすることが出来た時の達成感はとっても大きい。しかも、何作も書いていくとじわじわ、その醍醐味を実感していけます。活字中毒という言葉は最近、あまり聞きませんが、読み書きは人間の基本ですから、AIなんかに、真似されない個性ある文体と発想を、目指したいと思っています。
そして、7月12日に、エッセイ教室をやります。文章を書くのが好きな皆さん、どうぞ、お気軽にご参加ください。
☟☟☟
https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479
ということで、この勢いで、リオンもお願いしますだ。
7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
その他の情報~。
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
☟☟