JINSEI STORIES
滞仏日記「フランス人男性はケチだと日記に書いたら、めっちゃ、叱られました」 Posted on 2024/06/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、知り合いのマダムに、「主人がお金に厳しくてケチなんです」と相談を持ち掛けられたことを、そのまま、日記に書いたのは、読者の皆様、ご承知の通りであーる。
一週間の食費が60ユーロと決められており、それでやりくらいをしないとならない上に外食は年二回だと聞いて、ぼくは強い関心を示し、勢い記事にしたのだが、思わぬところから、ぼくのこの記事の書き方への不快感がぶつけられることになった~。
今日、パリ事務所のミーティングで、夫がフランス人の女性スタッフさんが2名いたことからから、火が付いた。
「先生、あの日記の方のご主人は、ケチなのじゃなく、堅実家なんです。むしろ、60ユーロ(約10000円)で、物価が日本よりもうんと高いこのフランスでやりくりをしているのは、このご夫婦のすばらしさだと私は思いました」
知り合いのマダムは、ご主人と共同の生活口座を作り、そこから60ユーロを毎週引き落として、一週間の食事を切り盛りしている、というものだった。
フランスで60ユーロというと、現在のレートで、約1万円なのだ。日本よりも相当物価が高いフランスなので、日本的な感覚で言えば、4~5000円くらいの印象となる。
なので、ぼくは驚き、記事にしたのだが、笑いを取ろうとしているのが許せない、という女性陣からの猛反発を受ける格好となった。
「いや、笑いをとろうとは思ってないけれど、フランス男性が日本男性よりもケチだと思う、ということは言いたかった。そこは、読者にきちんと伝えたかったし、読み応えはあったのじゃにか、と思うんだけれど・・・」
この言い訳がまた、女性たちを激怒させたのであーる・ぱちーの。
「先生、むしろ、奥さんも切り詰めて料理をして、素晴らしいですが、その料理を喜んで食べているご主人はもっと素晴らしい男性と思うんですが、そうは思わなかったですか?」
「いや、でも、彼は一日に10万円も稼ぐんだよ。切り詰めないとならない理由はないし、もう少し、生活費に回してもいい気がするのは、ぼくだけ? 外食が年に二回っていうのは、ちょっと、あまりに、少なくない? 年収4千万円ほどもあるんだから、月に2度くらいは外食してもいいような気がする。違いますでしょうか」
黙った、女性陣。
弟子の長谷っちが、割り込んだ。
「先生、ぼくの印象ですが、フランスの男性は、確かにケチです。日本の男性だから言わせてもらいますが、在仏歴うん十年のぼくは一度もおごってもらったことがないです。いつも、100%割り勘です」
「そんなの長谷川さん、別にいいじゃない。割り勘で」
「そうよ、なんで、おごらないとならないんですか?」
「あ、いや、その人の方が社会的な地位が高くて、しかも、スポンサーで、ぼくは雇われる側で、誘われて、食事に行くんですけれど、好きなものを注文しましょう、と言われて、ごちそうになれるのかな、と思って、高いステーキとか頼んだら、最後、割り勘でって」
「それが普通ですよ。うちの主人は同僚たちとカフェにランチに行きますが、会計は、全員別々、ずらっとレジに並びます。昼時のカフェの見慣れた光景ですよね? 日本みたいに、上司や社長が払うってことないです」
ともかく、今日は、パリの個展のポスターを決める会議だったので、ぼくが賄いを作り、みなさんに、出したのだった。喧々諤々なので、美味しいもので、気をそらそうとした。
あの、いつも、うちの事務所ではぼくがまかないを料理し、スタッフさんらが片づけをしてくれる。ぼくが料理を作ることには、誰も何も言わない。当たり前になっている。あはは。
ちなみに、今日もまた、ブルスケッタ、それとクロック・アペロ、みたいなもの。
それから、ええと、父ちゃんが得意とする、パセリとキノアのサラダ、これ、絶対に美味しいやつなので、レシピを簡単にここで挟みますね。あはは。
※ キノアは、お湯で10分茹でて、数分、むらしてください。
※ パセリは、微塵切りにします。
※ ええと、ツナ缶、オリーブオイル漬けのツナ缶です。
※ オリーブオイル、塩胡椒、レモンを少々、絞ります。
※ 絶対、美味しい、パセリとキノアの健康サラダの完成です!
「でも、60ユーロだと、一日、8ユーロくらいでやらないとなりませんが、一日三食、8ユーロは相当な努力がないと無理です。まず、そこを褒めましょうよ。日本円だと1500円ですが、物価の高い、フランスは、何も買えない。それでも、美味しい料理を工夫しながら、作っている、その方をまず、褒めなきゃ。当然、ご主人はそれを喜んで美味しいと食べている。この時点で、最高の夫婦です。何も問題はないです」
「いや、わかってもますよ。ぼくだって、いつも、お金のこと考えながら、みなさんのまかないを出しているんだから。言いたくないけど、このパセリ、いくらか、わかります?」
全員、黙る。
「ひと房、3ユーロ(500円)です」
「高い!」
「そうですよ。このサイズのサラダを作るのに、パセリが3ユーロ、キノアは三種類使っているので、もっとかかっています。ツナ缶、小さいのが一つ、これで1ユーロちょっとかな。全部で、8ユーロくらい、出さないとこのパセリ・キノアサラダ、食べられません。とてもじゃないですが、フランスで、一日、8ユーロで三食作れる日本人女性がいるということを、ぼくは伝えたかった。美味しいものをいつも普通に食べている、あなたたちに、糾弾される意味がわかりません」
長谷っち、そのサラダを口に入れたところだったので、むせていた。
長谷川さんは、大きな病をされ、手術を受け、最近、パリに戻って復活されただけに、まかないを作る側としては、健康には人一倍気を付けているのだった。
「それから、家中の電気をつけていると、ここはベルサイユ宮殿じゃない、と怒るそのご主人のことを、ぼくはリスペクトをもって、書きました。面白おかしく書いたつもりはないし、ぼくだって、みなさんが帰った後、事務所の全部の電気を消してまわっていますよ。ここは、ベルサイユ宮殿じゃないんだぞ、と思いながらね」
一同、顔を見合わせて、黙ってしまった。食事が冷めそうなので、ともかく、食べましょう、まずくなります、と促す、父ちゃんであった。
※ こちらは、クロック・アペロ~!!!
「あの、いいですか」
「はい、どうぞ」
「そのご主人は、日当10万円なのに、奥さんに60ユーロでの生活を頼み、二人で外食もしないで、電気も消しまくって、お金をためて、アパルトマンや家を購入し、家賃収入を得ているわけですから、この飽食の時代に、見習うべきご夫婦だと思うんです。ですから、先生の記事で、私も笑っちゃいましたが、もう少し、そこの部分を最後に掘り下げて、この夫婦の生きざまをこそ、今のような時代に届けるべきだったのじゃないか、と思ったので、そこだけは、言わせてください」
「それから、私たちも、昼間は外光が窓から入るわけですから、電気を消して、非ベルサイユ宮殿化していきませんか?」
「いいですよ。当然です」と長谷っちが宜った。
ぼくは、俯きながら、黙って、ブルスケッタを齧っていた・・・。
※ 好きなように、とりわけで、好きなように食べるのが、父ちゃんのまかないのいいところ・・・。話が弾みます。ごめんんさい。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
このキノアとパセリのサラダ、本当に健康にいいので、ぜひ、試してみてください。キノアをクスクスパスタにしちゃうと、タブレというアラブ系の料理になります。大量のパセリを食べた後は、胃も活発になり、健康を実感できますから、お試しください。いろいろと、先日の記事に関して、相談を受けた方には、ごめんなさい。ご本人の許可を頂いていたから、良かったのかな、と思ったのですが、確かに、最後のまとめでご夫婦の愛について、もう少し加筆するべきでした。読んだご本人から、すぐにメールをもらい、さすがです、とあったのですが、そのくだりの中で、ご主人への愛の深さをさらに感じることが出来ました、と書かれてありました。そのことを、付け加えて、筆を置きます。
はい、ということで、フランス・ライブ・ツアーが近い父ちゃんから、お知らせです。
今月の地球カレッジ、6月27日、ボルドー市内オンラインツアーをやります。なんか、ボルドーで美味しいもの、探しましょうね。
ボルドー市内を練り歩く、父ちゃんガイドは、こちら。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329477
そして、地球カレッジ、7月12日、第二回、エッセイ教室もあります。もう少し、文章で人生を豊かにしたい皆さま、どうぞ~。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479
さて、さて、ボルドーに続き、そのあとは、パリに行きます。
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
それから、来月は、いよいよ、日本での引退公演ファイナルツアーがスタートします。音楽興行の世界から、引退します。
父ちゃんのジャパン・引退・ファイナル・ツアー・・・。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
と、なります。
お時間があれば、どうぞ、お立ちよりくださいませ~。最高のライブにしましょうね!!!!
その他の情報~。
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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