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滞仏日記「父ちゃんにも父親がいた。さんちゃんにも父親がいる。父から子へのバラード」 Posted on 2024/06/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨夜、父親が夢の中に出てきた。
夢の中でぼくは大きな家に住んでいたのだけれど、父親がやって来て、ちょっと血栓ができてるみたいなんだ、と言った。ぼくは父さんを振り返り、そうなんだ、と言った。
不意に夢に出てきたので、びっくりしたぼくは、目が覚めてしまった。
それで、ぼくにとってあの人はどんな人だったのだろう、と考えてしまった。
夢に出てきたのは、3年ぶりくらいじゃないか、と思う。(母さんは出てきた記憶がない)
どういう気持ちで、ぼくを育てたのだろう、と思った。
父親は忙しい人だったので、遊んでもらった記憶がない。一生懸命働いてる人、という印象しかなかった。でも、それが父親なんだろうな、と子供ながらに思っていた。
それから、外反母趾の矯正具を外し、キッチンに行き、コーヒーを淹れながら、なぜか、コロナ禍の時のことを思い出した。あれは、すごい経験だった。
完全ロックダウンの中、息子とアパルトマンから出ないで、過ごさないとならなかった。学校は休み、外出ができない、しかもフランスで暮らしている、・・・苦しい時期だった。
薄暗い光の中、自分の手を見た。
父さんはいつ、死んだんだっけ、と思った。ぼくは父親のことをどう思っていたのだろう、と考えた。
そしたら、三四郎が、やってきて、ぼくの足元でまるくなった。自分の背中をぼくに押し付ける感じで・・・。
この夜が寂しかったのかな、と思ったので、抱きかかえてやった。
ぼくは父親に抱きかかえて貰った記憶がない。弟の恒久はあるだろうか?
父親というのは、いったい、なんだろう。
父ちゃんは、そう、思った。

滞仏日記「父ちゃんにも父親がいた。さんちゃんにも父親がいる。父から子へのバラード」



腕の中にいる、三四郎の、口の中をチェックした。
真っ白なおできも悪性ではなく、小さくなっている。
お医者さんに、大きくなったら癌の可能性がある、と脅されていたので、しばらくは、ドキドキして過ごしていたが、たぶん、もう、大丈夫であろう。
こちらがあんなに心配をしたというのに、さんちゃんは、何事もなかったかのように、ぼくの腕の中で、ぬくぬくしている。
この子は、ぼくのことをなんだと思っているのだろう?
飼い主、だろうか、親、だろうか?
もうすぐ、フランス・ミニ・ツアーがはじまるが、問題は、三四郎を連れていくか、どうか、である。
夏の日本へは、連れていけないので、ずっと離れ離れになってしまう。
フランス・ミニ・ツアーは、ボルドー、パリ、リヨン、というフランスを代表する3つの都市を回る。
英国在住のギタリスト、ヒデ君をサポートに迎え、アコースティックなライブで巡る優しめのツアーになるから、ま、連れていくことも可能なのだ。
27日に地球カレッジのボルドーからのオンラインツアーを予定しており、28日のベルセゾンでのライブと二日続けての行事となる。
三四郎を連れていくなら、楽器や機材もあるので、車で移動するしかない。
そうなると、7~8時間ほど運転しないとならない。
さんちゃんを連れてオンラインツアーをやればいいだけのことだ。
翌28日のライブ会場となるベルセゾンが数千平米の敷地を持つ野外レストランなので、放し飼いにしておくことも可能っちゃ、可能だね、とスタッフと話しあった。
この日は野外コンサートだし、福岡からシェフなどが大勢やって来るので、ライブ中は、誰かが三四郎の面倒をみてくれるのではないか、と・・・。笑。
パリのライブの時は、岡っちが、事務所で待機することになったので、彼女に三四郎を預けることが出来る。
ただ、7月3日のリヨンは、再び、移動をしないとならない。ここも、パリから車で6時間。
当日入りは厳しいので、最低、二泊はすることになるだろうか? 
ここは、会場がバトー(川に浮かぶ船)なので、川に落ちたら大変だから、リードを付けておかないとならないし、トイレとか、食事とか、どうするか、けっこう、難しいところもある。
普通の旅行であれば、付きっ切りで面倒をみることが出来るが、さて、困った。
ボルドーは連れていくことが出来そうだが、リヨンはどうだろう。
「さんちゃん、お留守番できる?」

滞仏日記「父ちゃんにも父親がいた。さんちゃんにも父親がいる。父から子へのバラード」



さんちゃんが、くるっと、ぼくの方を振り返った。
父親は、誰にも迷惑をかけないで、死んでいった。
病気になって入院をし、そこで、息をひきとった。でも、トイレにいって、ベッドに戻り、そのまま、誰にも迷惑をかけないで、静かに永眠した、らしい。
猛烈なサラリーマンだったが、退職した後、目標をなくし、自ら人生を閉じるように、この世から去っていった。
でも、不思議なことに、2,3年に一度、ぼくの夢の中に出てくる。
そして、そういう時は、だいたい、何か、ぼくにとって、人生の交差点に差し掛かるような時期だったりするのだ。
父さんは、何を言いにやって来たのだろう。
心当たりはある。
語り合ったことも、抱きあげて貰ったこともないが、でも、やはり、父親なのである。
夢に出てきて、何か、示唆しているのは間違いがない。
それとも、ぼくが、そこを見ている、ということかもしれない。
さて、さんちゃん、散歩に行こうか?
三四郎が尻尾をふった。
この子にとって、ぼくは、きっと父親なのであろう。

滞仏日記「父ちゃんにも父親がいた。さんちゃんにも父親がいる。父から子へのバラード」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
家族って、どういうものですか? いろんな家族がいるでしょうから、これだと言い切ることもできませんが、ぼくの場合、父親とは、彼が死んでから、よく考える存在になりました。親がどうあるべきか、ある意味、いまだ、教わっているような気がしています。

はい、ということで、今月の地球カレッジ、6月27日のボルドー市内オンラインツアーをやります。
ボルドー市内を練り歩く、父ちゃんガイドは、こちら。

https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329477
そして、地球カレッジ、7月12日、第二回、エッセイ教室もあります。もう少し、文章で人生を豊かにしたい皆さま、どうぞ~。

https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479

さて、さて、ボルドーに続き、そのあとは、パリに行きます。
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

それから、来月は、いよいよ、日本での引退公演ファイナルツアーがスタートします。音楽興行の世界から、引退します。
父ちゃんのジャパン・引退・ファイナル・ツアー・・・。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
と、なります。
お時間があれば、どうぞ、お立ちよりくださいませ~。最高のライブにしましょうね!!!!

その他の情報~。

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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