JINSEI STORIES
滞仏日記「ぼろぼろ服でランチに行ったら、隣に日本マダム、二人組!絶体絶命」 Posted on 2024/06/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日はご飯作る気にならず、ランチに出かけた。
やっぱ、食いしん坊でも毎日ごはん作るのはしんどい・・・。
手抜きとかできるといいんだが、性格的に難しいので、今日は、あっさり、外食することにした。
朝からアトリエに籠って、秋のパリ個展用の大作に着手していたのだが、着替えるのが面倒くさく、油でちょっと汚れた仕事着のまま、外出・・・。ま、サクッと食べてすぐ帰る予定だった。
近所に、ちょっと美味しいベトナム料理屋さんがあって、ここの甘辛鉄板焼き肉飯が最高なのであーる。るんるん♪
で、普段の父ちゃんは、あの、自分でもびっくりするくらい汚い恰好。だからか、あまり日本の人にも気づかれない。その上、マスクとかしているし。
で、奥まった席に案内され、着席、「いつもの甘辛鉄板焼き肉飯ください」と注文をしたら、入り口から、アジア系女性二人組が入って来た。お、日本人かな。
日本人でもいいんだけれど、空いているのが、隣しかない。
ということで、このマダムたち、隣の席に案内された。ぎょえ!
「ここ、美味しいのよねー」
「誰かのブログで紹介されてたよね」
お、日本人確定! 誰のブログ? ぼくじゃないよね・・・。
でも、ま、父ちゃん、もう年齢が年齢だし、オワコンだし、お隣り、若いマダムたちだから、わかるわけないね、大丈夫かな、とハンチングを目深にかぶりなおしたのだった。マスクもしているし・・・。☜かなーり、怪しい恰好。
足元に、あやしい三四郎・・・。ま、大丈夫でしょう。
まもなく、甘辛鉄板焼き肉飯が到着、ぎゃああ、うまそう。
その時、その湯気立つ甘辛鉄板焼き肉飯があまりにすごくて、その湯気につられて、こちらを一瞬覗き込む日本人マダム二人~。
うわ、どう反応していいのか、とりあえず、せき込むふりをした、父ちゃん。
ごほごほ。
「そういえば、パリ在住の、日記書いてる作家の人いるでしょ?」
「あ、知ってる!」
ええ、ぼくじゃないでしょーね? 小さく、かぶりをふる、ムッシュ、ツジー。めっちゃ、緊張して、食べるどころではない。
「なんかね、大変そうよね、子育てとか」
こんな状態で、食事などできるわけがないが、ここから逃げ出すこともできない。マスクつけたまま、おそるおそる・・・。あはは。
ちょっと危ない人みたいだが、マスクをちょっとおろしながら、はずさず、とりあえず、一口食べてみた。美味い。でも、その感動を表には出せない。
なぜなら、あまりに汚い恰好なのだ。
ズボンもトレーナーもアトリエで絵と格闘した直後だから、絵の具も付いているし・・・。ううう、でも、食べないわけにもいかない、しょうがない、食べよう! 冷めないうちに!
「犬飼ってるでしょ? その人」
「そうそう、小犬」
げっ。
足元を覗くと、三四郎と目が合った。さんちゃん、いつものごとく、父ちゃんを見上げている。
この子は、いつもレストランで、おこぼれに預かりたく、父ちゃんの足のスキマから、見上げる習性があって、・・・。
あああ、こりゃあ、最悪の展開じゃん。思わず、左手でぐぐっと三四郎の頭を押しやったった~。
「なんか料理が、お上手で、いっつも、美味しそうなごはんをアップされてて」
「そうそう、お子さん、大学生でしょ?」
ぐ、美味しいのに、甘辛鉄板焼き肉飯が喉を通らない。髪の毛も、洗ってないし、サンダルじゃないけど、スニーカーで、しかも、朝、走る時のぼろぼろ外反母趾矯正ランニングシューズだったりして、この格好で、それは私です、とは言えません!!!
「一度、スーパーですれ違ったことあるけれど、なんか、生活感まるだしだった」
ゲッ。
「この辺なの? 一度実物あってみたい。自撮りの写真しか知らないから、実物みたいわー。ぜんぜん、別人だったりして、あはは」
ゲッ。
絶体絶命の大ピンチって、これのことですか!?
マジで、冷や汗が出た、父ちゃん。
とにかく、かっこつけられる状態じゃないし、これで、この怪しいのが本人だと、ばれたら、世間の笑いものになるの確定・・・。あああ、もー、終わりじゃあ。
三四郎が股間の隙間から、登って来る。隣のマダムがなんか、気配を感じて、自分の足元を覗いた。やめれ~!!!!
せき込む、父ちゃん。左手は、三四郎の鼻を掴んで、ふーん、とか言わせないようにした。鼻先、濡れてるゥ~。
「ミニチュアダックスでしょ、あのわんちゃん」
「なんて名前だっけ? 小次郎!」
『違うわーい!!!』 ☜心の声!
生きた心地がしない、冷めていく甘辛鉄板焼き肉飯、最悪の状態である。
まもなく、彼女らの料理がやって来て(フォーだった)、話題がそっちに移った。
そこからは、ベトナムに駐在された時の話とか、駐在主婦のご苦労とか、子供たちの学校の問題などに話が移行したのだった。
父ちゃんは、急いで甘辛鉄板焼き肉飯を胃袋にかっこみ、三四郎をゆっくりと椅子の下から、入り口方向へと奥に送り出し、その際、ポケットにあった三四郎の餌を放り投げて、そっちに気をそらさせつつ、立ち上がって、足で、三四郎のリードを踏んで、フォーを食べている二人の横を出かかった時に、
「あ、思い出した。辻さん、だ!」
「そうそう、辻仁成さん!」
とか、話題、戻すなーーー。
失神しそうになった父ちゃんであった。
ごほごほ、とせき込みながら、レジに行き、少し多めの現金を置き、おつりはいりません、と言い残し、外に飛び出したのだった。
在仏歴22年、最大最悪の修羅場であった。ガラスにうつった、小汚い、父ちゃん。あはは、こりゃあ、自撮り、出来ないわ。
あの二人は、たぶん、ぼくに気が付いていなかった、と信じたい。もしも、この日記を偶然、読まれたならば、どうぞ、あらゆる方面で、その時のことは、内緒で、お願いいたします。笑。
ここに書けなかった世間一般の会話内容については、ぼくとしては聞かなかったことにいたしますので・・・、あはは。
とにかく、美しく、聡明な日本人マダム、お二人でしたァ。
ちゃんちゃん。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ふー、絶体絶命大ピンチでありました。やはり、外出するときは、ちゃんとした格好で出ないといけませんね。でも、絵に集中していると、なんていうか、恰好にまで気が回らないんですよね。これを教訓に、明日から、ちゃんとした格好で外出したいと思った、父ちゃんでございました。さんちゃん、今日は、ごめんね。
はい、ということで、残りものを愛する父ちゃんから、もろもろお知らせです。
まずは、その、お別れ父ちゃんのジャパン・引退・ファイナル・ツアー・・・。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
と、なります。
お時間があれば、どうぞ、お立ちよりくださいませ~。最高のライブにしましょうね!!!!
そして、フランスツアーは、いよいよ、今月です。
●6月28日は、ベルセゾンにて、ライブ。20時、スタート!
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
そして、地球カレッジからのお知らせ!
地球カレッジ、6月27日のボルドー市内オンラインツアーの申し込みはこちら。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329477
そして、地球カレッジ、7月12日、第二回、エッセイ教室のお申込みはこちら。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
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