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滞仏日記「まさかの大失態、ないないない、携帯がない。パニくッた父ちゃん」 Posted on 2024/05/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスでの初個展話が順調に進んでおり、下見を兼ねて、マレ地区の画廊まで出かけた父ちゃんであった~。
いろいろな方々が仲介してくださり、なんとか、いい画廊やフランス人の美術関係者と巡り会えた。皆さん、作品を気に入ってくださり、ありがたい。
今日も大きな画廊などを見て回り、マネージャーのMMが中心となって、関係者と話し合いが続いた。(MMは美大出身でキュレーターでもある)
仏語の得意な長谷っちとMMに任せっきりだが、今月中には、この件については前進した日記をお届けできると思うので、お待ちくだされ、あはは。
と、ここまでは、実に素晴らしい展開であった。
るんるんしながら、家路についた、父ちゃん。
と、ところがであーる。

滞仏日記「まさかの大失態、ないないない、携帯がない。パニくッた父ちゃん」



携帯紛失マネージャーのMMと別れる時に、「携帯とか、なくさないようにね」と嫌味を言ったのがいけなかったのかもしれない。※MMさんはオランピア劇場公演の二日前に、関係者連絡先の入った携帯を紛失したのだった。
車に乗って左岸を目指しはじめたところで、その、携帯がないことに気が付いた!
「え? マジか」
運転しはじめ、ナビを入れようとしたら、ない、じゃないか、お、おれの携帯。
自慢じゃないが、ぼくは携帯を紛失したことがない。
かなり用心ぶかく、内緒だが、腰に大き目のウエストポーチをしっかり巻いて、22年間、パリで無事故で生きてきた。
ところが、今日は、画集とか資料とか、荷物が多かったこともあり、ウエストポーチに携帯が入らず、手で持っていたのであった。
しかし、車は走りだしており、しかも大渋滞で(パリ市内、オリンピック関連の工事で、どこもかしこも大渋滞だから)、動かない。携帯がないので、MMとか長谷っちに助けを求められない。
「えええ、これって、もしかして、今、おいら、パニックですか???」
と自問してしまった、父ちゃんだった。
「あの、誰にも迷惑をかけずに生きてきたし、悪口も言わないのに、神様、なんで、こんな試練をお与えになるんですか? 殺生な~」
と思わず、叫んだ、車の中。
おかしい、どこだ。どこに忘れたのだろう? 
画廊か? いや、画廊を出て、ツイートをしたような気がする。じゃあ、どこだ。
あ、そうだ。
ぼくは画廊を出て、みんなと別れたところでイタリア食材店に入り、るんるんしながら、オリーブオイルを買ったのだった。
手に画集を持っていたので、携帯をレジのところに置いたんじゃなかったっけ?
おいおい、マジかよ。
日本だったら、忘れた場所がわかったので絶対に戻って来るが、ここはフランス・・・。

滞仏日記「まさかの大失態、ないないない、携帯がない。パニくッた父ちゃん」



すぐそこなので、走った方が早いが、マレ地区、車を停めるスペースがない。しかも、携帯がないので、戻ろうにも、ルートがわからん。おーまいがっ。たかが携帯、されど携帯。困った。感で戻るしかない。どっち?
どっちなのよー。
あちし、どっちに曲がればいいの~?
窓をあけ、すいません。・・通りはどっちですか~、からはじまり、格闘すること30分。というのも通勤ラッシュにもぶつかり、マジで、車が動かんのじゃあ。しかも、土地勘の一切ない右岸のマレ地区。左岸育ちには、辛い~。
しかーし、なんとか、見覚えのある通りまで戻ることが出来た、父ちゃん。
ここからは走った方がいいだろうと思い、リブレゾン(運送車両専用)駐車スペースに乗り上げ、飛び出した。(夜は、停車してもいいリブレゾンスペースあります)
ところがであーる・ぱちーの・ごっどふぁーざー。
その店をなんとか、発見できたのだが、時すでに遅く、シャッターが閉まっていたのだった。えええ、おおまいがっ!
この瞬間までに費やした30分は、ぼくの寿命をおそらく1年は縮めたに違いない。というのも、ハンドルを握りしめがら、走りながら、ぼくは携帯が戻らなかった場合に要するあらゆる深刻な事態を計算していたからであった。
絶体絶命というやつである。
新曲メロディ、新しい小説や演劇の構想など、あらゆるデータがそこに入っているのじゃ。ぎゃああああああ。
シャッターの降りたイタリア食材店の前で、目を見開き、卒倒しそうになった。その時であーる・ぬーぼー。
「ひとなり、諦めてはいけんたい。人生っちゅーものは、最後の最後の瞬間まで、見捨てないもの。諦めた者は、諦めるということで運を捨てる。お前は、死ぬまで、諦めたらいけん!」by 恭子さん、・・・母です。
という学生時代に何度も聞かされた言葉を思い出した父ちゃんであった。言霊降臨!
どこからともなく、諦めないパワーが出てきて、次の瞬間、ぼくはシャッターを激しく叩いていたのだった。
ばんばんばんばんばんばん!!!!!!!!!
「しるぶぷれー、しるぶぷれー、しるぶぷれーーーーーーー」
すると、すると、数分後、シャッターの向こうから、
「なに?」
と声がした。
おお、いた~。神がいた。神様~、まだ、ぼく、生きていてもいいですかァ? 
「なに?」
「あの、携帯を忘れましたー」
「え?」
「アイホン、ぼくのあいほーん。忘れたんですー。そこにありますかー」
通り中の人が振り返るが、関係ない。それは、ぼくの人生だからだ。
シャッター、ゆっくりと開いた。若い店員さんが、ニヤっとわらい、ぼくの携帯を、差し出すのだった。
「まんまみーやー」

滞仏日記「まさかの大失態、ないないない、携帯がない。パニくッた父ちゃん」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
さすがにMMにはこのこと、言えませんでしたが、長谷っちにはすぐに電話をし、経緯を話したら、「あの、先生、とにかく、安全運転で帰ってください。なんか血走っているので、心配です」と戻って来たのでした。皆さん、焦らず、安全運転でね。
はい、ということで、昨日から、夏の新生堂個展の入場予約が開始されています。完全・予約制で、おひとり、45分間、無料で、館内を観覧できますので、予約をお願いします。人数が限られているので、どうしても、個展を観たい方は、お早目に、こちらのURLをクリックくださいね。
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https://shinseido.com/exhibition/archive/14244/

滞仏日記「まさかの大失態、ないないない、携帯がない。パニくッた父ちゃん」

はい、引退ラストライブのお知らせです。
辻仁成、ジャパン・引退・ファイナル・ツアーは。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
になります。
そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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