JINSEI STORIES

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」 Posted on 2024/05/24 辻 仁成 作家 パリ

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

某月某日、あっという間に、パリに戻った。
弾丸日本だったが、三四郎を迎えに行き、一息ついている。
京都へ行ったり、文化サロン開催したり、慌ただしかったが、移動時などは一人だったので、立ち食い蕎麦屋のカウンターで冷やしうどんを胃袋にかっこんだり(これがけっこう、美味かった)、路地にあるラーメン屋さんで琥珀麺をすすったり、並ばないと入れない蕎麦屋の列に並んで鶏南蛮せいろをいただいたり、行きつけの焼き鳥屋で植野元編集長と彼の亡くなられたお父さんのことを話しこんだり、した。(短い滞在なのに、いろいろしている。えへへ)
時差のせいで、睡眠時間は2時間程度だった。
今日はよく眠れた。

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」



駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

で、六本木のとあるジャズバーに潜り込んで、そこの無口なマスターに寝酒をこしらえて頂き、絡んだ時差をお酒の力でほぐしていると、そこで流れるジャズのメロディがぼくの記憶を揺さぶったのだった。
ぼくが生まれてはじめてジャズ喫茶を訪れたのは中学三年生の秋だった。
仲間たちに誘われて、函館青柳町にあった「想苑、SOEN」というジャズ喫茶に入った時、そこで流れるマイルスデイヴィスやコルトレーンに打ちのめされた。
めっちゃくちゃ不穏な音楽で、ぼくの魂は一瞬にして鷲掴みされたのだ。
あの衝撃がなければ、今、ぼくは絵を描き、小説を書いてなかったかもしれない。なぜか、その時、アートや文学的な覚醒を強く覚えたものだった。
そこには年配のマダムがいて、ピアノをちょっと弾いていた、と思う。彼女がぼくにいろいろと話しかけてくださり、ぼくは通い、つまり、ジャズを教わったのかな。
店の中に巨大なスピーカーがあって、ここから流れてくるコルトレーンのサックス、マイルスのトランペット、たまらなかった。映像的で、散文的で、・・・。
六本木の、たまに顔を出すジャズバーのマスターが拵えたハイボールを舐めながら、なぜかぼくは六本木にいるというのに、函館のことを考えていた。
青柳町こそ悲しけれ、だったかな、あの石川啄木が住んでいた地区だった。ぼくの家はその近くの宝来町にあった。
当時のぼくは、倉庫に一人暮らしをしており、仲間を集めて、文化的議論に明け暮れていた。
札幌から、その倉庫のことを聞きつけてミュージシャンがやって来ることもあった。
歴史的な地区で、石畳の坂道などが残っていた。
淡いブルーが似合う世界だった。
函館は、最近は行く機会がないけれど、ぼくの青春期のもっとも躍動的な魂を育てた土地であった。想苑はまさに表現のゼロ地点と言えるだろう。
ググってみたら、まだ、存在していた。
頭の中に、その高齢のマダムが向かったピアノの音が響き渡っていた。
今の想苑はお子さんかお孫さんが受け継がれておられるに違いない。写真を見る限り、入り口もホールも当時のままだが・・・。
時代がそのまま止まってしまったような、素敵な世界のひだまりが見えた。
ふらっと立ち寄りたいなァ、と思いながら、ハイボールを舐めるのだった。

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

※ グーグルからお借りしました。笑。

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

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駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

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駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

※たまに食べたくなる、富士そばの、冷やし蕎麦。

三四郎はまた、犬臭がひどく、洗うのに一時間ほどかかってしまった。この匂いはかわいそうだ。ジュリアのところは過酷なのかもしれない、と思った。
お風呂に入っている間、ずっと、うーうー、と文句を言っていた。
「パパしゃん、ぼくを独りにして、なんて、冷たいパパしゃんなんだよ。ぼくは怒っているんだからな。うーんうーん」
そういう感じ。
「すまんすまん。一緒に遊ぼうね」
三四郎にドライヤーをかけながら、駆け足の日本弾丸ツアーを振りかえった。六本木のジャズバーの階段を上る自分、富士蕎麦のカウンターに立つ自分、新幹線駅のホームでお弁当を買う自分、北白川の路地を歩く自分、いろんな自分がそこにいた。
青柳町の坂道を歩いている自分が最後に目に浮かんだ。
その青年には未来しかなかった。ギラギラした目をして、創作ノートを握りしめていた。そこには小説のアイデアや、音楽、絵画、詩の断片が描かれていた。
あの頃、ぼくはすでに自分の色を持っていた。

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」



駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくの歴史の中で、函館で過ごした4年間は大きな意味がありました。数多くの創作のヒントをあの街からもらったのは間違いありません。不意に、函館に接続出来て、思い出が錯綜しましたが、なんだろう、嬉しかった。宝来、青柳、十字街、どこも絵になる、素晴らしい街角でした。さて、掃除でもするか。

ということで、この連中と、爆笑ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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TSUJI VILLE

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迫ってまいりました、5月26日は、いよいよエッセイ教室です。
文章というのは、簡単そうで、実に難しい。じゃあ、どうやったら、楽しいブログや日記やエッセイがかけるようになるのか・・・。そこです。
そんなエッセイを書きたい皆さんへの、熱血父ちゃん先生の勉強会になります。
講義を受けたい皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックください!(今までと少し登録方法が変わっております)
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“地球カレッジ”

駆け足の仁成日記「パリに戻った父ちゃん、この数日、食べて飲んだ日本の味を懐かしむ」

辻仁成、ジャパン・引退・ファイナル・ツアーは。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
になります。
そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)



自分流×帝京大学