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滞仏日記「封鎖された街から」 Posted on 2020/04/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリのロックダウンは続いている。東京でも緊急事態宣言が出るという噂だけど、どちらにしても、まだこれは始まりに過ぎないのだ。世界は見えない敵との、ものすごく長い戦いに突入することになる。息子と話し合い、彼の協力を得て、「封鎖された街から、Don’t Stop Music」という曲の撮影を我が家のキッチンでやった。封鎖されたこのパリの街から、何かを届けたかった。ぼくらはこのアパルトマンから出られないけど、メッセージをあらゆるメディアを通して届けることは出来る。YouTubeはその一つだ。まずは観てもらいたい。

滞仏日記「封鎖された街から」



この曲は30年ほど前に作った「シルビア」という曲のセルフカヴァーになる。ECHOESの実質ラストレコーディングのナンバー。シルバー・バレットというベストアルバムに収録された。その歌詞を変え、コロナ戦争の今に置き換えてみた。バンドが解散することが決まった時に作った歌なので、歌詞は「音楽を止めないで、そのメロディを忘れないで、僕は歌い続けるよ、たとえ一人になっても」という内容となっている。メンバーと別れても、ファンと別れても、またいつか、音楽で繋がろうという歌であった。

あれから30年、もう一度この歌を引っ張り出し、歌ってみた。ECHOESのメンバーとしてデビューした時のことや、それから流れた30年の歳月、そして、息子がパリで生まれ、今日までのシングルファザーの日々、…。常にそこには音楽があった。でも、その音楽がコロナのせいで、苦しい状況に追い込まれている。世界中のミュージシャンたちが活動の場を制限され、奪われ、歌えなくなりつつある。ぼくはこの歌を、音楽を愛する人にまず届けたかった。そして、5月24日のオーチャードホールのライブを愉しみにしてくれていた人たちに届けたかった。再び、このライブが延期になってしまった、今だからこそ…。



公演の延期が決まった。2月中旬、ぼくは感染の拡大の様子を眺めながら、「これはもうコンサートが出来る状態にはならないだろう」と予測していた。実はそこら辺から各方面との話し合いを続けてきた。そこでまず、4月16日に予定していたパリの劇場をエージェントと話しあい、外出制限が出る前に延期にした。様々な意見があると思うが、このウイルスの感染力の強さは想像を絶する。5月24日に予定されている東京オーチャードホールでのソロライブをどうするか、が次の焦点になり、主宰の方々と話し合いを水面下で続けてきた。主催の一人、ECHOESデビュー前からの腐れ縁で大阪サウンドクリエーターの中原氏にぼくは詰め寄った。主催者の立場もよくわかる。でも、楽しむはずのライブ会場で感染者を出したくない。なかなか緊急事態宣言が出ない東京だけど、かなりの数の感染者がいることは容易に想像が出来るし、欧州でその現状を肌で感じているぼくからすると5月24日までに終息など考えなられなかった。地方から上京する予定を立てないとならない人もいる。スケジュールもある。一日も早い結論をと迫った。緊急事態宣言を待ってるわけにはいかない、と僕はずっと言い続けてきたのだ。そして、昨日、最終的な延期の決定がなされたので、ぼくは息子の力をかり、今日、この曲を歌った。「音楽を止めないで、音楽を忘れないで、歌い続けよう」というのがぼくから、応援してくださっている皆さんへのメッセージなのである。そして、仲間のミュージシャンや、音楽を愛する全ての地球人、封鎖された街で音楽を求めている人たちへ、Don’t Stop Music!

※公演延期に関する詳細は主宰ホットスタッフプロモーションのHPにて近日中に発表させていただきます。その直後、デザインストーリーズ、もしくは、辻仁成のHPでもお伝えします。日記でも。

滞仏日記「封鎖された街から」

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