JINSEI STORIES

パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」 Posted on 2024/05/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、アトリエにはスタッフも誰も入ることができない。ここには、三四郎も来たことがない。
描きかけの絵だらけだから、絵はどれも乾いてないから、服があたったら、大変なことになる。
だから、自分で掃除をやらないとならない。
いくつかの作品を同時に描くことも多いので、屋根裏部屋だから、絵の具とか床にそのまま放り投げているし、身動きがとれないくらいに狭い部屋だから、掃除機をかけるのも実は難しく、でも、実に落ち着く部屋なので、手放せない。
小さな窓があって、ここから見えるパリが好きで、遠くにモンマルトルの丘も見えれば、エッフェル塔も見える。旅行者がここに来たら、ひゃあ、これぞパリですね、と唸ること、請け合い。
ここから見えるパリの屋根をたくさん描いている。
パリはご存じのように建物の最上部に暖炉用の煙突が付きだしていて、ぼくのアトリエからだと、間近に見えて、なんかね、どれも人格があるのだ。
それを、めずらしく写生している。
なので、ある程度、写実的な作品群でもある。
写実的な作品ではあるけれど、ぼくにはこう見えているという個性的まなざしに変換されるので、そこにデフォルメ的な抽象が付随され、楽しい。

パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」

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パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」



でも、ぼくのアトリエは最上階にあるから、煙突ばかりの世界なのだ。今度の個展の主役は、ずばり、パリの煙突たち!
窓の下にソファベッドになるソファがあって、そこに座ると、2時間とかあっという間に過ぎてしまう。
ソファの周囲にイーゼルが立っており、描きかけの作品を眺めているのだ。もうちょっと離れた場所から眺めてみたいのだけれど、なにせ、引き尻りがないので、どうにもならない。なにせ狭すぎる・・・。
でも、その狭い空間の自分の席というのがとってもいいのだ。
コーヒーを淹れて、そこに座り、ぼんやりと自分の絵を眺めている時間が大好き。
ちょうどそこに、新生堂のN女史から次の個展用案内状のデザインが届いた。
画廊が、顧客の方々に送るのであろう。
へー、数ある作品の中から、この絵が使われたんだ、という、まずは、感想・・・。ほんと、人によって、好きな絵が違うところが面白いね。Nさん的には、これだったんだね。
案内状というものも、普段自分が貰う時には気づかなかったけれど、絵ハガキみたいで、いいものである。絵ハガキ、なるほど・・・、その手もあったか。

パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」

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パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」



午後、長谷川さんが今、フランスの画廊と交渉をしているのだけれど、その辺のことでランチ・ミーティングをやった。
実はぼくのパリ事務所がある地区もちょっとした画廊&骨董街で、カフェと画廊が入り組んでいる。
その一つに、パトリスが支配人を務めるカフェがあって、テラス席で向かいあい、ぼくらは仲良く、フィッシュ&チップスを頼んだ。
長谷川さん、仏語が堪能だから、フランスの画廊側との交渉がうまい。
まだ、いつ、どのような形で、やれるかわからないのだけれど、先方の空き状況というものもあるので、交渉中なのだ。
ま、とりあえず、画廊の一部の部屋での開催でもいいので、最初のスタート切りたいよね、ということになり、その実行部隊をマネージャーのMMと長谷っちの二人にやってもらっている。
長谷川さん、復活したので、事務所的にも助かっている。うちは完全フレックス制を導入しているので、みんな、自宅での作業が多い。そういう時代ですな。
まずは、フランスの絵の関係者へのお披露目をメインに考えた個展になりそうだから、別に、売れなくても、ぼくは気にならない。
逆に、インパクトを残せるものをやらなきゃ。
CNRSのフローリアン教授がこのプロジェクトに参加してくださることになったので、そこがね、心強い。マレ地区での開催を計画中だ。
どんどん、絵のプロジェクトが進んでいく。その速度にちょっと驚きもある。でも、何十年と描き貯めてきたから、変な言い方だけれど、作品がある。笑。
ジュース&ビールで乾杯をしてから、フィッシュ&チップスに齧りついた。サクッと、口の中で、はじける音がした。
「先生、ぼくはロンドンのフィッシュ&チップスより、パリの方が好きなんです」
「えええ、何が違うの?」
「フレンチフライが全然、違うでしょ。だって、フレンチフライだもの」
「なるほど(相変わらず、横柄な口のきき方であった、あはは)」
ぼくらは、笑いあった。静かないい時間が流れていく。
パリの二人の日本人のおやじ、二人でフィッシュ&チップスな午後、いいねー。仕事旅の行程の打ち合わせなどもやった。
ふと見ると、三四郎が足元にいなかった。う、寂しい~。

パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」

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パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
夏の個展会場の「新生堂」さんは、青山の骨董通りのちょっと入った場所にあり、周辺は住宅地なので、完全予約制になるみたいです。一回に、20人くらいずつ入ってもらい、中が迷路のように入り組んだ不思議なつくりの画廊なので、(一階、一階奥、地下、中二階、と四つの会場があります)順路に従ってゆっくり観てもらい、探検する感じで、絵を楽しめたら、最高ですね。
詳しい入場方法はまた、もうちょっとしたら、お話ししましょう。

辻仁成、ジャパン・引退・ファイナル・ツアーは。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
になります。
昨日から、各プレイガイドで発売中ですー。

そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

ええと、ラジオ、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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TSUJI VILLE

パリごはん日記「パリのフィッシュ&チップスがなぜ美味しいのか、わかった」

はい、そして、お知らせでございます。
5月26日は、エッセイ教室です。
文章というのは、簡単そうで、実に難しい。じゃあ、どうやったら、楽しいブログや日記やエッセイがかけるようになるのか・・・。そこです。
そんなエッセイを書きたい皆さんへの、熱血父ちゃん先生の勉強会になります。
講義を受けたい皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックください!(今までと少し登録方法が変わっております)
☟☟☟

“地球カレッジ”



自分流×帝京大学