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パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」 Posted on 2024/05/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、牡蠣とか魚介のパスタを作ってよく食べる。
海に近いところに住んでいるので、魚介の宝庫だからね、海のものには、お金がかからない。でも、都会じゃないので、寂しい時もある。
なので、パリと田舎を移動する二拠点生活を送っているけれど、そのうち、徐々に田舎生活にシフトしていくことになりそうだ。
ぼくの人生設計によると、この数年で、仕事をある程度整理し、人間関係が複雑にならないシンプルな暮らしへとシフトする。
というのも、面倒くさいことばかりなのだ。生きていると・・・。
人間不信になりそうな、毎日・・・、もめ事はもういらない。
寂しいけれどもめ事のない人生を選ぶのか、にぎやかで寂しくないけれどもめ事だらけの人生を選ぶのか、人間はある時に決めないとならない。
コロナワクチンのせいかどうか知らないけれど、最近、心臓をおさえて亡くなる知り合いが増えていて、やれやれ、次は俺かもな、と思う毎日である。
なので、もういいよ、人間関係の面倒くさい一生なんか、と思いはじめている。
終の棲家がどこになるかわからないけれど、そろそろ、そういうことも考えだしている。
パリじゃない、やっぱり、ノルマンディあたりかな、と思う。

パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」

パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」



友人のジャンフランソワがよく食べにくる。
奥さんと来ることもあるが、ふらっと、アペロをしに立ち寄って、持論を展開して帰っていく。
彼は、かつてパリの不動産王でもあった。
でも、一大決意をして、ノルマンディに拠点をうつし、自分の会社を売っぱらった。
運転手付きの生活を捨てて、今は、田舎で小さなホテルとか、AIRB&Bなどを経営している。
「テロが引き金になった。耐えられなかった。小さな息子がいて、家に帰ってくるまで、心配でならなかった。一時間おきに、子供の携帯に電話をして安否を気にするようになった。地下鉄やバスが怖かった。みんながテロリストに見え始め、妻に田舎への移住を相談したんだ。妻は嫌だ、と最初は拒絶した。でも、ぼくは必死だった。まず、5年くらい前に、海沿いに小さなアパルトマンを買った。そして、パリとこことを結んだ二重生活がスタートした。そのうち、妻が、ここを気に入ってくれるようになった。それが分かった時に、移住したい、と申し出た。数年前のことだ。一か八か、ある意味、賭けだったけど、苦しんでいるぼくを見かねた妻は、仕事をやめて、ぼくについてきてくれた。ぼくはパリジャン向けの小さな不動産屋をこの町で始めた。それは正解だった。みんな、パリから逃げたかったからだ。パリジャンの気持ちがわかるぼくは適任者だった。だから、物件が売れた。そのお金で、ぼくはアパルトマンを買い続け、それをセンスよく、パリジャンに好かれるような民宿へとアレンジを重ねていった。今では、サイドビジネスとして安定的な財源となった」

パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」

パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」



彼はまだ若い。
ぼくより、うんと若い。
でも、あくせくする人生を捨てて、田舎で、田舎という地の利を利用して、第二の人生をスタートさせたのだ。
この間、近くの村の「なんでも食材店」(ようは地元の人たちが作ったパンとかケーキとか野菜とかワインとかを売ってる変な店)に顔を出すと、レジ脇の椅子に腰かけ、店番をやっていた。
「何してんだ? こんなところで?」
「いや、暇だからさ、ここで油を売ってる」
客が「行者ニンニク」をもって入って来た。
「5ユーロね」
レジの音・・・。客が帰っていった。
「楽しそうだね」
「楽しいよ。パリでは人間関係でくたくたになった。お金はうんとあったが、人生はすり減っていた。でも、今は、ストレスゼロだよ」
「いいね」
「都会で頑張っても、人間はぜったいに成功しないように出来ている。小銭は稼げる。何億稼いでも、俺は心にゆとりがなかった。でも、今は、御覧の通りさ、友だちの店の店番をして、ビールを飲んでる。自分がやっているエアービーは、ずっと予約で埋まっている。ゲストに朝、パンを届け、彼らの愚痴を聞いて、ウインクをしてから、ぼくは海に行く」
「でも、刺激のない人生でいいの?」
「刺激はあるよ。妻も子供もいるし、同じように脱都会派の仲間たちがここにはおおぜいいて、文化度も高いから、楽しい」
「また、食べに来いよ。君の好きな牡蠣のパスタを作ってやるよ」
「いいね」
「あ、おれも行者ニンニク、一つもらうわ」
「もってけ、それは、俺のおごりだ」
ぼくらは笑顔で、別れた。

パリごはん日記「いつかは終わる人生だけれど、その日まで、どうやって生きるか、考えた」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
終の棲家、決めていますか? 10年後、どうします? 20年後、どうします? 30年後、あはは、もう、この星にはいないでしょうね、ぼくは、とっくに消えています。じゃあ、好きに生きた方がいいですよね。ストレスのない田舎の世界で。夜は真っ暗で、静まり返った世界だけれど、とっても落ち着きます。パリはエッフェル塔の傍だから、夜中もうるさいです。どっちがいいんでしょうね。あと数年で、人生の出口を見つけたいと思います。

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そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
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●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

自分流×帝京大学

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