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滞仏日記「パリのママ友ネットワーク、コロナトーク炸裂中」 Posted on 2020/04/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、シングルファザーのぼくだが、パリのママ友たち(45~55歳くらいまで)のワッツアップ(日本のラインに当たる)のグループチャットに参加している。男性として参加しているのはぼくだけ。男性に聞かれたくない話しもあるだろうに、なぜかメンバーなのである。会ったことのない人もいるし、どういう集まりか、いまだによくわからない。ともかく、ロックダウンで暇だから、社会勉強を兼ねてマダムたちとのチャットを楽しんでいる。ママ友チャットは、ロックダウン生活に関する情報収集源としても大いに役立つ。パリのマダムたち、男性とは違い非常に現実的でドライで本音で話すし微笑ましい。ぼくはどちらかというと傍観者だ。フランス語が下手だし、滅多に、会話に参加することはない。たまに自分の動画を送りつけて存在感を示している。主婦たちは普段いない夫が家にずっといるせいでストレスを感じているようだ。グループチャットは連日、暴言の連発、エビデンスがあろうがなかろうがお構いなしの噂トーク炸裂なのである。



アンヌ:ねぇ、昨日のフィリップ首相の会見聞いた? ロックダウンは一気に解除できないって、段階を経て少しずつ解除する方向性らしいわよ。
ソフィ―:感染者の少ない地域から順番に解除されていくかもしれないし、年代別で解除されるとか、抗体を持った人からになるとか、いろんな噂がある。
イザベル:抗体を持った人って、どういうこと? どうやって抗体持ってるか、わかるわけ?
ソフィ―:血清検査でわかるのよ。一度罹った人は抗体が出来て、数年は罹らないらしい。でね、ドイツでは抗体証明書を出すとか噂になってる。抗体証明書が発行された人は自由に出歩けるみたいな、いいな。抗体ほしい。一度罹っちゃえば、もう堂々と暮らせるんだから、かかる手もある。無症状の人も多いというから。
アンヌ:ソフィー、あんた、バカ?
ソフィ―:女は男に比べて重症化しにくいのよ。血液型はO型の人も重くならないって、噂だけど。私、O型だし、女だし、この中で一番若いし、かわいいし。
イザベル:地域別で解除のタイミングが違ったら困る。私たち、今ノルマンディーの家にいるのに、ノルマンディーが最後だったら、帰れないってこと?
ソフィ―:最後はパリでしょ?一番、感染者が多いんだから。むしろ、ノルマンディが最初でしょ、田舎だし、地域別なら。 
イザベル:ところでメラニー、体調どうなの?
メラニー:抗生物質貰ったから、昨日はよく寝れた。
アンヌ:検査してくれないの? まだ?
メラニー:私ぐらいだと軽症扱いで、検査してくれないのよ。でも、なんとなくだけど、臭いも感じなくなってきたから、間違いないかも。遠隔診察受けていて、抗生物質は出してもらえた。でも、さすがにクロロキンは出してもらえなかったなぁ。
辻仁成:すいません。横から失礼します。ご家族とか、お子さんとか、一緒に暮らしているんですよね、どうしてるんですか? ご家族と家の中で。罹ってる可能性高いのに?
メラニー:私だけ、部屋から出れない状態の家庭内隔離。主人が料理をして、子供たちの面倒みている。とりあえず、私は寝てる。このまま重症化しなければ、あと2,3日で完治かな、きっと。で、抗体をゲットできる。ユッピー(やった)。
レイラ:私も遠隔診察だったけど、今日、先生から、コロナじゃないって言われた。ただの風邪じゃないかって。紛らわしいよね。扁桃腺にもなるし、花粉症で咳が出る人もいるし、全部がコロナじゃないから、見分けがつかない。でも、メラニーはコロナね。



メラニーという人とぼくは会ったことがない。右岸に住んでいる人らしいけれど、疑いがあっても、今は、日本と同じでなかなかPCR検査をしてもらえない。日本のようにフランスには個人病院みたいなのはなく、主治医のキャビネに行き、問診をして、先生がその人にあった病院を紹介するシステムなのだ。でも、今はマスクもないし、これほど感染力の強いウイルスなので、最近は主治医もアプリをつかって遠隔診察を行っている。重症化していない患者はみんな自宅で隔離、経過観察となる。主治医の判断で、きっと呼吸困難になったりしたら、救急車が呼ばれるのだと思う。そういう密着番組が多い。ベッドも空いてないし、だから、逆を言えば、感染者数に入ってない陽性患者がいることになる。これは日本もどこも一緒だろう。症状が出ない人いるし、軽症の人の方が圧倒的に多い。日本も感染者が増えれば、同じような状態になる。日本は人口6千万のフランスより病床数が少ないみたいだし。

彼女らとのチャットをぼくは夕食を拵えながら楽しんだ。このチャットはある意味、今のフランス人の日常を観察する一番の取材でもあった。夕飯の時間が近づいてきたので、ソフィ―がみんなに、じゃあ、最後に今日身の回りで起きたいいこと三つを教えて、と提案した。これはなかなか可愛らしいチャットの締めくくりとなった。
メラニー:私の三つは、抗生物質が効いて楽になったからよく寝れたこと、楽しい電話が出来たこと、旦那が私の好物のトマトファルシを作ってくれたこと、かな。
アンヌ:私は、18時にスカイプでアペロしたこと、19時には兄弟たちと誕生日の妹にスカイプでおめでとう言えたこと、それと、昼食の後、娘が洗い終わった食洗器の食器を全部片付けてくれたことかな。
レイラ:私は、娘とネットでゲームをした(レイラは離婚して子供と暮らしてない)、溜まっていた仕事をテレワークで全て終えたこと、それと、今朝体重計に乗ったら変化がなかったこと、異常なし!ユッピー!(やった!)
イザベル:白髪の根本染めが上手に出来たってことが一番、恋人から(浮気中みたいです)ラブリーなメッセージが届いたこと、散歩に出たらたくさんの人が公園に出ていて昔を思い出して幸せだったこと。
ソフィ―:ちょっと、イザベル。それやばくない? マクロンまた激怒しちゃうよ。罰金が跳ね上がるし、だいたい、みんな、出過ぎよ。今週末くらいから来週にかけて感染のピークを迎えようって時なのに。絶対、やばいよ。
イザベル:今度の日曜日、22度になるのよ。しかもバカンス期なのよ、ずっと快晴なんだから、出たいじゃない。ソーシャル・ディスタンス保てば大丈夫よ。
辻仁成:皆さん、今は家にいてください。「家にいよう」が合言葉でしょ? それじゃ、いつまでも終息できないですよ。日本人を見習って、日本は政府が緊急事態宣言出さなくても、国民が真面目だから家にいようってお互い声かけあって頑張ってるんですよ。
アンヌ:さすが日本人、フランスじゃあり得ないわ。なんか、噂だけど、ロックダウンが5月末まで伸びそうなのよ。どう思う?
全員:マジ?

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