JINSEI STORIES
パリごはん日記「なぜ、フランス人は男同士でもキスをするのか」 Posted on 2024/05/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、急遽、田舎に行ってきた。
夏日で、25度もあり、ノルマンディの人々は浜辺でくつろいでいた。
ま、よくあることだけれど、ちょっとした工事があって、そのせいで、荷物を移動させないとならなくなったのだ。
友人のコリンヌとそのご主人のニコラに手伝ってもらい、いくつかの荷物を、地下のカーブ(といっても、建物の共有スペースなのだけれど)にうつした。
ぼくのアパルトマンは5階建ての最上階で、その上、エレベータがないので、ただ荷物を降ろすだけなのだけれど、これが相当に大変な大仕事となった。ふー。
汗をかいた。筋肉痛になった。外反母趾がやばい・・・。あはは。
手伝ってくれた二人にお礼をしないとならないので、作業のあと、ビーチに行き、ワインと魚介をつまんだ。
ノルマンディにおける魚介なんて、その辺に落ちているようなものだから、日本では考えられないくらいに新鮮で、しかも、超・安い。ま、ワインもね。
ぼくがなんで、ノルマンディに住んでいるのか?
そりゃあ、一年中、真夏でも、新鮮な牡蠣をただみたいな金額で食べることができるからだ。
ちなみに、ぼくはこのあたりでは、HITO、と呼ばれている。
チャールズの奥さんのミハーが言い出した。
ヒトナリという発音が、仏人には難しいのである。
Hの発音ができない。
いとなり、となる。
それじゃあ、かわいそうだ、ということになり、ミハーが、HITO、とHを強調して発音したのが最初・・・、そのまま、ずるずる、とぼくはここでヒトさんになった。笑。
ニコラとチャールズが親友だから、ぼくもその仲間になった、というわけだ。ちなみに、ニコラは消防士である。
ノルマンディで一番有名な消防士だ。
人命救助で表彰もされたことがある、という。
だから、頼もしいやつなのだ。
パリでもそうだけれど、ここでも、みんなによくしてもらっている。
というか、みんな日本人が好きだから、(だいたい、鳥山明さんのおかげなのだ)、ぼくがドラゴンボールとかの真似をやると、すぐに人気者になる!!!
コリンヌの娘がやって来た。学校が終わり、顔を出した。
二人は、キスをした。
渡仏したばかりの頃、一番驚いたのは、子供を学校におくった時のことだ。
仏人のお父さんが、その息子にキスをしていた。もちろん、フレンチキスじゃない。
チュッと、でも、唇にしたのだ。
お母さんが娘にもキスするし、お父さんとお母さんはけっこうしっかりとキスをする。
キスが上手な人たちであり、キスで、愛をわかちあうところが、日本人とは違う。
それを言うならば、チャールズとニコラもキスをする。おっと、とはいえ、唇にはしない。男の友だち同士だから、頬っぺたかな。
でも、最初は抵抗があった。
それでも、在仏歴22年の父ちゃんだから、チャールズの頬にチュッとすることもある。ま、ビズと呼ばれるようなものだけれど、ううう、髭が痛い。
女性の皆さんはこれ、大丈夫なのか、と毎回、思う。
ニコラはチャールズの二倍でかいし、髭ぼうぼうだから、痛いを通り越すに違いない。でも、まだ、ニコラとはビズをしたことがない。あはは。
その、親友にならないと、ビズもキスもしないかな・・・。その瞬間、つまり、自然とビズをする瞬間というのが、なんだろう、そこがフランス・タイミングとでも言うのかな。
チャールズより、先に、ミハーとは知り合った直後からビズをしている。男性は女性を敬う必要があって、ビズもできない男は、この国では生きにくいだろうねー・・・、みたいな感じになる。
でも、男性への男性からのビズにはその、ある程度の時間がかかるのだ。
ぼくがチャールズの頬に、チュッとやるようになったのは、ここ最近なのだ。
まず、半年くらい前に、ハグからはじまった。
ミハーにはビズ、チャールズにはハグ。
で、それを繰り返しているうちに、自然と、ビズになった。
ニコラは、2年後くらいかな。
コリンヌには、そろそろ、ビズかもしれない・・・。
ミハーは早かった。人によるし、もちろん、ビズをしない人もいる。
とくに、コロナの流行後、ビズは一時期、みんなやらなくなった。
でも、今は、戦前に戻った感じ。みんなビズをしている。
チャールズとミハーは大人のキスを、みんなの前でやる。
ぼくは羨ましい。
今に見てろ、とよく自分に言い聞かせている。
ま、焦らず焦らず。
えへへ。
荷物を運びすぎて、腰が痛いよー。
最上階の窓から、下界を見下ろした。
奔放初公開?、父ちゃんがいつも見ている我が家の海の景色だ。よかじゃろー。
画廊の個展に展示される海の絵は、すべてこの同じ色の海なのであった。
わかるかな?
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
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