JINSEI STORIES
退屈日記「緊急事態宣言とロックダウンの違いをおさらい」 Posted on 2020/04/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくはいつも滞仏日記を寝る前に一日の締めくくりとして書いている。で、日本の朝に、配信している。翌朝、余力のある時にこの退屈日記を書いている。寝ている7時間の間に世界は刻々と動いているので、緊急事態の今、必要なことを伝えるために、退屈日記はいわばセカンダリー的な意味合いで必要となった。共同通信によると「東京都内で新型感染者97人」という記事が出ていた。日本医師会が訴えていた危険レベルを超えたということだ。医療崩壊の兆しはすでに始まっているのかもしれない。
ニューヨーク市が3月7日に緊急事態宣言を発動した時、州内の感染者の数は76人だった。で、今日現在(4月2日)そのニューヨーク州の感染者数は8万人を超え(死者1941人)、中国全体の感染者数を上回っている。東京は今日一日で95人以上の感染者が出た。しかも強制的検査をしての数字じゃなく、症状のある患者が病院に運び込まれて出た数字である。なので、その後ろには相当数の感染者がいると思うべき。日本人がいくら清潔好きで、真面目であろうと、ある程度の感染爆発は免れない段階なので、先手先手で挑んだニューヨーク州でもこれほどの拡大になったということを鑑みると、緊急事態宣言発動が必要なタイミングはとっくに過ぎたと言わざるを得ない。医療崩壊が起きた後で後悔するのは誰でもできる。結局、オリンピックだって、国民が無理でしょう、と思っていた通りになったわけで、ぐずぐずしている間に出来たことは山ほどあった。医療崩壊おきるでしょう、と誰もが思っていた通りになったら、これはオリンピックの延期どころの騒ぎではない。でも、数字の推移を見ていると、極めて危険な状態であり、その心構えが政府にあるのか、が次の焦点になる。
ところで今更だけど、緊急事態宣言とロックダウンは一緒ではない。とくにフランスではロックダウンという言葉は使われない。コンフィヌモン(封じ込め)と呼ばれ、『外出の原則禁止、テレワークと自宅待機、生活必需品小売射販売店以外の店舗や事業の閉鎖、都市感での移動制限など』のいわゆる封じ込め政策を指す。ロックダウンという言葉は後付けなので、国や地域によって実は曖昧に使われている。うちの息子が「ロックダウンという横文字は日本のおじいちゃん、おばあちゃんに不親切な言葉だね」と言っていたが、誰にむけて使っている言葉かわからないせいで、緊急事態宣言とロックダウンが一緒くたになっている側面はある。日本の法特別措置法が規定出来るのは、外出の『自粛』要請とか、イベント開催制限の要請・指示どまり。フランスのように、不要不急の外出に罰金を科す強制力などはない。でも、緊急事態宣言が出れば、法的な背景が生まれるので、日本人は政府の方針に従う真面目な体質から、その宣言がロックダウン下に近い状態を形成する可能性があり、日本であれば、まずは緊急事態宣言でも有効かもしれない。少なくとも、3密を防ぐ有効な手段にはなる。日本政府がすでに水面下で用意周到な発動準備を整え終えていることを祈りたい。